ニック・ナース

ドック・リバースのバスケから大きなスタイル変更へ

『ESPN』のアドリアン・ヴォジロナウスキは、セブンティシクサーズが新たなヘッドコーチにニック・ナースを据えると報じた。

ナースは選手としての経歴に特筆すべきものはないが、20代から大学や海外でコーチとしての経験を積み、2013年にドウェイン・ケイシーのアシスタントとしてラプターズ入り。6年目にヘッドコーチに昇格し、その1年目に球団史上初のNBA優勝を成し遂げた。優勝の立役者となったカワイ・レナードは1年限りで退団、『チームの顔』だったカイル・ラウリーも放出する中で、若手を育ててチームを再編しながら、高度なディフェンス戦術を『ラプターズらしさ』として戦ってきた。

ラプターズ入団から10年、ヘッドコーチとして5年を終えた節目の年にナースはチームを離れることに。プレーオフでの早期敗退を受けてドック・リバースを解任したシクサーズとの契約がまとまった。ナースはシクサーズとサンズからオファーを受け、選べる立場にあったという。ケビン・デュラントとデビン・ブッカーを擁するサンズと、MVPのジョエル・エンビードのシクサーズ。ナースが選んだのは後者だった。

シクサーズは、昔気質で率直なリバースから、既成概念にとらわれないカリスマのナースへと、全く異なるタイプのコーチを選んだことになる。リバースは選手を快適にプレーさせ、個々の才能を最大限に引き出すことを狙ったが、ナースは高度な戦術を完璧に遂行することを選手に要求する。ナースは選手に直接アドバイスするだけでなく、その前に記者会見で個人の悪かった点を語り、メディアを通じて問題を知らしめるようなことを平気でやる。ファンやメディアに苦言を呈すこともしばしばあり、直情的なフィラデルフィアのファンがどう受け止めるかはやってみなければ分からない。

それでも、NBA優勝を狙えるだけの戦力を擁しながら、プレーオフを勝ち抜くようなバスケができていなかったシクサーズが変わるためには、戦術的な引き出しが多く独創的なアイデアを出せるナースは格好の人物だ。マイク・ダントーニ、フランク・ボーゲル、モンティ・ウィリアムズという、いずれもシクサーズで働いた経験を持つ他の候補者ではなくナースを選んだのは、本当の意味でチームを変えるための決断だろう。

もっとも、ナースはシクサーズとこれまで接点がなかったが、ダリル・モーリーGMとはラプターズ以前からの付き合いだ。2011年、ロケッツ傘下のリオグランデ・ヴァイパーズのヘッドコーチにナースを抜擢したのが、当時ロケッツの球団社長だったモーリーである。

シクサーズのダリル・モーリーGMは、シーズン終了の時点で新たなヘッドコーチの条件に「選手と良い関係を築けること」を挙げている。ジョエル・エンビードはプライドの高い男であり、要求が高く皮肉屋のナースとは性格が合わないかもしれないが、彼は何よりもNBA優勝を求めており、そのためにはどんな犠牲も厭わない。何よりもエンビード自身が、対戦するたびにどのチームよりも積極的にダブルチーム、トリプルチームを仕掛けるラプターズの高度なディフェンスを身をもって体験している。ナースのバスケを遂行するにはプレースタイルを変える必要が出てくるが、エンビードはそれも勝つためなら受け入れるだろう。

ナース就任により、バスケのスタイルが大きく変わるのは間違いない。リバースのバスケはポジションごとの役割が固定されていたが、ナースのチームはポジションレス。シクサーズではローテーションに入っていた選手の多くが来シーズンも契約が残るが、ナースのバスケができない選手は出て行くことになるだろう。

ジェームズ・ハーデンはプレーヤーオプションの契約最終年を破棄すれば今オフにフリーエージェントとなる。まずその対応から、シクサーズの大改革が始まる。