比江島慎

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「日本一丸となってやれば絶対勝てる」と自信

2月21日のイラン戦、24日のカタール戦。ワールドカップ予選のラスト2試合は、バスケットボール男子日本代表にとって絶対に負けられない試合となる。

ここまで『日本のエース』としてチームを引っ張ってきた比江島慎は、4連敗スタートから6連勝という今回の予選をこう振り返る。「最初は泥沼と言いますか、人生でも負けた経験がなかったし、試合にも長く出ていたので責任はすごく感じていました」

「でもニック(ファジーカス)や(八村)塁が入って来てくれたおかげでもあるんですけど、日本のバスケの成長は感じ取れますし、すぐ目の前までワールドカップが獲れるとこまで来ています。最初に比べてチームとしても個人としてもみんな成長できていると思うので、最初の連敗の時も無駄な時間ではなかったと思うし、最初からやってた分、成長も感じ取れていて、そういったところは世界でも通用するという自信は芽生えてきています」

今回のWindow6は2試合とも敵地での開催。遠い中東での試合で『完全アウェー』になることが予想される。特に最初のイラン戦、ワールドカップ出場権を争う直接のライバルに勝てるかどうかが重要と比江島は見ている。「世界とやるためにはイランは倒さなきゃいけない相手。みんな自信を持ってプレーできているし、勝つチャンスはあると思います。塁と(渡邊)がいなくてもイランに勝てるところを証明したいですし、イランに勝ってワールドカップを決めれれば一番だと思います。カタール戦も厳しいゲームになると思うんですけど、日本一丸となってやれば絶対勝てる相手だと思います」

比江島慎

「応援を後押しに変えて、というのはあります」

今回の取材のテーマは『応援の力』。勝負どころのオフェンスを託されてきたエースは、日本バスケ界全体で見ても最も人気のある選手の一人だが、そんな話題を振るとシャイな比江島は「人気があるって自覚は……ないです(笑)」と照れつつも「応援してくれているのは感じますし、それを後押しに変えてというのはあります」と、ファンに支えられている自覚は強い。

大きな期待は時にはプレッシャーにもなるが、比江島はそれを受け止め、コートで結果を出してきた。特に日本代表では期待も重圧も大きい。4連敗の時点でエースとしての責任を重く感じてもいたと明かす。「応援がすごい分、落ち込むし、ファンの皆さんを裏切っている感覚がありました。逆に『ファンのために』という思いは昔よりあるし、プロになった以上それは持たなきゃいけない感情だと思うんですけど。そういった感情が芽生えたってことは自分はプラスに捉えています」

シーホース三河から栃木ブレックスにプレーの場を移した今、ファンの力がどれだけ勝敗を左右するかを比江島はあらためて感じている。Bリーグの優勝を争うチャンピオンシップで両チームは過去2シーズンとも対戦している。1年目は最後に比江島のミスで栃木が勝ち、2年目は比江島がラストプレーを決めて三河が激闘を制した。

「栃木とのセミファイナルをアウェーでやった時、あれは会場の雰囲気に飲まれたという経験でした。でもあのミスがあったからメンタル面も強くなったし、あの経験があったから全体勝率1位を取ってホームでやりたいという思いもありました。去年は母を亡くして、皆さんが力になってくれたじゃないですけど、応援がなかったら多分……何と言うか、ファンの皆さんのために戦おうという気持ちになりました。ファンの応援、声援というのは本当に力になる、そういった経験はあります」

比江島慎

「自分の出番を楽しむようにしています

試合終盤の勝敗を決定づけるオフェンスを託される選手のことを『ゴー・トゥ・ガイ』と呼ぶ。勝てばヒーローとなるが、負ければその責任を一身に背負うことになる。チャンピオンシップだったり、国際大会となればその重荷がどれだけのものか想像もつかないが、比江島は少し考えた上で「小中高大と、そういうポジションでやってきたので」とあっさり言う。

「プロになって、代表になって重みは違いますけど、楽しむようにはしています。結構そういうシーンはワクワクする、自分の出番だと思うので、楽しみながらやっています」

敵地でのイラン戦、カタール戦は厳しい試合になるだろうが、今の日本代表であれば勝機は十分にある。ワールドカップ出場の成否を決める最後のオフェンスが比江島に託される可能性は十分にある。重圧でしかないであろうシチュエーションを楽しみ、引くことなくアタックする比江島の姿は、ここまでの予選10試合を見てきたファンにははっきりとイメージできるはずだ。