
『頭の若さ』を持つカーライル、柔軟なダグノート
NBAファイナルはサンダーとペイサーズの顔合わせになりました。ともに2年前はプレーオフにも出ていませんでしたが、継続したチーム作りで独自の戦術を磨き上げ、一気にNBAファイナルの舞台へと駆け上がってきました。
10人ローテーションでの戦い方やアシスト/ターンオーバー率の高さなど、共通する要素の多い両チームですが、優勝経験もある65歳の大ベテランのリック・カーライルと、40歳の若きマーク・ダグノートとヘッドコーチのキャリアは対照的です。
平均25.6歳のロスターと若いサンダーですが、ダグノートが就任してから一貫した戦術で戦ってきたことで、若さに似合わぬ成熟度を誇っています。圧倒的なディフェンス力は他チームの追随を許さず、それも2ビッグからノービッグまで多用なラインナップを使う柔軟性も持ち合わせています。
個人のポテンシャルを引き出しながら、戦術を落とし込んで柔軟な戦い方を作り上げ、しかもドラフト指名した若手の『成長』とチームの『勝利』の二兎を追って成果を出したダグノートの手腕には素晴らしいものがあります。一時期は主力のプレータイムが長く疲弊して負けることもありましたが、今ではタイムシェアを採り入れ、ダグノート自身も失敗から学んで成長しています。
再建となると若いヘッドコーチを選んでともに成長させるのは今のトレンドで、サンダーとダグノートはまさにそのスタイルですが、ペイサーズは経験豊富なカーライルを選択しました。
就任初年度にトレードでタイリース・ハリバートンを獲得すると、判断能力の高さを生かした『ミスの少ないトランジションゲーム』という従来にはなかった戦い方を採り入れ、新たな要素を取り込むことに貪欲な『頭の若さ』でチームを成長させました。
ドラフトだけでなく、他チームでくすぶっていた才能をトレードで手に入れていくチーム作りをしていく中で、各選手の持つ短所を嫌うのではなく長所を際立たせる戦い方で、分厚い選手層を作り上げてきました。固定観念や従来からの手法にとらわれることなく、戦術の微調整を繰り返してチームを成長させてきた手腕は60歳を過ぎたベテランヘッドコーチとは思えない仕事ぶりでした。
カーライルが仕掛け、ダグノートが受けて立つ展開に?
ともに素晴らしい手腕で選手を成長させ、チームを勝利に導いてきましたが、このプレーオフの戦いぶりを見る限りは、ヘッドコーチという部分ではカーライルに分があります。選手の短所に目をつぶる一方で、試合中の見切りも早く、前の試合で活躍していた選手でも今日の調子が悪いと判断すれば数プレーであっさりと交代させます。また、相手の弱点は徹底して突いてくる老獪さも兼ね備えており、自チームの状態と相手チームの特徴の双方を考慮した采配は見事です。
サンダーは柔軟な戦い方が持ち味ですが、プレーオフに入ってからのダグノートは保守的な交代策が目立ち、『相手の良さを消す』ための選手起用がメインになっています。ディフェンスのチームらしい采配ではあるものの、時には何かをあきらめて自分たちのストロングポイントを生かして勝ちにいくことも重要です。
ただし、これらの問題はナゲッツとのシリーズでは頻繁に見られたものの、ティンバーウルブズとのカンファレンスファイナルでは、相手の高さにスモールラインナップで立ち向かい優位を作り出しており、若いダグノートらしい成長も見せています。
ヘッドコーチの采配においては、大ベテランのカーライルが仕掛け、それを受けて立つ若いダグノートというNBAファイナルになりそうです。多くの選手を起用して多様な変化を付けてくる両ヘッドコーチだけに、その采配から生まれる試合展開にも注目です。