文=三上太 写真=Getty Images

最後まで日本のバスケを展開しようと試み、未来へつなげる

リオ五輪の決勝トーナメント準々決勝、日本はアメリカと対戦した。大会5連覇中のアメリカに、日本は序盤から攻守で足を使い、また3ポイントシュートも高確率で決まって食らいついた。しかし後半、アジャストし、ギアを2つくらい引き上げたアメリカに対して次の一手が出ない。疲労の色も明らかに濃く表れ、一気に突き放されてしまった。
それでもベンチから出てきたすべての選手が、最後まで日本のバスケットを展開しようとした点は未来につながる。以下、リオ五輪最後となる女子日本代表AKATSUKI FIVEの寸評となる。

吉田亜沙美
吉田が最も得意とするディフェンスのスティールから、ゲームは動き出す。その後もスー・バードのドライブを後ろからカットしたり、足と手を動かしたディフェンスで3つのスティールを記録。オフェンスでも渡嘉敷、間宮の得点シーンを演出するなど8アシストをマーク。さらには得点でもダイアナ・タウラシを前にドリブル1対1からの3ポイントシュートを決めるなど7得点を挙げた。
惜しまれるのは両チームトップの6つのターンオーバーを犯したことか。チャレンジすればこそのミスとも受け取れるが、ミスが命取りになることを改めて痛感したはずだ。それでも最後まで司令塔として、キャプテンとして、チームを引っ張った姿は今大会の日本のMVPと言っていい。

渡嘉敷来夢
リバウンドが3つに終わった点は悔やまれる。むろん相手はアメリカ。高さもパワーもあることは彼女自身が一番分かっていて、リバウンドを取ることの難しさも知っていたはず。その上で、もっとガツガツしたリバウンド争いが見たかった。WNBAでのプレイタイムの少なさがゲーム勘を失わせ、体力的にも厳しくなった大会終盤、思い切りの良さの反面、プレイの精度という意味では、4年後に向けて大きな課題を残した。
それでもアメリカを相手に14得点を挙げたことはエースとしての面目躍如である。ミドルシュートの精度は少し欠いたが、それでも3ポイントライン一歩内側でのジャンプシュート、ドリブル1対1など、まだまだ伸びしろが大きいところを見せてくれた。2020年に期待大!

本川紗奈生
両チームを通じた最初のポイントを得意のドライブでスタートさせ、リードを奪われた直後にもコーナーからの3ポイントシュートを沈めるなど、チームに勢いを与えることに成功した。またチームに中盤、チームの足が止まりかけた時に、強引なドライブでフリースローを取るなど、切り込み隊長としての役割を十分に果たした。欲を言えば、3ポイントシュートの精度をもう少し上げたかったが、それは今後の課題だろう。

本川は1対1から果敢にドライブを仕掛け、3ポイントシュートも積極的に狙うことで、アメリカの堅守を崩すきっかけを作った。

栗原三佳
前半だけで4本の3ポイントシュートを沈めるなど、日本のカギとなるシューターとしての働きを十分に発揮してくれた。しかも1本目、4本目はステップバックからの難しいそれだったし、3本目、第2クォーターの最初に飛び出した、渡嘉敷のパスを受けたクイックモーションなど3ポイントシュートに至るまでのバリエーションの多さを、改めて示した。
後半、アジャストされてからは2本のシュートチャンスを落としてしまったが、それでもドライブでフローターを狙うなど(これも外れたが)アタックしようとする姿勢は十分に見られた。スティールやリバウンドなど、地味なところでもチームに大きく貢献した。

間宮佑圭
高さとパワーのあるアメリカのインサイド陣に対して、最後まで体を張って、我慢のディフェンスを披露した。オフェンスでは、精度こそ欠いたが、怯まずに打ち続けた点は評価できる。精度については、あの高さ、間合いでいかに決めきるかを今後の課題にしてもらいたい。また高さで劣るリバウンドをどう解決するかも、日本屈指のセンターとしての大きな宿題である。

