文=鈴木健一郎 写真=Kat Goduco Photography

バスケ界の頂点に君臨するアメリカのトップリーグ、NBA。バスケをプレーする者なら誰もが憧れる舞台だが、残念ながら日本人選手では田臥勇太が2004年に4試合プレーしたのが最初で最後。はるか高みにある「夢の舞台」であり続けている。だが、選手ではなくてもNBAの舞台に立つ日本人がいるのをご存知だろうか。アトランタ・ホークスのダンサーを務める阿武夏織は、華やかなコートからどんな景色を見ているのだろうか。

NBAはアメリカが誇るスポーツエンタテインメントの頂点。

(阿武)アメリカ4大スポーツの一つとして、エンターテインメントとしてすごいと思うのは、やはりアリーナ全体でお客さまを楽しませる仕組みがパッケージになっているところですね。先日のオフに、久々にダンサーではなく観客としてアリーナに行ったんです。それほどバスケが好きじゃない友達と一緒でしたが、「バスケってこんなに楽しいと思わなかった」と言ってくれました

その試合ではアメリカで流行っている出会い系アプリのコラボイベントをやっていて、ブースでは女性はプロのスタイリストによるメイク、男性は髭剃りができて、試合中でも外のブースにはたくさんの人がいて、身ぎれいになった男女が出会って一緒にバスケを見ていたり。イベントはマッチスポンサーによって毎回違ってバラエティ豊かです。試合を全く見ないでずっとイベントブースで遊んでいる人もいますね。アーティストのライブもあるんですが、その時にはみんなスマホをペンライト代わりにして、アリーナが一気にライブ会場に早変わりするんです。

あとは国歌斉唱もエンターテインメントの一つ。最後の高音パートを歌い上げるとアリーナ全体が歓喜しボルテージが上がるのを感じます。そこからプロジェクションマッピングでチームの映像を流し、選手入場と続くのですが、観客のテンションを上げるための音と映像の使い方が本当にうまいと思いますね。音楽も試合で重要なものの一つです。ホークスにはDJだけでなくキーボードプレーヤーがいて、オフェンスとディフェンスで音楽を変えて観客を飽きさせません。

ホークスのハーフタイムイベントと言えばロトの抽選会です。ホークスとコラボした抽選をそこでやって、当選したら200ドルとか300ドルがもらえます。プロジェクションマッピングでコート全体を使って抽選会をやるので、みんな盛り上がりますね。日本であるようなファン参加型のイベントも、もちろんあります。

あとは場内のスクリーンをうまく活用しています。観客席で踊っている人をランダムに映して、観客同士でダンスバトルをさせて、その勝敗をアリーナ全員の歓声で決める『ダンスジャム』というイベントがあります。私がNBAダンサーを目指すきっかけになった試合で、そのダンスキャムに私が映ったんです。一緒にいる友達のテンションも上がるし、周囲の知らない人までワーッと盛り上がってくれる。私自身もすごく楽しかったです。日本のバスケでも是非導入してほしいですね。

アメリカ人の観客は、「楽しませてもらおう」という受け身ではなくて、率先して騒いで楽しもうとしています。試合はもちろんですが、選手入場や国歌斉唱、私たちのダンスといった演出もそうですが、アリーナ内でのイベントとか、ミュージシャンのライブとか、アミューズメントパークに来たような感覚で、とにかくすべてを楽しんでいる印象です。

「日本人は楽しむのが下手」とは思いません。私は野球も好きなんですが、外野席にいるお客さんは試合を見るだけじゃなく、みんなで一緒に応援歌を歌ったりして応援すること自体を楽しんでいますよね。「いまだに野球のルールがよく分からない」と言っている友達がカープ女子になってSNSにその様子をアップしているのも見かけました。バスケに興味がない人に対して「観戦したい」と思えるきっかけをどれだけ仕掛けるかは大事なことだと思います。

阿武夏織(あんの・かおり)NBAダンサーのお仕事
vol.1「ファンに楽しんでもらうのが私たちの仕事」
vol.2「NBAを目指すと決めた瞬間」
vol.3「ダンスだけではNBAのコートには立てない」
vol.4「同じダンスは決して踊りません!」
vol.5「率先して騒いで楽しもうとする気持ちで!」