にわかファン時評「彼方からのエアボール」第8回:ウインターカップとスラムダンク的自己啓発

2016/12/29
Bリーグ&国内
302

文=深川峻太郎 写真=小永吉陽子
著者プロフィール 深川峻太郎(ふかがわ・しゅんたろう)
ライター。1964年生まれ。2002年に『キャプテン翼勝利学』でデビューし、月刊『サッカーズ』で連載コラム「お茶の間にルーズボール」を執筆。中学生の読者から「中身カラッポだけどサイコー」との感想が届いた。09年には本名(岡田仁志)で『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日本代表の苦闘』を上梓。バスケ観戦は初心者だが、スポーツ中継を見始めると熱中してツイートしまくるタイプ。近頃はテニス観戦にもハマっている。月刊誌『SAPIO』でコラム「日本人のホコロビ」を連載中。

Bリーグに対する「なーんかスラムダンクと違うよね」

2016年は、私にとって「バスケ元年」であった。完全シロートの私になぜかこの連載の打診があったのが、今年3月のこと。図々しくも喜んで引き受けた私は、まず未読だった『スラムダンク』を全巻オトナ買い&一気読みして(遅ればせながら)感涙にむせび、バスケワールドの一端を理解したつもりになったのだった。

その意味で、高校バスケ日本一を決めるウインターカップは今年の取材を締めくくるのに大変ふさわしい。年末にこんなビッグイベントがあることさえ知らなかった私だが、自分の原点である高校バスケの世界をリアルに体感するには絶好の舞台だ。

実のところ、9月に開幕したBリーグには「なーんかスラムダンクと違うよね」という漠然とした違和感を抱いていた。まあ、あっちは漫画なんだから違って当たり前なんだが、たとえば『巨人の星』とプロ野球、『キャプテン翼』とJリーグのあいだには感じたことのないモヤモヤが、そこにはある。そのモヤモヤの正体を明らかにするためにも、23日(初日)と28日(女子決勝の日)の2日間、東京体育館に朝から夜までどっぷりと浸ってみたわけです。

初日のメインアリーナは3コート同時進行なので、どこをどう見ればよいやらわからずオロオロしたが、あちこち浮気しながら何試合か眺めているうちに、私はBリーグと高校バスケのきわめて大きな違いに気がついた。それは、コレである。

「高校バスケにはチアガールがいない」

……べ、べつに、それが不満だとは言ってないからねっ。もちろん、スタンドには、全力で仲間をチアする各校のガールズが山ほどいる。ときおり清らかな歌声で応援ソングを聞かせてくれたりして、それはそれはケナゲで美しく、心が洗われた。

だが、ポンポンを持って盛大に笑顔を振りまきながら踊る例のあのチアリーダーの姿は、どこにも見当たらない。これは意外だった。高校野球のスタンドにはいるのだから、より相性のいいバスケは高校生チアリーダーが甲子園以上に大活躍するだろうと思っていたのに、スタンドにいないばかりか、タイムアウトにもハーフタイムにも出てこない。

最初は「女子の試合だからかな」と思ったが、男子の試合が始まっても同じだった。ドンチャカドンチャカという派手なリズムがスピーカーから大音量で流れることもない。聞こえてくるのは、ドスの利いた男子の野太い声援と、「ドドンがドンドン!」という古風な太鼓の響きである。いずれにしろ、バスケ特有のあのケバケバしいアメリカン・テイストが、ウインターカップの会場ではまったく感じられない。

その代わりに目についたのが、スタンドに貼り出される各校の横断幕だ。「努力は素質を超える!」(足羽)、「集中・正確・粘り」(洛南)、「走破~練習は嘘をつかない」(柴田女子)、「信頼 感謝 努力」(松江商業)、「心繋輪」(龍谷富山)、「今を頑張る!」(旭)、「努力の上に花が咲く」(中村学園)、「一心」(帝京長岡)などなど、そこに大書された言葉から、それぞれの校風や価値観などが垣間見えて面白い。「自彊」(いなべ総合)なんて、読み方もわからなかったから勉強になりました。「じきょう」と読むのである。意味は各自、辞書で調べるように。

「無限なる努力」(一関学院、東京成徳)、「やる気の鬼になれ!」(四日市工業)あたりは、書類送検された電通の一件をつい想起して胸が苦しくなったりもするわけだが、それはそれとして、「逃げる」とか「恥」とかは絶対に出てこないこの前向きな言葉の数々こそ、高校スポーツの醍醐味であろう。「あきらめたらそこで試合終了ですよ」に代表される名言・格言の宝庫であり、しばしば自己啓発書的な読み方もされる『スラムダンク』の世界とも、よく似た匂いがする。