髙田真希
大会を通して、安定したミドルシュートとドライブでチームに貢献。第3ピリオドのドライブは良い判断で実行され、見ていて気持ち良くなるプレイだった。どんな状況でも落ち着いて、自分のプレイが出せる点は、日本に欠かせないシックスマンと言える。欲を言えば、もう少しプレーレンジを広げたいといったところだろうか。

町田瑠唯
思いきった攻撃参加は、さすがに高さのあるアメリカだけに難しかったが、それでも攻撃姿勢を失ってはいなかった。ドライブはブロックされてしまったが、その後にステップスルーからの得点を決めたことは、今後の自信にもなるだろう。ペイントエリアまで潜り込む勇気と技術があればと思うが、それは今後の課題としたい。小さいながらも世界で戦えることを証明した。

アメリカの高さに苦戦は免れなかった町田だが、それでも今大会では小さいながらも世界で戦えることを証明した。

近藤楓
得点こそ3ポイントシュート1本の3得点に終わったが、大会を通じて見せた攻撃的な姿勢をアメリカ戦でも見せてくれた。またディフェンスでも、アメリカのエース、マヤ・ムーアのドライブコースに入って、しっかりと体の正面で止めるなど、お手本のようなディフェンスを見せた。

宮澤夕貴
予選ラウンドのブラジル戦に次ぐ、リオ五輪2試合目の登場だったが、渡嘉敷のパスを受けてコーナーからの3ポイントシュートを決めて爪痕は残した。外れたものの、もう1本3ポイントシュートを打つなど、最後まで攻めの姿勢を貫いた。この借りは4年後に返してもらおう。

長岡萌映子
アタックからターンアラウンドを放ったが決まらず、ドライブに行けばブロックされるなど無得点に終わった。しかし少ないプレータイムながら果敢にアタックしたことは、「モエコらしさ」の解放であり、次につながる。目標とするアメリカの選手たちを目の当たりにし、肌を交えたことでさらなる向上心も芽生えたはずだ。

王新朝喜
宮澤同様、予選ラウンドのブラジル戦以来の出場だったが、リバウンド争いに加わったり、ペイントエリアで1対1を仕掛けるなど、自分の力を発揮しようという姿勢は見られた。大会を通じてチームで唯一無得点に終わったが、その高さはチームに欠かせないものだった。

三好南穂
4分14秒の出場で3ポイントシュートを2本放ったが、フランス戦のようにリングを通過することはなかった。それでもベンチで作戦ボードを内海ヘッドコーチに差し出し、すぐ横で指示を聞くなど、ベンチメンバーの在り方を示す意味では、裏のMVPと言っていい。


結果的には、いわゆる「100点ゲーム」で敗れたが、前半で突き放されてもおかしくない実力差の中で、栗原、吉田の3ポイントシュート、渡嘉敷のバックカットからの得点などで2点差にまで詰め寄るシーンもあった。そうした諦めない姿勢は、今大会の日本が世界に示した「ジャパンズウェイ」だ。

高さによるリバウンドの支配は、新しい戦術が生まれない限り、これまでも、またこれからも、永遠のテーマとして残る。それだけにミドルシュートの精度は、ポジションに関係なく高めていきたいところ。その昔、日本代表選手を多く輩出していたシャンソン化粧品の体育館で「シュートは決める」という張り紙を見たことがある。「シュートを決める」という意志ではなく、「シュートは決めるもの」という当たり前の感覚にしなければ、世界とは互角に戦えないという意味だろう。スピードを生かしたドライブや3ポイントシュートもさることながら、ペリメータ―のシュートをいかに正確に沈めるかが、今後のテーマになる。

また終盤、明らかに見えた疲労の色を払拭するためにも、12名全員が使えるようなチーム作り、ベンチワークも必要となる。それにはもちろん12名の選手個々の実力も、世界基準に上げなければいけない。

2020年はあっという間に来る。

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vol.1 吉田亜沙美 NEVER STOP――キャプテンは進み続ける
vol.2 間宮佑圭 史上最強のインサイド陣を支える『我慢』の女!
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vol.4 髙田真希 最強のシックスマン、リオで輝け!
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