女子バスケ日本代表を牽引したキャプテンが大会を振り返る
予選ラウンドの5試合、そして準々決勝のアメリカ戦。リオ五輪の戦いを終えて、日本代表の司令塔にしてキャプテンを務めた吉田亜沙美が取材に応じ、今の心境を語った。「悔しいって気持ちが一番ですが、オリンピック期間中、本当に充実した気持ちでバスケットができました」
アメリカ戦が終わった後に見せた涙の理由について吉田はこう語る。「このチームとバスケットをするのが本当に楽しかったので、1試合でも多くやりたいという思いがありました。何より会場に来てくださっている家族やファン、チームスタッフだったり、勝っても負けても応援してくれているのが気持ちを熱くしてくれましたし、支えとなっていたので。本当にいろんな感情が入り混じった涙だと思います」
試合直後だけに感情は入り混じり、整理は付いていない。「達成感だったり満足感だったりっていうのが多い中、やっぱりメダルを狙いに行けた瞬間が見えた部分もあったので、悔しさもあります」
絶対王者アメリカと対峙した今日の試合も、第2ピリオド終盤までは相手に食らい付く大接戦を演じた。しかし、終わってみれば64-110と大きな点差を付けられた。「まあ後から言っても何にもならないので」と、前置きしながら、吉田はこう続ける。「まあアメリカを本気にさせたのは日本の強さでもあるし、後半の入りで一気に20点やられたのは日本の弱さでもあります。世界ナンバーワンのチーム、あれだけ素晴らしいチームとやれたのは今後のバスケットボール人生の財産になったと思います」
『メダルが見えた瞬間』は予選ラウンドのどこだったかと問われた吉田はオーストラリア戦を挙げている。「第4クォーターまで勝っていて、勝ちゲームでした。あそこで勝っていれば1位通過できたと思います。そこはポイントガードとして私のゲームメークのミス。簡単にメダルに届かないからこそ、みんなで一致団結して取りにいこうという気持ちがあったのですが、そこを引っ張っていけなかったことは悔しいです。また私の新たな課題として、ゲームメークを磨かなければいけないと思います」
「次のステップに向けてまた頑張っていきたい」
もっとも、吉田に牽引されたAKATSUKI FIVEは、世界を『あっ』と言わせることには成功した。2週間足らず前、リオ五輪が開幕した時点での日本は参加12チームの中で最も力が劣ると見られていた。そんな中で日本は世界の強豪国を相手に大暴れし、たとえ試合の半分だけとはいえ女王アメリカをも苦しめた。「日本みたいな小さなチームでも世界と戦っていけることを少しでも証明できたと思います」と、この点で吉田は胸を張る。
「私たちのバスケットで一人でも多くの方に感動と勇気を与えられたらと思って臨んだオリンピックでしたが、結果がすべての世界なので、メダルを持って帰れなかったという部分では、バスケをメジャースポーツにしていくという私の気持ちに対しては結果が付いてこなかったという部分があります。なので結果をしっかり受け止めて、次のステップに向けてまた頑張っていきたいと思います」
日本のエースである渡嘉敷来夢は、「吉田さんはどう思っているか分からないですけど」と前置きして「自分たち2人は世界に通用する、日本の武器になる」と言い切った。渡嘉敷はこの言葉を口にするのが相当照れ臭かったのだろうが、吉田はあっさりと「同じ思いです」と同意している。
「私自身、今回のオリンピックでまた課題が見付かりました。お互いに課題と悔しさがあると思うので、もっともっとステップアップして2人が日本を引っ張っていく気持ちがあれば、東京オリンピックでは必ずメダルを取れるという確信があります」
日本の司令塔である吉田と、4歳年下のエース渡嘉敷の間にある信頼関係は、リオでさらに強まったようだ。「彼女は自分を強くするためにWNBAにも挑戦しています。私たちもチームで頑張って、早く彼女と一緒にバスケットをやりたいという気持ちがありました。いや、もっとできる選手、まだまだ成長できると思います。こんなもんじゃない、と私は見ています。もっといろんな経験をして、オリンピックで得た課題や経験を力にして、世界の渡嘉敷になってもらえるように、私もサポートしていきます」
