ゲインズ「今は長いプロセスの始まり」
女子バスケットボール日本代表は『FIBA女子アジアカップ2025』を準優勝で終えた。5連覇を達成した2023年大会以来となる王座奪還という目標を果たせなかったのは残念だったが、一方で優勝候補の大本命だった開催国、中国を準決勝で破る価値ある勝利も挙げた。
コーリー・ゲインズ新ヘッドコーチの下、初体制となった今大会はチームの秘める大きな可能性と脆さの両方が見えた。ゲインズ体制が始動してから2カ月、強化合宿によるメンバーの絞り込みを経て大会出場メンバー12名で活動したのは約2週間のみだったが、スタイルも選手もこれまでと大きく変わった中、大会を通して成長し優勝こそ逃したがポジティブな終わり方を見せてくれた。
オーストラリアとの決勝戦後、ゲインズは次のように総括している。「残念な結果でしたが、一番大事なのはチームがあきらめなかったことです。16点差で負けていた中で一時は同点に追いつきました。最後はエナジーが足りなくて、タフな状況を乗り越えられなかったですが選手を誇りに思います」
「この12名で活動したのは2週間ちょっとでした。今は長いプロセスの始まりで、これからもっと強くなれると思います。もっと細かいことを遂行できるようになりオフェンス、ディフェンスともにより完成度が高いバスケットボールをしたい。ただ、一体感を高めるためにもっと時間が必要です」
今大会で大きな収穫となったのは田中こころ、今野紀花、薮未奈海といった、フル代表でのFIBA国際大会デビュー組の躍動だ。田中はグループフェイズにおいて持ち味の積極的なアタックが鳴りを潜めターンオーバーを重ねるなどスランプに陥っていたが、準決勝の中国戦では第1クォーターだけで21得点と大暴れし、勝利の原動力となった。決勝のオーストラリア戦も前半で19得点と、最後になって持ち前の爆発力を披露した。準決勝、決勝とも田中が1対1での仕掛けを始めると、会場からどよめきが起こるなどアウェーのファンも魅了していた。また、試合後には多くの中国メディアから取材を受けるなど、大会屈指のスターとなっていた。
今野は状況に応じてシューティングガードとポイントガードの役割をこなす難しいミッションを遂行した。グループフェイズでは、司令塔としてゲームコントロールの意識が強くなりすぎた傾向もあったが、「2番として思い切りやっていた感覚に戻し、考えすぎずにアグレッシブにやりたいと思っています」と決勝トーナメントでは積極性を取り戻し、準決勝進出決定戦のニュージーランド戦で13得点、中国戦では14得点をマーク。日本の武器である3ポイントシュートを抑えようと間合いを詰めてくる相手に対し、ドライブで切り込みペリメーター付近から沈めたプルアップシュートはオフェンスの良いアクセントになっていた。判断力に優れ、複数のポジションをこなせるオールラウンダーとして、代表で確固たる居場所を確立した。
薮はグループフェイズ最初の2試合、レバノン戦とフィリピン戦でともに3ポイントシュートを5本成功と爆発。この2試合、日本代表は格下の両チーム相手に辛勝と、薮の活躍がなかったら敗れていてもおかしくなかった。その後、薮は3ポイントシュートが中々入らずに苦しんでいたが、運動量豊富なディフェンスでも存在感を発揮していた。ルーズボールへの鋭い嗅覚など、スタッツに残らない部分でのハードワークも光っており、3&Dのウイングとして大きくステップアップした。
楽観できない3月のワールドカップ予選トーナメント
また、東京五輪以降、代表で本来の力を発揮できずに苦しんでいた宮澤夕貴は、富士通レッドウェーブを連覇に導いたWリーグと同等のハイパフォーマンスを披露。渡嘉敷来夢も、相手の長身ビッグマンに対する献身的なディフェンスで貢献と、ベテランが健在ぶりを示してくれたことも明るい材料だ。
そしてチーム全体のスタイルでは、12名全員でのプレータイムシェアを徹底したのも印象に残った。12名全員が大会を通して、ガベージタイムではない時間帯にコートに立った。この意図をゲインズは「私たちのやりたいペース、プレッシャーディフェンスは特定の選手にプレータイムが偏るとやり続けるのは不可能です」と語る。
さらに「このチームにジェラシーはなく、誰が長くコートに立っているか、得点をするのか気にしません。みんなが勝つことにこだわって一つにまとまっています。家族のように結束している選手たちのおかげで12人でプレーできています」と選手たちの献身性を称える。
いろいろとポジティブな発見があった一方で、心配なのは調子の振れ幅の大きさだ。FIBAランキングで大きな差があるレバノン、フィリピンを相手に4点差、3点差と僅差での勝利に留まったのは、どんな理由があるにせよ大きな反省点だ。優勝したオーストラリアはフィリピンに115-39、レバノンに113-34とそれぞれ圧勝している。
日本代表の次の戦いは、来年3月11日から17日に開催されるFIBA女子ワールドカップ2026予選トーナメントだ。ワールドカップの出場枠は前回の12から16へと拡大するがそれでも狭き門に変わりはない。この予選に参加するのは全24チームで、6チームを4つのグループに分ける。ただ、開催国ドイツに加え、地域大会王者のアメリカ、ベルギー、オーストラリアなど、すでに出場権を得ているチームも参加する。
24チーム参加の予選だが、上記の4カ国とこれから決まるアフリカ王者を除く19チームで11枠を争うことになる。言うまでもなく全体のレベルはアジアカップとは段違いに高い。今回のレバノン戦、フィリピン戦のようなパフォーマンスを見せたら、いきなりの連敗スタートで本大会出場を逃す可能性は十分にある。「完成度を高めるには時間が必要で、今は我慢の時期です」とゲインズが語るのは納得だが、最低ラインの大幅な引き上げは必須だ。
そして、このワールドカップ予選に向けて、十分な準備期間がある訳でもない。大会は3月11日からスタートするが、Wリーグの日程を見るとリーグ戦は2月8日で中断期間に入るが、多くの代表候補がプレーすると見られるユナイテッドカップのファイナルステージが2月15日まで行われる。そうなると、ワールドカップ予選に向けての準備期間は1カ月以下となる。欧州勢など他のチームは日本よりも短い準備期間で大会を迎えるとしても、楽観できない状況であることを忘れてはならない。
ゲインズは「日本は独自のスタイルを持っています。『組織化されたカオス』、私がコーチでいる限りこれが私たちの哲学であり、この戦い方で世界にショックを与えたいです」と意気込む。3月のワールドカップ予選では、より完成度が増した日本オリジナルのバスケットボールを見せてくれることに期待したい。