[女子日本代表 選手紹介vol.6]渡嘉敷来夢 リオで進化する日本のエース

2016/08/16
日本代表
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文=小永吉陽子 写真=足立雅史、Getty Images
PROFILE 渡嘉敷来夢(とかしき・らむ)
1991年6月11日生まれ、埼玉県出身。193cmの長身で走って跳べる運動神経抜群のエース。萩原美樹子、大神雄子に次ぐ日本人3人目のWNBAプレーヤーとして、2年連続シアトル・ストームでプレー。昨シーズンはWNBAのオール・ルーキーチームに選出された。アジア選手権では2大会連続MVPを受賞。愛称はタク。

ディフェンスに開眼し、世界と渡り合う日本のエース

昨年、アジア選手権で2連覇を決めた時、渡嘉敷来夢はリオ五輪に向けてこう言った。

「日本のディフェンスと走りは、どこの国が相手でも通用する武器になると思います。オリンピックで日本の力を発揮するためにも、自分はこれからも日本の最先端を走り続ける覚悟でWNBAでやってきます。あと1年、自分もチームももっともっと成長しますよ」

1年前にエースが断言した通り、日本はリオの舞台でスピーディーな攻撃とタイトなディフェンスを前面に押し出し、各国を脅かす存在になっている。渡嘉敷自身も予選ラウンド5試合で平均17.6得点(4位)、7リバウンド(8位)と高い数字をマーク。有言実行で『最先端』を走り、日本のエースとして躍動している。

確率が上がってきたミドルシュートやドライブを決めてポイントゲッターとなっていることも大きいが、一番効果を発揮しているのはディフェンスだ。190cm台の選手を1対1で抑えられることにより、周りのカバーディフェンスの負担が減る効果は絶大だ。

トルコ戦やオーストラリア戦では、インサイドにやられてしまった反省はあるものの、それでも読みのいいスティールや強力なブロックショットで幾度もチームを救ってきた。これは今までの日本になかった心強い武器である。

渡嘉敷がここまでディフェンスに自信を持てるのは、やはりWNBAでの経験が大きい。

自分自身が成長することが日本代表の飛躍へとつながる――そんな誓いを持って挑んだWNBAでは、毎試合のように、自分と同等か、より大きな選手とフィジカルで競ることになる。そんな試行錯誤の中で渡嘉敷がプレータイムを得られたのは、冷静な判断力を持っていたからだ。シアトル・ストームのヘッドコーチ、ジェニー・ブーセックは渡嘉敷のディフェンス力を買い、相手のエース封じを命じることも多かった。昨年のアジア選手権の決勝でも自分より大きな中国の選手を完封し、WNBAのオール・ルーキーチームに選ばれたことからも、そのディフェンス力は証明されている。

「日本ではチームディフェンスで高さを防ぐけれど、アメリカでは1対1で守るので、ディフェンス力がついてきたのだと思います。自分はアメリカで得た1対1のディフェンスと、日本のディフェンスの良さがあるので、ヘルプポジションを守るのはアメリカ人よりうまいと思いますよ(笑)」

一戦ごとに成長するたくましさを見せている日本だが、ディフェンスの面白さに開眼したエースこそ、いちばんの『伸びしろ』を秘めた選手なのかもしれない。

190cm台の選手を1対1で抑えられる渡嘉敷がインサイドにいることは、日本ディフェンスにとって大きな助けとなっている。

2年目のWNBAで味わった試練をバネに五輪の舞台へ

そんな日本のエースもリオの舞台に立つ直前まで、試練のシーズンを過ごしてきた。さらなるパワーアップを目指して向かった先、2年目のWNBAでは想像以上の苦難が待ち受けていたのだ。全米大学チャンピオンであるコネチカット大のエースでオールラウンダーのブリアーナ・スチュワートが同じポジションに加入したことにより、プレータイムが大幅に減ってしまった。

1年目は平均20.6分のプレータイムを得たが、今シーズンは平均11.6分に減り、時には2分、4分と短時間で交替することもあった。もちろん、試合に出られなくともWNBAでは学びも刺激もたくさんある。だが、長い時間ベンチで戦況を見つめている今の状況は、以前、長期的に患った足の疲労骨折の治療以外では初めての試練だと言っていい。

リオのコートで見せる躍進は、WNBAで試合に出場できない『飢え』をぶつけていることも一因ではないだろうか。それでもいい。試練を乗り越えようとがむしゃらになることは、日本にいては味わえない苦労である。アメリカで痛感した悔しさは次なる自分に出会うための道のり。渡嘉敷は今、日本を勝利に導くエースの役割と果たすと同時に、自身の試練とも戦っているのだ。

国内では自分よりサイズの大きい相手と対戦する機会はほとんどない。「世界レベル」と戦う日常が日本のエースを大きく成長させた。

アメリカとの対戦、自分の力を試す時

ある意味、『因縁』とも言えるアメリカの選手たちとオリンピックで対戦する時が来た。準々決勝での対戦は避けたかったが、渡嘉敷にとってみれば、こんなに闘志を燃やせる相手はいない。アメリカの絶対的司令塔スー・バードと、将来のエースであるブリアーナ・スチュワートはシアトル・ストームのチームメート。マッチアップするのは203cmの怪物ブリトニー・グライナーか、それとも次々出てくるインサイドの仕事人たちか。誰が出て来ても豪華な顔ぶれは、想像しただけでもワクワクするではないか。

当の本人は燃えているばかりではなく、自分が何をすべきかわかっている。エースとして数字を残していることは確かなことであるが、自分の出来に納得していないところもあるからだ。

トルコ戦で相手のセンターに36点取られた時は「自分がマークマンにやられたのがいけなかった」と反省し、オーストラリアに逆転負けしたときは「200%勝てた試合、負けたら意味がない」と怒りをぶつけ、フランス戦で勝利しても「13点差以上での勝利を狙っていたので勝ってもうれしさがない」と悔しさを表した。

チームを勝利に導いてこそがエース。「まだまだやれる、もっとやれる――」。そんな心の叫びが聞こえてくる。

「日本のチームワークとスピードはどこの国にも負けていない。今の日本はフランス戦のように、誰かが抑えられても違う選手が点を取れることが強みになっています。アメリカとは少し早い対戦になってしまいましたが、やりたかった相手。WNBAで同じコートに立っている選手たちと対戦できることは、すごく楽しみ。あとは自分がやるだけです」

予選ラウンドでは平均36.2分もプレーしている。WNBAでゲームに出られなかったことを考えれば、非常にタフな状態が続いている。それでも、渡嘉敷にはアメリカの高さを一枚封じながらも、大事なところで得点を取ることに挑んでほしい。日本のエースとして、世界一の技量を誇るアメリカのインサイドとマッチアップすることは、それこそ、WNBAで経験しているものを凌駕するに違いない。自分自身、そして日本代表が、次へのステップへ進むために、渡嘉敷来夢はバスケットボール人生最大のチャレンジに挑む。

「WNBAで同じコートに立っている選手たちと対戦できることは、すごく楽しみ。あとは自分がやるだけです」と渡嘉敷はアメリカでの対戦に意欲を燃やす。
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