文=小永吉陽子 写真=Getty Images

躍進する日本は相手国を十分に脅かし、存在感を示している

「200%勝てる試合だったので、トルコ戦とはまた違った非常に悔しい気持ちです。出だしは良かったと思いますし、第3ピリオドは良いプレーができましたが、それを40分間やり続けなければいけません。最終的に勝たなければ意味がないです」

オーストラリア戦、最大16点リードから勝てる試合を落とし、エース渡嘉敷来夢は悔しさを募らせた。

第4ピリオドの日本はチームの柱である吉田亜沙美と渡嘉敷に疲労が見え、オーストラリアのゾーンを絡めたチェンジング・ディフェンスの前に攻め手を失った。何も仕掛けることができずに受けに回ったベンチワークもいただけない。

「こんな修羅場は何度も切り抜けている」と言わんばかりのオーストラリアの動じなさは、さすがFIBAランク2位と言うべきか。強みであるインサイドで徹底的に押しまくって大逆転するその姿は、逆に勝負強さを見せ付けられてしまったほど。日本は20年ぶりとなる決勝トーナメント進出を決めたものの、さらにワンステップ上に行けるチャンスをみすみす逃す悔しい敗戦を喫してしまった。

それでも、平均身長177cmの一番小さな日本の躍進ぶりは、相手国を十分に脅かし、存在感を示していると言っていい。

攻防の切り替えを速くするトランジションゲームは日本のお家芸だが、今大会のスピードは歴代最高ともいえる驚異的な速さであり、その中で正確なプレーを繰り広げている。その機動力でターゲットとしていたベラルーシとブラジルから勝利を挙げると、オーストラリア戦ではトルコ戦で走れなかった反省を修正し、これまで以上となるアップテンポなバスケを展開。そのリズムが40分間続かなかったことは次への宿題となったものの、大型で実績ある国々をスピードで斬り刻んで真っ向勝負する姿は実に爽快である。

速い展開と広い視野でアシストを繰り出している司令塔の吉田亜沙美、昨年までの課題だった3ポイントを要所で決め切る力をつけた栗原三佳、オーストラリア戦で縦に割って行くドライブで流れを作った本川紗奈生、粘りで相手国のセンターを抑える間宮佑圭、コートに出てきては役割を果たす髙田真希、町田瑠唯、近藤楓らセカンドユニットの仕事人ぶり。そして、このチームが4カ月間かけて作ったパズルの『ラストピース』としての効果をもたらしたのが、帰ってきたエース渡嘉敷来夢の存在だ。

「WNBAで自信をつけた」という相手の攻撃を遮断する読みのいいディフェンスでチームを支え、オフェンスではガード陣と的確な2対2を展開し、ドライブインで相手センターに対抗し、インサイドアウトの展開を作る。5月のオーストラリア戦、7月のセネガル戦を見ても分かるように、渡嘉敷が一枚加わるだけで、日本のチーム力はバリエーションが豊富になり、一回りグレードアップした。

これまで、オリンピックや世界選手権での日本は予選ラウンドの壁を超えられずに「あと1ゴール」、「あと1勝」のところで涙を飲んできたが、今回は決勝トーナメント進出のための過程であり、その道中で格上のオーストラリアから金星を奪うチャレンジに挑んでいた。試合をすればするほど、伸びていくその様子からは計り知れない可能性を感じさせ、成長するその過程をもっと見ていたいと思わせるチームになっている。

オーストラリアにはこれ以上ない悔しい敗戦を喫した。しかし、まだ順位を上げるチャンスは残されている。FIBAランク2位を慌てさせた手応えと、決して忘れてはならない悔しさを持って、フランスとの予選ラウンド最終戦に挑むしかない。

4カ月の準備期間をかけて作り上げたチームは、渡嘉敷という『ラストピース』を加えて完成に至った。

フランスに勝って3位以上で決勝トーナメントへ

最終戦で対戦するフランスはFIBAランク4位で、前回のロンドン五輪の銀メダリスト。昨年のヨーロッパ選手権では、決勝で伏兵・セルビアの勢いに飲まれて敗れたが、事実上の決勝と言われた準決勝でFIBAランク3位のスペインを破っている実力国だ。経験豊富なエースガード、セリーヌ・デュメルクと運動神経抜群のセンター、サンドリーヌ・グルダとのホットラインを軸とするチームで、ロースコアに持ち込むことも速攻に転じることもできる、ゲームコントロールに長けたチームである。

しかし、異変が起きた。フランスの心臓ともいえるデュメルクが大会3日前に負傷し、エントリー変更に至った。精神的支柱であり、フランスの象徴であるデュメルクを失ったチームはどこかピリリとせずに、ベラルーシには冷や汗ものの1点差の勝利、オーストラリアには良いところなく18点差で敗れている。ただし、トルコに対しては得意のロースコアゲームで39得点にねじ伏せる試合巧者ぶりを見せ、試合をしながら何とか立て直そうとはしている。

日本とは5月末のヨーロッパ遠征で対戦。そのときはフランスが活動開始時期で、グルダ抜きという状態ではあったが、日本が3点差で勝利した。FIBAランク的には格上の強豪でも、今回のフランスには付け入る隙は十分にある。

戦い方としては、ヨーロッパ選手権でセルビアが金星を奪ったようなトランジションゲームの勢いで先行することだろう。つまり、日本の目指す形で真っ向勝負するしかない。フランスが得意とするロースコアに持ち込まれると、ハーフコートで攻めるのが苦手な日本としてはトルコ戦の二の舞となってしまうからだ。ただし、オーストラリア戦を教訓とし、勝負所でこそベンチが動く積極性ある采配は必要とされる。いずれにしても、グループ2位の可能性を残した最終戦は熾烈な戦いとなるはずだ。

予選ラウンド4位を避ける勝利へのシュミレーション

最後に決勝トーナメントに向けたシュミレーションをしておきたい。

日本はグループAで2~4位になる可能性を残している。4位ならばグループBの1位、世界女王のアメリカと準々決勝で対戦することになる。3位か2位ならばスペインかカナダが濃厚なため、やはり何としてもフランスに勝ちたいところだ。

日本がフランスに勝ち、日本戦の前にあるブラジルvsトルコでブラジルが勝った場合は、3勝2敗の勝ち点「8」で日本とフランスが並び、直接対決の結果で日本が上回って2位となる。

日本がフランスに勝ち、トルコがブラジルに勝つと、3勝2敗の勝ち点「8」で日本・フランス・トルコが一勝一敗で並ぶ。その場合は当該チーム間の得失点差で順位が決定する。

日本がフランスに敗れた場合は、2勝3敗で勝ち点「7」。トルコの勝敗にかかわらず4位となる。トルコと勝ち点が並んでも直接対決で敗れているからだ。

今大会、確実な成長の階段をのぼっている日本に必要なのは、その頑張りが成果として現れる『結果』を残すことである。それこそが一番の自信となって、今後の日本代表を形成していく。今こそ、決勝トーナメント進出だけで終わらないその先へと、女子バスケの歴史を変えるチャレンジに挑む時である。

粘り強いプレーでインサイドを支える間宮(中央)、そしてセカンドユニットも総じて持ち味を発揮しチームに貢献している。
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