ジョエル・エンビード

フランス代表の関係者が猛烈批判「失望している」

現地7月31日の南スーダン戦、アメリカのジョエル・エンビードはプレーしなかった。指揮官スティーブ・カーは初戦のセルビア戦でジェイソン・テイタムとタイリース・ハリバートンを出場させず、「40分間の試合で10人を超える選手を起用するのは難しい」と説明している。

今回の起用法を指揮官はこう説明している。「南スーダンは今大会で最もスピードのあるチームで、ロンドンでの強化試合では14本もの3ポイントシュートを決められた。だから今回はスイッチしながら前に出るディフェンスをするためにラインナップを変更した。対戦相手に応じて最も理にかなったラインナップを起用するのが我々のやり方なんだ」

南スーダンはウイングに強力な選手が多い一方で、ゴール下をシンプルな高さとパワーで攻めてくる選手はいない。それでエンビードよりもアジリティに優れて守備範囲が広いバム・アデバヨのプレータイムが伸びたのは「理にかなった」起用法であり、実際に結果も出た。

スター選手が揃うアメリカ代表において、特定の選手がどれだけプレーするかが話題になるのをカーは好まない。その一方で、豪華な戦力を擁するチームにおいて過度に注目されることが避けられないのも理解している。エンビードは強化試合でこそ低調なスタートを切ったが、本大会に合わせて調子を上げている。南スーダンとの試合で出番はなくても、それが序列として確定したわけではなく、「理にかなった」場面では起用されるだろう。

エンビードについてそれよりも心配なのは、地元フランスで強烈な敵意に直面していることだ。初戦に続いて今回も、エンビードが試合前のコートに姿を見せただけで盛大なブーイングが起きた。試合に出場していたら、同じようにブーイングされていただろう。

彼がフランスのバスケファンに敵視されるのには理由がある。エンビードはカメルーンで生まれ、10代半ばから生活の拠点をアメリカに移した。彼にフランスに居住した過去はないのだが、NBAで台頭するようになってからこれまでの間、フランス代表でプレーすることが『当確』と見られた時期があった。

2022年にエンビードはフランス国籍とアメリカ国籍を相次いで取得。国際大会に出場した経験がなく、カメルーンを含む3カ国から代表チームを選べる立場にあった。そこで結局は自分が長年暮らし、息子がアメリカ生まれであることからアメリカ代表を選択したのだが、これに怒ったのがフランス代表の関係者だった。

フランスバスケットボール協会のジーン・ピエール・シウタ会長は、自国メディア『レキップ』にエンビードの裏切りを告発している。「我々から彼の代表入りを要請したのではない。フランス代表でプレーしたいと彼が要望したのを受けて、我々は彼がフランス国籍を取得できるよう当局に働きかけた。多くの時間と労力を無駄にしたことに失望している」

エンビードにも言い分はあるのだろうが、表立った反論はしていない。今年に入ってもシウタ会長やボリス・ディアウGMはエンビードを批判しており、それを受けてフランスのファンがエンビードにブーイングを送っている、というわけだ。

いずれにしても、トップレベルでプレーする以上はファンやメディアからのプレッシャーと無縁ではいられない。ただエンビードにとって懸念すべきは、この敵意は序の口に過ぎないかもしれないということだ。アメリカがそうであるように、フランスも2連勝でグループリーグ突破を決めた。いずれ両者の対戦が実現する時、エンビードに向けられる敵意は何倍にも膨れ上がるだろう。

ただ、NBAでは個人タイトルは獲得していてもチームでは無冠で、プレーオフではファーストラウンド突破しか経験しておらず、『プレッシャーに弱い』というレッテルを貼られてもいるエンビードにとって、今回はそれを払拭するチャンスとも言える。セブンティシクサーズでは彼の負担が大きく、どのシーズンも最後は燃え尽きるような形で倒れるが、アメリカ代表は選手層が厚く、コンディションに不安なく戦うことができる。そして南アフリカとは違い、フランスはゴール下の高さに強みのあるチーム。そこで「理にかなった」ラインナップとなればエンビードが優先してコートに立つことになる。

エンビードにとって、代表選択に端を発するこの騒動は迷惑な話かもしれない。それでも、金メダル獲得にはフランスは乗り越えなければいけない相手。ブーイングに立ち向かい雄々しいパフォーマンスを見せられるだろうか。