文=鈴木健一郎

バスケ界の頂点に君臨するアメリカのトップリーグ、NBA。バスケをプレーする者なら誰もが憧れる舞台だが、残念ながら日本人選手では田臥勇太が2004年に4試合プレーしたのが最初で最後。はるか高みにある「夢の舞台」であり続けている。だが、選手ではなくてもNBAの舞台に立つ日本人がいるのをご存知だろうか。アトランタ・ホークスのダンサーを務める阿武夏織は、華やかなコートからどんな景色を見ているのだろうか。

チアリーダーは自立した女性のロールモデル。

(阿武)試合当日はティップオフの4時間前に会場入りです。30分ほどのリハーサルをやってからメイク。それが終わるとアピアランスでお客さまのお出迎えに行きます。試合の30分前に控え室に戻って、試合に備えるという感じですね。

NBAダンサーをやっていて一番大変なのは、毎日変わるダンスを覚えること。ホークスのダンサーがレギュラーシーズンで同じ曲を2度やることは決してありません。連戦が続いたりすると本当に大変で、その後に長期ロードに出てくれると正直ホッとします。

あとは生活ですね。今でこそ慣れてきましたが、最初の頃は車もなく、徒歩と電車とバスで片道2時間かけて練習に通ったりして、それだけでぐったりしていました。金銭的にもカツカツで、栄養とかコンディションが……なんて考える余裕もありませんでした。

試合以外では、週に2度の練習があるんですが、ホームでの試合が続く時期には練習が追加されることもあります。それだけでは全く間に合わないので、平日は欠かさずスタジオに行くんですが、偶然チームメイトに出くわしたりして一緒に練習することもあります。チームのスポンサーになっているダンススタジオとジムがあって、そこでのレッスンを受けるような指示はありますが、あとはフリーです。

チアリーダーは自立した女性のロールモデルでなくてはいけないので、ホークスではメンバーになるためには学生、もしくは仕事をしているかも条件の一つになっています。私もエージェントに所属してダンサーやアシスタントとして働いています。

ホークスはどんなチームか……。突出したスタープレーヤーがいないチームですよね。コビー・ブライアントやレブロン・ジェームスみたいな選手がいないので、スター選手がお目当ての観客は少ないです。女性ファンに人気があるのはカイル・コーバーですが、コーバーが出てきたから会場がすごく沸くというわけでもなく。一見地味なチームです。その分、システムを生かしたバスケをするチームでもあります。

アトランタは移民の多い街で、ずっとここに住んでいる人が少ないのでファンが定着しづらいチームだと言われます。天気が悪ければびっくりするぐらいお客さんが入らなかったり。先日のレイカーズ戦ではラストシーズンのコービー・ブライアントを見ようと、会場中がレイカーズの紫一色で埋まりました。ウォリアーズ戦でも、ホークスのファンのほうが少なかったです。

でも、子供から大人までバスケを愛している人が多い街です。昨日もロゴのついた服を着ていたら「もしかしてチアリーダー? 昨日の試合は良かったよね!」と声を掛けられたのですが、そうやって話しかけられることも多く、街の人がチームの動向に注目していることを感じます。最高のプレーにはアリーナが揺れるほど歓声が上がったり、競っているとみんな立ち上がって応援する。コートから見るその光景は圧巻です。

アトランタは南部の文化が強い街で、都会な面もあるのですが、治安が良くないエリアもあります。ちゃんと場所を選んで車があれば日本人にとっても住みやすい街です。ホークスを見に来るNBAファンに試合以外で何かオススメするとしたら、是非スポーツバーに足を運んでもらいたいですね。時差があるので、ホークスの試合が終わった後は西海岸の試合中継があります。英語が話せなくてもバスケが好きなら仲良く一緒に盛り上がれますよ! 観光地もいいですが、地元のバスケファンと交流できるなんて楽しくないですか?

阿武夏織(あんの・かおり)NBAダンサーのお仕事
vol.1「ファンに楽しんでもらうのが私たちの仕事」
vol.2「NBAを目指すと決めた瞬間」
vol.3「ダンスだけではNBAのコートには立てない」
vol.4「同じダンスは決して踊りません!」
vol.5「率先して騒いで楽しもうとする気持ちで!」