ラプターズのウジリ球団社長はアデトクンボ獲得に熱心
ヤニス・アデトクンボのバックス退団は規定事実のように報じられている。彼はこれまで、優勝争いのできる戦力を整えるようバックス首脳陣にプレッシャーを掛け続けてきた。クラブに忠誠を誓うと同時に「僕は次の優勝を狙いたい。20年も同じチームにいて、一度きりしか優勝できないのは嫌だ」と、自分の考えを明言している。
バックスはその言葉に突き動かされて補強を繰り返してきたが、それは2021年に優勝したチームの延命を維持し、抜本的な改革に着手できないまま延命は限界を迎えた。デイミアン・リラードはアキレス腱断裂で来シーズンは全休となるだろう。リラードに続くビッグネームとして迎え入れたカイル・クーズマは全く良いところを発揮できない。ブルック・ロペスはフリーエージェントとなるが、再契約するとなればサラリーキャップのセカンドエプロン超過となる。つまりバックスは、八方ふさがりの状況なのだ。
30歳のアデトクンボがトレードを要求した場合の行き先としては、サラリーキャップに余裕のあるネッツ、税金の安い州に本拠地を置き、若いチームが成長中でトレードに出す人員の多いスパーズとロケッツが挙げられる。もう一つの有力候補がラプターズだ。
ラプターズのマサイ・ウジリ球団社長は、ナイジェリア人の両親の下でイングランドで生まれ、ナイジェリアで育った。『バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ』に協力し、無名のパスカル・シアカムを見いだしたのは、フロントとしての彼の大きな成功だ。そして彼は、ギリシャ代表ではあるがナイジェリアにルーツを持つアデトクンボをずっと注目してきた。
アデトクンボがドラフトされたのは、彼がラプターズのGMに就任したばかりの2013年で、すでにドラフト戦略は決まった後だった。それから12年、アデトクンボが契約更新の時期を迎えるたびに、彼はサラリーキャップに余裕を持たせ、アデトクンボとバックスの関係に少しでもヒビが入れば介入できる準備を整えてきた。一時期はニックスも同じ動きをしていたが、ウジリほとの根気と執念深さはなく、アデトクンボのために用意していたサラリーキャップをジェイレン・ブランソンとその仲間たちに投じることで現在の成功へと至っている。
アデトクンボを納得させる『チームの強さ以外の要素』
ラプターズは2019年にNBA優勝を果たしたが、カワイ・レナードはそのオフに退団し、残るコアも次第に去っていった。今はスコッティ・バーンズを中心に、ポテンシャルはあるが東カンファレンスの上位を争う力はまだない。それでも中堅どころの選手が揃い、自前の指名権をすべて保有し、ビッグディールへの準備は整っている。
アデトクンボの来シーズンの年俸は5760万ドル(約86億円)。『チームの顔』であるバーンズと獲得したばかりのブランドン・イングラムを除外して考えると、RJ・バレットとヤコブ・パートルがトレード対象になるだろう。バックスの戦力ダウンはすさまじく大きいが、パートルは2026年、バレットは2027年までと契約が小さく、ドラフト指名権と今後数年間の流動性を活用することで再建を有利に進めることができる。
優勝を目指すアデトクンボがラプターズへの移籍に納得するのか、という問題はあるが、アデトクンボとバーンズ、イングラムの3人は、年齢もポジションもプレースタイルもバランスが良く、イマニュエル・クイックリーという勝負強いシューターもいる。セルティックスが力を落とすであろう東カンファレンスで上位を争うことは十分に考えられる。
見落とされがちな要素もある。アデトクンボは義理堅く、ファミリーとしての結束力を重視する人間で、チームの居心地の良さも重視する。この4年間、様々な問題を抱えていてもバックスを離れようとしなかったのは、バックスにその要素があったからだ。
ウジリが取り仕切るラプターズにも同じような雰囲気がある。トロントのファンは国に一つしかないNBAチームを熱心に応援し、それでいて節度もわきまえている。ラプターズを選べば彼は歓迎され、心地良く過ごしながら、NBA優勝を狙うチームを自分主体で作ることができる。それは他のチームには提供できない、それでいてアデトクンボにとっては非常に魅力的な条件だ。