文=深川峻太郎 写真=吉田武
著者プロフィール 深川峻太郎(ふかがわ・しゅんたろう)
ライター。1964年生まれ。2002年に『キャプテン翼勝利学』でデビューし、月刊『サッカーズ』で連載コラム「お茶の間にルーズボール」を執筆。中学生の読者から「中身カラッポだけどサイコー」との感想が届いた。09年には本名(岡田仁志)で『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日本代表の苦闘』を上梓。バスケ観戦は初心者だが、スポーツ中継を見始めると熱中してツイートしまくるタイプ。近頃はテニス観戦にもハマっている。月刊誌『SAPIO』でコラム「日本人のホコロビ」を連載中。

くつがえされる「おおむね45センチ」

連載一発目の前回は、人生初のライブ観戦となったNBLファイナルのことを書いた。今回も現場取材だ。なかなか熱心だ。人生二度目のライブ観戦は、女子の試合である。

7月5日、とどろきアリーナで行われた川崎市南部選抜×東部選抜の一戦。何だそれは。小学生のミニバスです。いきなりマニアックなことになってしまったが、無論、それがメインではない。日本×セネガル(国際強化試合)の前座イベントである。記者席には私しかいなかったが、にわかファンはあらゆるバスケを見て謙虚に学ばなければいけない。

試合は大差で南部選抜の勝利。ごめん、スコアは忘れちゃった。技術や戦術のことは私にはよくわからないが、この年代は「ボールへの貪欲さ」が勝敗をいくらか左右するようだ。東部選抜には、ボールのつかみ合い(ヘルドボールっていうんですか?)などを遠慮して、つい相手に譲ってしまう控えめな女子が目立った。自分の娘だったら、「うんうん、おまえはやさしい子だな」と頭を撫でちゃうかもしれんけど。

初観戦のミニバス、見た感じではそんなに「ミニ」な印象は受けなかったが、ゴールはふつうのバスケよりも45センチ低い。身長に合わせてちょうどいい縮尺になっているから、違和感がないのだろう。いままで具体的な数字で考えたことがなかったけど、人間の大人と子供のあいだには、おおむね45センチの身長差があるということかもしれない。

だが、それはあくまでも「おおむね」である。前座の試合が終わり、セネガル代表チームが場内に姿を見せた瞬間、私はおののいた。デカい。デカすぎる。日本の小学生の二倍ぐらいあるように感じてしまった。ミニバスを見た直後なので遠近感がおかしくなり、セネガルの選手たちがものすごく近くにいるように感じる。なんか怖い。資料を見ると、セネガルは190センチ以上の選手が4人。202センチも1人いる。一方の日本は、渡嘉敷来夢(193センチ)が不在なので、全員190センチ未満だ。

「こんなん、勝てそうもないじゃん…」

私は呻いた。ミニバスのゴールが45センチ低いなら、セネガルが狙うほうのゴールは10センチぐらい高くしてくれないものか。いや、それじゃ日本がディフェンスで不利になるから意味ないか。じゃあ、一体どうすればいいのだ。どうしようもないっす。

勝っても悔しそうなキャプテンは頼もしかった

とか何とかブツブツ言ってるあいだに試合は始まり、すぐに私の心配が杞憂にすぎないことがわかった。スピードやシュートの精度などでセネガルを上回る日本は、第1ピリオドだけで7点差をつけて試合を優位に進めたのである。バスケは身長だけでやる競技ではない。そりゃそうだ。身長だけでやる競技なんて、たぶん背比べだけである。とりわけ私の目にカッコよく映ったのは、身長165センチのキャプテン・吉田亜沙美だ。自陣からドリブルで疾走するスピード感と攻撃性は、まるでヒョウのようだった。きっとヒョウ柄が似合うと思う。

結局、日本は一度もセネガルにリードを許すことなく、81-71で勝利。あんなにデカいアフリカ王者を圧倒したので、にわかの私はすっかり感激してしまった。ところが試合後の記者会見では、監督も選手たちも表情が険しい。どうやら失点やターンオーバーが多すぎたことが気に入らないようだ。

なるほど。セネガルも日本と共にリオ五輪に出場するが、おそらくメダル争いのライバルというほどの存在ではないのであろう。勝ったのにめちゃくちゃ悔しそうな表情を見せていた吉田キャプテンは、実に頼もしかった。

セネガルはこの試合の2日前に来日したばかりだったので、徐々に調子を上げていくのかと思いきや、8日の第2戦は83-54、9日の第3戦は84-38と、むしろどんどん点差を広げる形で日本が3連勝。初戦でターンオーバーが多かったのは、吉田によれば「相手の腕の長さに慣れていなかった」のが一因のようだが、試合を重ねるごとに日本がそれを克服したに違いない。2~3戦は見てないからわかんないけど、そうだとしたら、リオ本番に向けてたいへん有意義な強化試合だったのではなかろうか。対戦相手、きっとどこも腕が長いんでしょ? リオでの女子代表の戦いぶりが楽しみである。

郷に入れば郷に従え(移民だけに)

ところでこの試合、私はオノレの未熟さを痛感させられた。記者席の真横にあるスピーカーの爆音が気になって、なかなか試合に集中できなかったのである。なにしろ試合中もずっと音楽がガンガン鳴っているし、この試合は場内アナウンスもあった。日本の攻撃時は「レッツゴー!」、セネガルの攻撃時は「ディーフェンス! ディーフェンス!」などとあからさまに日本贔屓なので、「せっかく来てくれたセネガルに失礼なんじゃね?」と心配にもなる。

大好きなレッド・ツェッペリンの『移民の歌』がかかったときはちょっとテンション上がったが、ロバート・プラントの「アアア~」が始まるやいなや別の曲に切り替わったのでズッコケた。聴かせろよ。それをかけたなら、最後まで聴かせろ。

だが、それがバスケ文化の一端なのであれば、私の勝手な価値観を主張しても仕方がない。郷に入れば郷に従え、である。これを克服しなければ、私のバスケ観戦に未来はない。実際、同じ記者席にいらしたみなさんは、あの大音量に耳をふさぐこともなく、「いいパスだね~」などと感想を漏らしながら平然と取材をしておられた。私も見習わなければいけない。でも、次からは耳栓を持参しようと思ってもいる。

にわかファン時評「彼方からのエアボール」
第1回:最初で最後のNBL観戦
第2回:バスケは背比べではなかった

マッチレポート 日本81-71セネガル(7月5日 とどろきアリーナ)
セネガルとの国際親善試合初戦、日本代表が隙のないプレーで快勝