ラッセル・ウェストブルック

コービーは「自分に最も近い選手」としてウェストブルックの名を挙げる

ホークス戦で28得点13リバウンド21アシストを記録し、キャリア182回目のトリプル・ダブルを達成したラッセル・ウェストブルックは、オスカー・ロバートソンの記録を上回りました。ラストショットが決まらず試合には敗れたものの、エースのブラッドリー・ビールを欠きながら第4クォーターに猛烈な追い上げを見せており、衰えることのない強烈な闘争心を見せ付けました。

32歳での記録達成となりましたが、オスカー・ロバートソンがキャリア6年目までに148回のトリプル・ダブルを記録していたのに対して、ウェストブルックは7年目以降に174回を記録しています。当時とは医療体制なども大きく異なるとはいえ、ウェストブルックは年齢を重ねてもオールラウンダーとして驚異的な仕事量をこなしています。

ウェストブルックがキャリア初期にプレーしていたサンダーには、ケビン・デュラントとジェームス・ハーデンのトリオが揃っていたため、ドライブでの得点とアシスト中心の現代型ポイントガードらしいプレースタイルでしたが、ハーデンとデュラントが退団してからトリプル・ダブルを量産するようになりました。シーズン平均トリプル・ダブルを記録しMVPを獲得した2016-17シーズンにキャリアで初めてリバウンドが10を超え、得点王も獲得し、現在のプレースタイルにたどり着いています。

デュラントの退団は当時は軋轢を生み出しましたが、結果的にウェストブルックをNBAの歴史に残る選手へと押し上げたことになりました。

この頃はリーグ全体がトランジションを重視し始めた時期でもあり、ディフェンスリバウンドからコースト・トゥ・コーストを連発するウェストブルックの突破は、一人のスーパースターで勝利を得るためには効率的なプレースタイルでもありました。レブロン・ジェームズやジェームズ・ハーデンも同時期に同じようなプレースタイルになっており、その後はヤニス・アデトクンポやルカ・ドンチッチも続いています。トリプル・ダブルを記録する選手が増えてきたのは、戦術的な理由が大きく関係しています。

そんなリーグ全体の変化があっても、ウェストブルックのトリプル・ダブルは段違いの回数を記録しており、30歳を超えても尽きることのない闘争心とエネルギーは他の選手の追随を許しません。普通はベテランになると『抜きどころ』を覚え、勝負の懸かった試合終盤にエネルギーを残すものですが、ウェストブルックの場合は常に全力でワンプレーを実行し続けながら、試合終盤までスタミナを持たせてしまいます。

オスカー・ロバートソンの記録に並んだペイサーズ戦、オーバータイムまでもつれ込んだラストプレーでも、試合開始当初のような見事なジャンプで相手の3ポイントシュートをブロックしてチームに勝利をもたらしました。異常なスタミナの理由について、自分自身で「疲れることをやめた」と根性論のようなコメントを残していますが、実際には誰よりもハードにトレーニングを重ねてきたのもウェストブルックです。

『why not』はウェストブルックの代名詞となっている言葉ですが、「今できることをなぜやらないのか」という精神で、一切手を抜かないプレーを続けてきたからこそ、誰よりも多くのエネルギーを持つ選手に進化してきました。引退後にコービー・ブライアントは自分に最も近い選手としてウェストブルックの名前を挙げましたが、過剰なまでに勝利にこだわる姿勢は時にワガママにも映るものの、ファンを虜にする魅力にも溢れており、スタッツ以上に強烈な輝きを放っています。

ウィザーズに加入した今シーズン前半はウェストブルック本人の不調もあって噛み合わなかったものの、シーズン終盤になるとウィザーズは完全にウェストブルックのチームとして生まれ変わり、成績も急浮上しています。これまでのウィザーズであれば、早々にプレーオフをあきらめ、無気力な試合が繰り返されていたかもしれません。ですが、強烈なリーダーシップと驚異的なスタッツで毎試合のようにトリプル・ダブルを連発するウェストブルックに引っ張られて、チーム全体が勝利に向かって集中するようになってきています。

ホークス戦に敗れ、ウィザーズは10位に転落しました。タフなスケジュールで疲労もピークに達しているはずながら、5月になってからの6試合で26.5得点、15.3リバウンド、17.2アシストと信じられないスタッツを記録しているウェストブルックの活躍に報いるためにも、チーム全体がより高い集中力で残り3試合を勝ち切ってもらいたいところです。