ちなみに、手に汗を握る大接戦となった女子決勝は、横断幕対決も見応えがあった。「爽やかに、たくましく、そして華麗に」(桜花学園)vs.「燃えよ 走れ 娘たち」(岐阜女子)。じつに凛々しいタカラヅカ風味である。

高校バスケとBリーグの間にある『文化的な断絶』

もっとも、試合後のコート・インタビューに応えた桜花学園の井上眞一コーチは、その華やかさを一発で吹き飛ばしてましたけどね。「10点差以上つけるつもりだったのに、選手が言うことをやらなかった。このチームはダメ」などと、優勝したのに超ロー・テンションのボヤキ節。ノムさんかと思ったわ(顔もちょっと似てますよね)。

「負けた岐阜女子の気持ちも考えろ」と言いたくもなるし、絶大な包容力を見せる安西先生とは正反対のスタイルだが、こういう嫌われキャラの指導者も、高校スポーツには欠かせないスパイスであろう。その後にインタビューを受けた桜花学園の選手たちは、コーチの激辛コメントなんか少しも意に介さず、あっけらかんと喜んでいた。安西先生のアゴ肉をタプタプと弄ぶ桜木花道のように、彼女たちも舞台裏では井上コーチのああいうキャラ設定にツッコミを入れて遊んでいるのかもしれない。

ともあれ、私がBリーグに抱いていたモヤモヤの正体はわかった。もしかしたら、ウインターカップの会場に詰めかけた高校バスケファンの多くも、Bリーグ(というかプロのバスケ)を支配するアメリカンなケバケバしさに、私と同じようなモヤモヤを感じているのではなかろうか。

「日本ではマイナースポーツ」などと言われるバスケだが、中学・高校の部活の世界では野球やサッカーと遜色ないスケールで盛り上がっているし、競技人口も多い。ウインターカップの集客力にも驚いた。選手の家族をはじめとするチーム関係者が大半を占めるのだろうが、競技の底辺が広いのはたしかだ。しかし、それがBリーグのファン増加にはつながらないのが悩みの種だと聞いたこともある。

この高校バスケの熱気がBリーグ活性化に直結しないのは、両者のあいだに文化的な断絶があるからではないか。いや、だからって、「Bリーグからチアリーダーを排除せよ!」なんて言いたいわけではありませんよ(だって見たいし)。ただ、東京体育館を覆っていた少しばかり暑苦しいスラムダンク的自己啓発色を、Bリーグでも何らかの形で押し出してみたらどうかとは思う。

高校バスケで育ったBリーガーの多くも、そのほうが自然体でプレーできるかもしれない。どうもBリーグの演出を見ていると、「チアに囲まれながら華麗に入場」的なアレが、選手をヨソ行き状態にしてるような気もするのである。

ところで私自身は、好ゲーム続出のウインターカップ初観戦でますますバスケが好きになったと同時に、ニッポンの高校生のことが好きになった。

前回も書いたとおり、私は東京の井の頭線沿線で暮らしているので、ふだん目にするのは渋谷と吉祥寺のあいだに生息する高校生ばかりだ。都会の高校生のグダグダした生態を見ていると、正直、「大丈夫なのか将来のニッポンは」と暗澹たる心持ちになることも多い。ま、おっちゃんの高校時代も似たようなモンだったけどな。

だが、全国各地から集結したバスケ女子やバスケ男子は、応援団も含めて、みんな素直で明るくて、生きるのが楽しそうだった。このところの日本は「若者の生きづらさ」みたいな話ばかり聞こえてくるが、東京体育館では「元気ハツラツ」という言葉を久しぶりに思い出しましたね。この国には、まだ、ちゃんと青春がある。来年も、必ず見に行こう。年末の楽しみがひとつ増えたのが、うれしい。

編集部注:ウインターカップの会場には、井上雄彦先生直筆のイラストが描かれた『スラムダンク奨学金』のポスターが掲示されていた。今大会に出場した福岡大学付属大濠の鍵冨太雅選手は、卒業後に『スラムダンク奨学金』の奨学生として渡米し、セントトーマスモアスクールにおいて学業とバスケットボールの研鑽に励むことが決まっている。

にわかファン時評「彼方からのエアボール」
第1回:最初で最後のNBL観戦
第2回:バスケは背比べではなかった
第3回:小錦八十吉と渡邊雄太
第4回:盛りだくさんの『歴史的開幕戦』に立ち会う
第5回:吉田亜沙美がもたらした「大逆転勝利」
第6回:フラグなき逆転劇と宇都宮餃子
第7回:杉並区民の『地元クラブ』探し、今回は井の頭線ぶらり終点下車
第8回:ウインターカップとスラムダンク的自己啓発