ラッセル・ウェストブルック

サラリーを調整しつつ、実績あるベテランで選手層強化

ニコラ・ヨキッチがいる以上は優勝を目指せるのだから、ナゲッツはそれに値する戦力を整えなければならない。しかし、同じ状況が長く続くのは必ずしもプラスとは限らず、2022-23シーズンの優勝後には『経年劣化』の印象があった。

それでも、歴史的な強豪になろうとするサンダーと『GAME7』まで渡り合ったプレーオフでの戦いぶりが、ナゲッツのフロントの闘志に火をつけた。

マイケル・ポーターJr.と2032年の1巡目指名権を放出してサラリーを削減。その上でキャム・ジョンソンを獲得した。さらにベテラン最低保証額でティム・ハーダウェイJr.とブルース・ブラウン、ヨナス・バランチュナスを加え、課題だった選手層を厚くした。

選手層という意味では、デビッド・アデルマンの指揮下で、前任のマイケル・マローンにはなかった若手の成長も期待できる。ヘッドコーチ交代からのシーズン最後の1カ月半、通常であれば実績のない若手がローテーションから外れる時期にもかかわらず、ペイトン・ワトソン、ジュリアン・ストローサー、ジェイレン・ピケットといった若手は試合に出続け、新シーズンに向けて期待のできるパフォーマンスを見せた。ダロン・ホームズ二世もアキレス腱断裂から回復し、ローテーション入りが期待される。

ヨキッチはNBAで最も安定したパフォーマンスが期待できる選手であり、あとはジャマール・マレーとアーロン・ゴードンが健康を保つことができれば、新シーズンにもサンダーと互角に渡り合うことができそうだ。

ラッセル・ウェストブルック

2年目を破棄したウェストブルックの行き先は決まらず

その一方で、気になるのがラッセル・ウェストブルックの去就だ。昨年オフに2年660万ドル(約10億円)の契約でナゲッツに加入すると、セカンドユニットを引っ張る力強いプレーで13.3得点、4.9リバウンド、6.1アシストを記録。NBAキャリア17年目でイキイキとした活躍を見せ、ここ数年の不振から脱出した。

それでもシーズン終盤に予想外の指揮官交代があり、マローンが解任された理由は『若手を使わずベテランに頼る』という采配にあるとされ、その象徴がウェストブルックの重用だった。移籍先が未定のままプレーヤーオプションだった契約2年目を破棄したのは、彼自身がそれを感じていたからだろう。

ボールを持つ時間が長いウェストブルックは、ヨキッチやマレーとの共存が難しい。若返ったとはいえ36歳で、レイカーズ時代に批判された『熱くなって周りが見えなくなる』悪癖は時おり出てくる。ジャンプシュートはもともと得意ではないが、最近はリム周りのシュートを落とすことも増えてきた。それでも、攻守に見せるエネルギーはナゲッツを支える重要な要素になっており、用法と用量を守って正しく使うことができれば新シーズンも大きな戦力になるはずだ。

ウェストブルックの行き先はいまだ決まっていない。サンダー復帰というロマンティックな噂が流れたが、ただでさえ有望な若手を抱えきれない状況にあるサンダーが、彼にロスター枠を費やすことはなかった。

一連の補強をフリーエージェント市場が開いたその日に済ませたナゲッツが、今からウェストブルックを復帰させるには、仕上がったロスターに手を入れる必要がある。ベテラン偏重は是正すべきでも、ナゲッツとウェストブルックがハマっていたのは事実であり、ボタンの掛け違いで離ればなれになるのは、彼にとってもチームにとっても大きな損失だ。フリーエージェント市場が閉まりつつある今もチームが決まらないウェストブルックが、ナゲッツにとっての『ラストピース』なのかもしれない。