山口颯斗

長崎ヴェルカに移籍して初めてのシーズンに挑んだ山口颯斗は悔しさを味わった。これまで所属したチームではスコアラーを担ってきたが、長崎で求められたのは違う役割だった。経験のないことに挑む中で、シーズンを通じて成長し、チームからの信頼を得た。チームファーストの姿勢がより強くなった山口に、新シーズンの展望を聞いた。

「昨シーズンはチームとしての軸がまだブレブレだった」

──昨シーズンの振り返りをお願いします。

周りからも「強いのではないか」と期待されていましたし、練習やプレシーズンでも手応えはありました。ただ、実際にシーズンが始まるとチームとして上手くいかずに苦しいシーズンでした。その中でも、モーディ(・マオール)ヘッドコーチのバスケの基盤は作れたと思います。それを軸に今シーズンへ繋げられる手応えは感じました。

──マオールヘッドコーチはディフェンスを重視していましたが、浸透するまでに時間がかかった印象もあります。

ここまでシステマチックなのは、僕のキャリアの中でも初めてでしたし、個人としてもより間合いを詰めるとか、コンタクトすることが求められました。日本にはあまりなかったタイプのディフェンスシステムかなと。モーディはオーストラリアでコーチしてきたので、手足が長く身体能力が高い選手向けのシステムでした。最初は日本人向けにアジャストする難しさもあったと思います。シーズンが進み、お互いに折り合いがつくポイントが見つかってチームとしてよくなりました。

──スイッチを多用したり、非常に連携が求められる難しいシステムだと見ていました。山口選手もそこは苦労したかと思います。

もともとディフェンスが得意なわけではなかったので、苦労はしました。ただ、長崎に来てからはウェイトトレーニングも増えて、後半戦はスイッチして外国籍選手ともマッチアップできるレベルまで仕上がりました。そこは自分の中でフォーカスして取り組めたので、良かった点です。

──連勝後に連敗があったりと浮き沈みも多かったシーズンでしたが、振り返ってみて何が要因だと思いますか?

自信だと思います。(馬場)雄大さんやマーク(・スミス)のケガもあって、流れがうまく作れずに、自分たちの中で「こうじゃない」と崩れだして連敗に繋がってしまいました。今思えば、もっとチームとしてまとまることができたと思います。ただ、後半の連敗の時は、負けながらも大きく崩れることなく戦えました。振り返ると、昨シーズンはチームとしての軸がまだブレブレだったと思いますね。

──個人のパフォーマンスはどうでしょうか?

自分がここまでシュートを打たないというのがキャリアの中でなかったので、アジャストするのにはすごい時間がかかりました。まずはモーディが求めるディフェンスをして、信頼を得て試合に出られるようになりました。試合によって、オフェンスは1から5番まで全部やったんですよ(笑)。どこのポジションでもある程度できる器用さは示せました。

──逆に課題と感じたことはありましたか?

課題というより、自分とモーディが考えていることにズレがありました。得意なプレーだけをやれば、僕自身は自由に伸び伸びできますし、もっと活躍できると思います。でもそれではなく、チームが勝つために自分が苦手な部分にフォーカスができた1年でした。今年もそれとの戦いになるなと思っていて、自分とモーディの考えのすり合わせと、その瞬間に何を求められているかを感じて、やりきることが一番大事だと学びました。

山口颯斗

「ディフェンスの間合いと身体のぶつけ方のコツをつかんだ」

──今まで求められていたオフェンス力ではなくて、他にフォーカスできたからこそ、プレーの幅が広がったということですね。

そうですね。また日本代表に呼ばれたとしても、河村(勇輝)選手や富樫(勇樹)選手のような自分より起点になることが上手い選手がいるので、僕は待っててフィニッシャーになる役割が求められると思います。もちろん僕がズレを作るメインプレーヤーもできますし、ロールプレーヤーの役割もこなせると証明できたシーズンになったと思います。

──ハンドリングしてフィニッシュまで行くプレーをやりたいのかなと思って見ていました。

いや、やりたいですよ(笑)。実際、ウイングで出てる時、相手チームの1番手や2番手が雄大さんやマークにつくので、3番手が自分とマッチアップすることになれば自分がハンドリングをすることもありました。そういうシチュエーションは必ず出てくるので、もっと自信を持ってやりたいです。でも、どんな状況でもチームから求められていることをやりきる能力が自分の中で身に付きました。

──今回、1番聞きたいと思っていたのが山口選手のディフェンスです。シーズン後半から覚醒していましたが、どのような手応えを得ていますか?

シーズン序盤はモーディが求めているディフェンスができず、プレータイムの浮き沈みが激しかったです。僕のオフェンスが良い試合は長く出られるけど、微妙な試合は短いみたいな。膝のケガで2月の代表を辞退したことで、しっかり休めて自分のトレーニングにフォーカスでき、身体も大きくなりました。簡単に当たり負けしなくなり、佐賀の金丸(晃輔)さんや京都の古川(孝敏)さんのようなシューターにつく役割を任せられました。今までだったら僕が苦手なタイプの選手でしたが「意外と守れるぞ」と自信がつき始めました。あと大きかったのが、三遠の(デイビッド・)ヌワバ選手ですね。試合前に「マッチアップを任せる」と言われてびっくりしました(笑)。2、3回「本当に?」って聞いちゃいましたが、その試合も意外と守れました。そこからターゲットの選手とマッチアップしても守れるようになってきて、ディフェンスの間合いと身体のぶつけ方のコツをつかみましたね。

──ディフェンスの面白さに気がついたシーズンだったと。

いや、面白くはないですね(笑)。シュート決めるのが好きなんで、面白いとは思わないですけど、手応えは本当に感じました。(伊藤)拓摩さん(GM)からも「もし代表に選ばれてもヨーロッパの2mのウイングを守れるようにならないとダメだ」とずっと言われてきたんですよ。「本当に自分ができるようになるのかな」と思っていたので、ディフェンス自体の面白さというより、地道に続けていたらできるようになる面白さはありましたね。