文=深川峻太郎 写真=鈴木栄一

「シュッとした栗原さん」と「雄々しい雄子」さんを眺めて

3月12日に国立代々木競技場第2体育館で行われたWリーグ プレーオフ・ファイナル第3戦、JX-ENEOSサンフラワーズ×トヨタ自動車アンテロープス。取材者にあるまじきことかもしれないが、私は当初、ずっと栗原さんだけを見ているつもりだった。昨年7月の日本vsセネガル(国際強化試合)で初めて栗原三佳のプレーを知った私は、リオ五輪の活躍もテレビで見て、すっかりファンになっていたのである。

だって、3ポイントシュートを決めるときの栗原さんほどシュッとしたアスリートが、他にいるだろうか。私に言わせれば、「シュッとした」という形容句は栗原さんのためにあるようなものだ。あれ以上シュッとしたら、たぶんジャコメッティの彫刻作品になってしまう。いわば彫刻寸前なのだから、人間としては究極のシュッとした姿であろう。

残念ながら、この試合の栗原さんはあまり活躍できなかった。彼女だけ見ていると、どんだけボールのないところで走っているのかがよくわかって感心したものの、JX-ENEOSのキャプテン吉田亜沙美にしつこく追い回されたりなんかしたこともあって、3ポイントシュートは8分の1と低調。第3クォーターにはJX-ENEOSの渡嘉敷来夢と衝突した際にどこか痛めたらしく、ベンチで過ごす時間も長くなってしまった。もっとも、あれは渡嘉敷のほうがダメージが大きかったけどね。床に倒れた渡嘉敷の巨体をスタッフ6人がかりで担架に乗せるシーンも、かなり見応えがありました。

しかしこの試合には、栗原さんの他にも、私の目を奪った選手がいた。この連載を継続的に読んでくれている人はおわかりだと思うが、私には、まず選手のヘアスタイルに注目する癖がある。琉球ゴールデンキングスの波多野和也(アフロ)、千葉ジェッツの富樫勇樹(テッカテカ)に続いて私が放っておけなかったのは、言うまでもなく、トヨタの大神雄子だ。

あのヘアスタイルを見てから「トヨタの1番て誰?」とメンバー表を確認したら、名前が「雄子」だったので、ひどく感動した。栗原さんが究極の「シュッとした」なら、こちらは究極のボーイッシュである。あれ以上ボーイッシュにしたら、たぶん瀬戸内寂聴になってしまう。いわば出家寸前なのだから、まあ、ある意味で究極といって差し支えないだろう。

バスケットボールには「部活っぽさ」がよく似合う

その大神、プレーも雄々しかった。「雄々しい」という表現も昨今はポリコレ的にどうなんだという話になるんだろうが、なにしろ親御さんのつけた名前が雄子なんだから「雄々しい」でよかろう。

特に、28-56のダブルスコアで迎えた第4クォーター、序盤から立て続けに決めた4本の3ポイントシュートは圧巻。75-51という最終スコアだけ見ればワンサイドゲームだが、9連覇中の王者JX-ENEOSに食らいつき、最後まで倒すことをあきらめなかった大神の迫力が、この決戦を引き締めてくれた。

大差で負けた試合後も、大神率いるトヨタは清々しかった。泣いたりうなだれたりすることなく、みんなで輪になって声を上げるルーティーンを笑顔で連発。Wリーグ優秀選手の表彰の際も、よそのチームの表彰選手を取り囲んで盛り上がっていた。

もしかしたら、負けたチームが表彰式でキャーキャーとはしゃぐ姿を苦々しく感じるスポーツファンもいるかもしれない。別の競技の話だが、サッカーでは、98-99シーズンの欧州チャンピオンズリーグ決勝でマンチェスター・ユナイテッドに大逆転負けを喫したバイエルン・ミュンヘンのマテウスが、準優勝メダルを首から外したのが話題になった。「あれこそ戦う人間のあるべき姿」と称賛する声が多かったと記憶している。