渡嘉敷だけでなく吉田自身も、今大会では手応えも課題もたっぷりあった。「世界とやってみて、手応えはもちろんありましたけど、私のミスで負けた試合もありました。フランス戦では15点差が必要な場面で私のミスで縮められてしまいました。世界で通用する部分もありましたけど、課題もたくさん残った、このままじゃ通用しないとも感じた舞台でした」
「悔しい思いもしましたが『報われた』気持ちになりました」
ロンドン五輪はあと一歩のところで出場がかなわず、そこから『NEVER STOP』という言葉で自分を奮い立たせながらこの4年間を戦って来た。吉田は言う。「ケガをして悔しい思いもしましたが、今回のオリンピックを経験して『報われた』って気持ちになりました。ロンドンからここまでたくさんの経験をしました。大切な仲間に出会えて、大好きなバスケットを今日までオリンピックでやれたことを幸せに思っています。この経験は誰もができるわけじゃないので、夢のようなオリンピックでした」
「楽しかったですね、人生観も変わりました」と吉田はこの五輪を振り返る。「夢の道を歩かせてもらって、仲間には感謝しています。家族と歩んできた夢の舞台にしっかり立って、オリンピックのコートで、それも世界ナンバーワンのチームと戦って、私自身のバスケットができたというのは、遅くなりましたけど親孝行ができたんじゃないかと思います。本当に幸せな時間でした」
吉田の思いはAKATSUKI FIVEを応援してくれたファンにも向けられた。「応援はもちろん耳に入っています。うれしく思います。ブラジルのファンの方もすごく温かく日本を応援してくださいました。ファンの心をつかんだという意味では、私たちが日本のバスケットを信じて、スタッフを信じて、仲間を信じてやってきた結果だと思います」
吉田は続ける。「内海(知秀)ヘッドコーチもコーチの梅嵜(英毅)さんも、常々『自分たちを信じて、仲間を信じて』ということが出ていました。自分たちが楽しんでいるのが見ている方にも伝わった、それは日本にしかできなかったことだと思います。私たちはやっぱり、個人ではどうしても負けてしまうので、チーム力でぶつかっていくという気持ちを持って臨んだので、そういう部分が伝わったことはうれしいです」
6試合を戦って3勝を挙げた。負けた3試合もその戦いぶりは素晴らしいものだった。満足感はどれほどかと質問された吉田の言葉は、思わぬ方向へと進んでいく。
「私は集大成だと思っていたので、満足のいく結果が得られたらいいと思っていたんですけど、メダルまでもう少しだったという部分がやっぱり、メダルを取って帰りたかったという部分もあります。また東京オリンピックは若い子がしっかり良い経験をして、メダルを勝ち取ってもらいたいと思っていますので、私はまた新たな目標を見付けながら、大好きなバスケットをやれればいいかなと思います」
やりきったという思いからの代表引退宣言かと報道陣は色めき立ったが、「どうですかね、今は何も考えていないです」と吉田はそれをやんわりと否定した。「リオでのオリンピックを目標にして内海ヘッドコーチと今まで頑張ってきたので、またリーグをやっていく中で私の気持ちの変化もあると思いますし、今後の目標についてはまたリーグを重ねていく上でしっかり考えていきたいと思います」
今回のオリンピックに、文字通りすべてを捧げて来ただけに、今は何も残っていない『カラッポ』なのだろう。だが、帰国してじっくりと身体を休め、気持ちをリフレッシュさせたら──吉田亜沙美のことだから、またバスケットボールを求めるに違いない。そして、やるからには上を目指す。メダルへの挑戦は終わったが、『Never Stop』を掲げる吉田の挑戦が終わったわけではないのだ。
[指揮官の全選手紹介]リオ五輪で世界に挑むバスケットボール女子日本代表12名
リオ五輪を戦う女子バスケ日本代表12選手、今に至る『関係性』を探る
vol.1 吉田亜沙美 NEVER STOP――キャプテンは進み続ける
vol.2 間宮佑圭 史上最強のインサイド陣を支える『我慢』の女!
vol.3 本川紗奈生 勝ち気な切り込み隊長、故障を乗り越えリオに挑む
vol.4 髙田真希 最強のシックスマン、リオで輝け!
vol.5 栗原三佳 修行の先につかんだリオでの『爽快シュート』
vol.6 渡嘉敷来夢 リオで進化する日本のエース
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