
指揮官ゲインズ「ミスをしないと成長できない」
週末、バスケットボール女子日本代表は、コーリー・ゲインズ体制で初の実戦となったチャイニーズ・タイペイとの強化試合で2試合ともに圧勝した。
チャイニーズ・タイペイは勝って当然の相手で、ホームで大勝したことにさほど大きな意味はないが、合宿で取り組んできたことを実戦で試し、様々なデータが得られたのは大きな収穫となった。
特にゲインズはポジションレスのスタイルを目指し、1人の選手が様々な役割をこなすことで生まれる多彩なラインアップで、相手を混乱させて的を絞らせないことを狙う。多くの選手が普段は経験していないポジションや役割を託されており、指揮官は「この短期間で、いろいろな選手にいろいろなポジションを教えるのは難しいですが、試してみないと分かりません。まだまだレベルが足りないですが、試すことで成長しています」と、まだ試行錯誤の段階だと語る。
現段階では「ミスをしないと成長できないです」とゲインズは選手たちに積極的なチャレンジを求めている。さらに「選手たちが慣れていない状況でどんな反応をするのか見たかった」と適応能力も重視している。
今回の出場メンバーの中で最も適応能力が問われる状況に置かれたのは、シューターの中村ミラー彩藍だろう。19歳の中村はアメリカで生まれ育ち、昨シーズンはNCAA1部のペンシルバニア大で1年生にしてローテーション入りを果たし、平均15分出場、5.5得点、3ポイントシュート成功率35.9%を記録。当然だがこれまで日本でのプレー経験はなく、チーム全員が初めて会う選手たち。短期間の強化合宿でのアジャストは簡単ではないが、強化試合では堂々としたプレーを見せていた。

「いつも日本人であることにプライドを持っています」
慣れないことが続く日々を「ジェットコースターに乗っているような感じでした」と語る中村だが、今はしっかりとアジャストしている、日本の女子のシューターではまだまだ少ないワンハンドからのクイックリリースで3ポイントシュートを放ち、大きなインパクトを与えた。
ゲーム1の終了後、中村は「初めは緊張していましたが、途中から慣れてきて楽しい気持ちに変わりました」と笑顔を見せ、「コーリーコーチには練習中から『どんどんシュートを打っていい』と言われていたので、自信を持って打てています」と語る。
初めて日本代表のユニフォームに袖を通した際には「これは本当なの? という気持ちでした」と振り返る。それでも今は、「日本に来ての今回の合宿と試合は成長していくためのファーストステップとなりました」と、彼女自身が今後に大きな期待を寄せている。
ちなみに中村が学んでいるペンシルバニア大は、アカデミックの分野で傑出した伝統と実績を誇る8つの大学が集結したアイビーリーグの一つ。ハイレベルの文武両道を実践している才女は、心理学の専攻を考えており、試合前には瞑想で気持ちを落ち着かせる。
これまではアメリカで暮らしてきたが、日本出身の母の地元である静岡には何度も帰省で訪れており、今回の強化試合にも家族が観戦に訪れていた。母の作るカレーと唐揚げが好物で、母とは日頃から日本語で会話するなど、彼女にとって日本はずっと身近な存在だった。
「いつも日本人であることにプライドを持っています」と中村は日本への愛を強調する。
ゲインズの下、新たなスタイルに挑戦している日本代表は、世界ではアンダーサイズであり、3ポイントシュートが常に攻撃の生命線となる。だからこそ、優れたシューターは日本が世界で勝つには不可欠な要素であり、中村には大きな期待が寄せられている。