でもトヨタの皆さんだって、負けて悔しくないはずはない。それでも明るく振る舞う姿を見ていたら、やっぱりアスリートは爽やかなのが一番だよな、と私には思えたのだった。

そう思えるのは、バスケには「部活っぽさ」がよく似合うせいかもしれない。前々回のこのコラムで書いたとおり、昨年のウインターカップのときも、高校バスケの「スラムダンク風味」が私には楽しかった。勝っても負けても、選手たちが成長すればそれでいい。私自身、親として息子が中学・高校のサッカー部で勝ったり負けたりしながら逞しくなる姿を見てきたので、そういうのにグッときちゃうんですよ。バスケはそれを大事にしたほうがいいと思う。

『にわか』が気付いたバスケの真髄「出だしが大事」

見事にシーズン無敗で9連覇を達成したJX-ENEOSのほうも、試合後のインタビューや記者会見では、スラムダンク的な部活っぽさが感じられた。

これを最後にチームを去るヘッドコーチのトム・ホーバスは、まさに安西先生を思わせるような包容力とカリスマ性の持ち主だ。あの優しい目と柔和な口調で「練習が足りているか自問自答しなさい」なんてことを言われ続けたら、私だって〆切を守る立派なライターになってしまうかもしれない。

その薫陶を受けた吉田や間宮佑圭も、口を揃えて「トムのバスケ」をいかにやり切るかを考えていたという。これだけチームが強いと気の緩みも生まれそうなものだが、ヘッドコーチの下で「昨日より今日、もっといいバスケをやる」という目標がモチベーションを支えた、という宮澤夕貴の言葉も印象に残った。

ちなみにこの試合で自分の成長を感じたのは、選手たちだけではない。「にわか」の私も、バスケファンとして少しは見る目が肥えてきたようだ。

というのも、私は第1クォーターのティップオフから数分間で、「JXは試合の出だしに勝負を懸けてきたな」と思った。いや、最初にそんな気配を感じたのは、試合前のウォーミングアップだ。やたら激しくダッシュをくり返して、息ゼーゼーハーハー、汗ダラッダラになっている吉田の様子に、ただならぬ覚悟を感じたのである。

実際、のっけから凄まじく集中力を高めたJX-ENEOSは、強烈なディフェンスでトヨタの攻撃を封じ込め、わずか3分弱のあいだに7-0とした。振り返ってみれば、その時点で勝負はついていたともいえるだろう。

で、試合後の会見では、感想を求められたヘッドコーチのホーバスが開口一番、「今日は出だしがすごい大事だと思っていたけど、ジャンプボールに負けたでしょ。今シーズン2回目ぐらいだから、ちょっとショックだった(笑)」とのコメント。ジャンプボール取られてヘコむぐらい立ち上がりに懸けていたことがわかったので、私は記者席で大きく頷きながら、「オレもちょっとわかってきたじゃないか」とニマニマしていたのだった。ま、誰が見てもそうなんでしょうけどね。

JX-ENEOSを去るホーバスさんは、次に女子日本代表監督になられるとのこと。私も彼の言葉を追いかけながら、2020年までには「にわか」の肩書きが外れるよう、選手たちと共に成長していきたいと思った次第であります。いつまでもヘアスタイルばっか見てるわけにもいかないし。

にわかファン時評「彼方からのエアボール」
第1回:最初で最後のNBL観戦
第2回:バスケは背比べではなかった
第3回:小錦八十吉と渡邊雄太
第4回:盛りだくさんの『歴史的開幕戦』に立ち会う
第5回:吉田亜沙美がもたらした「大逆転勝利」
第6回:フラグなき逆転劇と宇都宮餃子
第7回:杉並区民の『地元クラブ』探し、今回は井の頭線ぶらり終点下車
第8回:ウインターカップとスラムダンク的自己啓発
第9回:Bリーグ初のALLSTARはバスケの『余興的エンタメ性』が炸裂!