文=小永吉陽子 写真=足立雅史、野口岳彦、Getty Images
PROFILE 栗原三佳(くりはら・みか)
1989年5月14日生まれ、大阪府出身。入り出したら止まらない爆発的なシューターであり、ドライブや速攻でも活躍する。シュートを打つタイミングを研究し、バリエーションを増やした今は確率もアップ。ユニバーシアードに2回出場、2014-15シーズンに3ポイント賞を受賞。愛称はソウ。

ベラルーシ戦で6本の3ポイントを決めるまでの悔しい道のり

リオ五輪の初戦。予選ラウンド突破の命運を握るベラルーシ戦で、6本の3ポイントシュート(10本中6本)を含む20得点を入れ、弾けんばかりの笑顔とガッポーズを見せたのが栗原三佳だ。日本代表では3年目。どんなレベルの大会でもそうだが、国際大会は特に経験が必要な舞台である。栗原の場合も、これまでの悔しい2年間の経験を積み重ねてきたからこそ、ベラルーシ戦で輝くことができた。

昨年、リオ五輪をかけたアジア選手権での栗原は、全くと言っていいほどシュートが入らなかった。シューターとしてスタメンに抜擢されるも、初戦の韓国戦では3ポイントを4本打って1本も決まらず。2戦目に格下のインドとの対戦では9本中6本と調子をつかんだように見えたが、3戦目のチャイニーズ・タイペイ戦では再び0点(3本中0本)と復調の兆しがなかったことからスタメンを外され、その座を山本千夏に譲った。

予選ラウンドのヤマとなった中国戦では深刻とも言える7本中1本で3得点。決勝トーナメントに入っても栗原のシュートがネットを揺らすことはなく、35点差が付いた決勝の中国戦でようやく1本が決まっただけだった。栗原のスリーが決まった時、チームメートは自分のことのように喜んでくれたが、当の本人は申し訳なく思うばかりだった。

「オリンピックを決める重要な大会でスタメンになり、自分自身で勝手にプレッシャーをかけていました。何をどうやって打てばいいかも分からず、何で入らないのか分からないからリズムもつかめず、必死すぎて余裕がありませんでした」

シュートには波がある。誰だって毎回調子がいいわけではない。栗原が克服できなかったのは、シュートが入らなかったそのことより、一度落ちたリズムをどう立て直せばいいのか、その方法を見付けられなかったことだ。この課題を克服しないかぎり、オリンピック代表への道のりは遠いものだった。昨年の時点では――。

昨年のアジア選手権、決勝で中国を破り五輪出場権を手にしたが、栗原は大苦戦。ただ、「私のバスケット人生の分岐点でした」と振り返られる大会となった。

キャッチ&シュートからの脱皮

栗原は大阪薫英女学院高、大阪人間科学大出身で名将・長渡俊一監督(故人)の下で学び、大学までは3ポイントシュートや1対1で得点を稼ぐスコアラーだった。4年時にインカレで準優勝してそのシュートセンスを披露するが、一躍注目を集めたのは、トヨタ自動車入団後、ルーキーイヤーのオールジャパン(全日本総合選手権)のことだった。

決勝で3ポイント7本(11本中)を含む23得点をマークし、JX-ENEOSを倒してチーム初の優勝に貢献。先輩にもらったコートネーム、ソウの由来である『爽快シューター』を引っ提げ、一度乗ったら止められない爆発力あるシューターとしての存在を印象付けた。そして2年目の2014年に待望の日本代表入りを果たした。

しかし、ディフェンスが激しい国際大会ではそう簡単には打たせてもらえず、なかなか存在感を示せなかった。その理由を本人は「パスをもらってからでしか打てない、言ってみればキャッチ&シュートだけのシューターだったから」と話す。基準を国内から国際へと上げる。これこそが経験であり、栗原が代表で生き残るために科せられた課題だった。

「パスのもらい方の工夫や、パスをもらってからの判断、ドリブルからシュートを打つ方法、走り込んで打つ方法……いろんなことを練習してシュートのバリエーションを増やしたし、シュートが入らない時の修正を1シーズンかけてやってきました」

脱・キャッチ&シュートに取り組んだ昨シーズンの栗原は、数字だけみれば、前年に3ポイント王を受賞した43.98%から大幅ダウンの35.71%まで確率を落とすことになってしまうが、その試行錯誤はやがて生きてくる。完全に感触をつかんだのは、今年5月のオーストラリアとの強化試合。10分26秒のプレータイムをもらって、5本中3本の3ポイントを決めた2戦目のことだった。

「1戦目にあまりチャンスをもらえなかったので、シュートが入らない時に何をすればいいか考えて、ディフェンスやリバウンドで貢献しようと思ってプレーしました。去年と同じになるのは絶対に嫌だったので」というトライによって、徐々にリズムをつかんでいく。3戦目には9本中4本の3ポイントを決めて13得点。プレータイムを21分に増やした。栗原の上昇は、一戦目に39点差で大敗したチームを上向かせるきっかけにもなった。

「アジア選手権は私のバスケット人生の分岐点でした。シュートが入らない時にどうすればいいのか、それを考える修行の大会だったと今は思っています」

今年5月のオーストラリアとの強化試合、栗原は4本の3ポイントシュートを決めて感触をつかむとともに、最終メンバー入りに大きく前進した。

リオの舞台こそ、爽快シューターの出番

栗原が「修行だった」という昨年のアジア選手権は、栗原だけでなく、チームとしても3ポイントが低迷し、とくに予選ラウンドの韓国戦は15.4%、中国戦は7.1%と散々な数字だった。ようやく決勝で47.1%と爆発したが、3ポイントシュートに関しては課題を残した。

アジアではシューター陣が不調でも、走力で打開して勝利することができた。しかし舞台をオリンピックに移しては、高さでかなわないぶん、3ポイントシュートが生命線となる。栗原は「アジア選手権はみんなに助けてもらった」と言う。今度こそ、栗原の力が必要な時だ。

栗原はベラルーシ戦での手応えをこのように語る。

「リラックスして楽しむことができたので、力むことなくシュートが打つことができて良かったです。オーストラリアやヨーロッパ遠征で大きい相手と対戦の経験を重ね、しっかり意識して練習できていたので対応できていました」

今後はさらに手強い相手との戦いが待ち受ける。1戦目にこれだけシュートが入ればマークはさらに厳しくなるだろう。そんな苦しい状態に陥った時は「ディフェンスやリバウンドなど、目の前のやるべきことをやって、そこからリズムをつかんで修正していきます。そのために去年の修行があったので」と大会前に語っていた決意で臨む。

日本の勝利を目指し『爽快シューター』はリオの舞台で3ポイントを打ち続ける。

リオ初戦という大事なゲーム、吉田と栗原は最高のパフォーマンスを見せてAKATSUKI FIVEを勝利に導いた。

[女子日本代表 選手紹介]
vol.1 吉田亜沙美 NEVER STOP――キャプテンは進み続ける
vol.2 間宮佑圭 史上最強のインサイド陣を支える『我慢』の女!
vol.3 本川紗奈生 勝ち気な切り込み隊長、故障を乗り越えリオに挑む
vol.4 髙田真希 最強のシックスマン、リオで輝け!
vol.5 栗原三佳 修行の先につかんだリオでの『爽快シュート』