Bリーグは間もなく3年目の開幕を迎えようとしているが、2016年の1年目開幕から同じコーチに指揮を託しているのはシーホース三河、川崎ブレイブサンダース、千葉ジェッツ、新潟アルビレックスBB、京都ハンナリーズ、そして三遠ネオフェニックスの6チームだけとなった。中でも三遠の藤田弘輝は32歳と群を抜いて若い『異色の存在』だ。チーム一丸のバスケットの質にこだわり、三遠とともに成長しながら高みを目指す藤田に、3年目の開幕に向けた意気込みを聞いた。
「自分を見つめ直すオフシーズンでした」
──まずは昨シーズンの振り返りですが、三遠は終盤の失速でチャンピオンシップ進出を逃し、成功とは言いづらいシーズンになってしまいました。どこに原因があって、どう改善しますか?
ケガが多く、チーム全員でバスケットができたのが5試合か6試合しかなかったシーズンでした。ツキがなかった面もありますが、ケガをしない身体作りはできますし、フェニックスの強度の高いバスケットを40分間やれるコンディションに持っていくのも私たちコーチの仕事です。それができていなかったから、ケガも多かったしコンディションも良くなかった。それでオフシーズンには、コンディショニングの組み方だったりスケジューリングだったり、トレーナー陣とのコミュニケーションは自分の責任として、じっくり見直して学びました。だから自分を見つめ直すオフシーズンになりました。
──オフでも学ぶことはたくさんあって、かなり忙しかったということですね。
昨シーズンは私のコーチキャリアの中でも一番学びが多く、自分自身がもっと成長しなければいけないと感じました。XO(戦術)の成長も必要ですが、それ以外のチームマネジメントや、選手とのコミュニケーションやプレゼンテーションのやり方、ウォークスルーをどう効率良くやるか、そういうことにフォーカスしました。
──ずっとバスケのことを考えている印象ですが、意識が完全にオフになる時はありますか?
私はいつも考えてしまうタイプなので、意識的にスイッチをオフにしないとオフになりません。そこも私自身が学んだことで、ちゃんとオフにしないと自分が疲れてしまうし、それでチームに迷惑をかけることになります。だからメリハリをつけてゴルフをしたり映画を見たりとか。
このオフにはコーチングの研修でドイツに行き、バスケット漬けの10日間を過ごしたのですが、そんな中でもバーベキューでヨーロッパのトップのコーチと話す機会があって、そこで「どうやって息抜きをしていますか」という話を聞きました。週に1日は絶対に家族と過ごす人とか、ギターを弾く人とか、やっぱり人間なので息を抜かないと続けられないですよね。
『世界で通用するコーチ』を目指して
──Bリーグも3年目の開幕を迎えますが、初年度からヘッドコーチを代えずに続けているチームは少なくなりました。藤田ヘッドコーチもその一人ですが、長くチームを任せられていることをどう感じますか?
これは私の個人的な意見ですが、チームを1年で作れと言われても無理な話です。そこは日本のバスケ界が進歩しなければいけないところで、何でもかんでもヘッドコーチの責任にしてクビにする、それで新しいコーチを連れてきても、良くならないケースが大半です。ゼロからまた作って、の繰り返しでは全体のレベルが上がらないんです。
リーグで一番資金のあるチームがプレーオフに行けなかったらヘッドコーチの責任。それなら理解できますが、資金力でリーグのトップ8に入らないチームがプレーオフに行けなくても当たり前と言えば当たり前です。それでもチャンピオンシップにチームを導くのがコーチの仕事なのですが、それで行けなかったらすぐ解任、というのはおかしいと思います。そういう仕組みを理解しているフロントの下で自分がやれているのは、すごく幸せなことだと理解しています。
──若い藤田コーチが三遠に育てられている、という感覚はありますか?
あります。私は前社長の浜武(恭生)さんに誘っていただいて三遠に来ました。浜武さんからずっと言われていたのは、「勝つことも負けることもある。プロセスにフォーカスしよう」ということです。あとは私自身の成長も求められました。自分のやりたいバスケットを、すごくノビノビとやらせてもらい、2年間育ててもらったという思いはあります。そのおかげで、特に昨シーズンはコーチとしてだけでなく人として成長する機会を得られました。
生意気に聞こえるかもしれませんが、XOでは間違ったことをしていない自負があります。それでも世界で通用するコーチになるには、もっと違う部分で成長しなければいけないと感じたので、このオフにはそこにフォーカスを置きました。
コーチとしての自分の成長については、少しだけですけど実感しています。同じチームに3年間携わることができて、3年目が期待できるチームになる、という手応えはあります。
──長く率いるからには、継続したチーム作りの成果を見せる必要があると思います。藤田コーチがこだわって継続している部分はどこですか?
「トゥギャザー」と「エクスキューション」の2つをモットーにしています。常にチームとして戦う、チームのバスケットを遂行する部分にはプライドを持ってやりたいし、そこはトップチームより勝るつもりです。じゃないとタレント力も資金力も違う中では勝てないですから。NBAでも昨シーズンはジャズが良いチームバスケをやって、強いチームと戦っています。そういうチームを作っていきたいです。
「昨シーズン以上に戦う集団になると思います」
──この夏の三遠は選手を多数入れ替えました。選手を獲得する上で重視したのは何ですか。
チームのバスケットにフィットするかどうか、ポジションは前提としてありますが、まずはハートを相当重視しました。バスケットに対して真面目で熱いこと。もう一つはエッジがあるかどうか。これは勝利に対する執着心です。第4クォーターにルーズボールにダイブできる、そういう選手を集めたつもりです。寺園(脩斗)だったり長谷川(智伸)だったりファイターを集めたので、昨シーズン以上に戦う集団になると思います。
──チームとしての目標はどこに置きますか?
この時点で優勝を目指すと言えるのは5本の指に入るチームだと思っています。言うのはタダですけど、我々はまだその権利を得るに至っていません。だからまずはチャンピオンシップに進むこと。NBAみたいに7試合のシリーズで総合力を競うのではなく短期決戦なので、チャンピオンシップに行けば何が起きてもおかしくありません。
チームバスケットをしっかりやって、その質を上げていく。そうしてチャンピオンシップの短期決戦の中で優勝を目指すというプロセスを踏んでいきたいです。強いて言うなら「資金力のあるトップチームを食ってやろう」という気持ちは常に持っているのですが、まずはチームの質にフォーカスしてアップダウンができるだけないシーズンを送りたいです。最低でも1勝1敗、連敗しないチームでありたいですね。
──中地区に川崎ブレイブサンダースが戻って来ます。シーホース三河は相変わらず強いだろうし、富山グラウジーズも大型補強で怖い存在になっていて……中地区はタフになりそうです。
昨シーズンに経験したように、下手をすると残留争いに巻き込まれてしまうのがBリーグの恐ろしさです。本当にタフなシーズンなので、しっかりとバスケットを作る必要があります。
──ヘッドコーチを仕事にして勝負の世界で生きるのは大変そうですが……。
ヘッドコーチ、しんどいです。めっちゃしんどいですよ(笑)。でも、リスクも大きいですがリターンも大きい仕事なので、やりがいもすごく感じます。この年齢でB1の同じチームを3年任せてもらえるのはすごいことだと自覚していますし、そこはクラブに本当に感謝しています。
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