プレーオフ進出も危ういチームからヤニスが逃げ出す?
プレーオフの初戦、デイミアン・リラードがオフェンスリバウンドを取ろうと反応した直後にコートに崩れ落ちた時、バックスの様々なことが終わった。左アキレス腱の断裂で彼が離脱すると、ヤニス・アデトクンボを支えられる選手はギャリー・トレントJr.ぐらいしかいなかった。ブルック・ロペスとボビー・ポーティスに優勝した4年前のようなエネルギーはなく、カイル・クーズマはプレーオフのリズムに乗れていなかった。
1勝4敗でバックスはペイサーズに敗れるのだが、リラードのケガの時点で多くの人の関心はヤニスの去就に向いていた。リラードは来シーズンも全休するだろうし、2026-27シーズンにアキレス腱断裂から復帰する時には36歳になっており、十分なパフォーマンスを見せられるかは非常に怪しいものがある。そのリラードに5400万ドル(約81億円)のサラリーを投じるバックスが優勝争いを演じるのは、相当に厳しいと言わざるを得ない。
そんな状況のバックスにヤニスは忠誠を貫くだろうか? ミルウォーキーは小さく居心地の良いフランチャイズかもしれないが、勝てない環境に彼は納得できるだろうか。
これまでもヤニスはバックス首脳陣に「競争力のないチームであれば去る」というメッセージを発してきた。契約延長を前にした2年前のオフには、『New York Times』の取材に対して本音を明かしている。
「みんなが同じ考えを共有して、家族と離れる時間を犠牲にして優勝を目指すんだと感じられなければ、契約延長はしない。ダーク・ノビツキーやコービー・ブライアント、ティム・ダンカンのように同じチームで20年を過ごしたいけど、それ以上に勝ちたいんだ。20年も同じチームにいて、一度きりしか優勝できないのは嫌だ」
この発言がフロントを揺さぶり、デイミアン・リラード獲得に至った。しかし、ベテラン中心で優勝したチームの継続路線では、シーズンを経るごとに競争力は落ちていく。バックスはそこから逃れられなかった。
「優勝を狙えるチーム」の圧に負けて世代交代を放棄
今シーズンもバックスの若手起用は進まなかった。3年目のAJ・グリーンや2年目のアンドレ・ジャクソンJr.などタレントはいて、NBAカップ決勝でサンダーを81得点に抑える堅守の立役者となったのがグリーンでありジャクソンJr.だったが、シーズンが進むにつれてベテランの安定感が優先され、彼らのプレータイムは減少した。ジャクソンJr.については、シーズン途中で加入したクーズマをチームに慣れさせるためにベンチに座ることになった。今シーズンのバックスで何を問題視するかと言えば、リラードの不慮のアクシデントではなく、この消極的すぎる選手起用だろう。
リラードの契約は抱えたままにせざるを得ないし、クーズマという新たな不良債権まで抱えてしまい、1巡目指名権も2031年まで持っていない。セカンドエプロンから回避できたのが唯一の収穫だが、それでヤニスを納得させることは不可能だろう。
ヤニスは30歳。ケガは増えてきたが、まだまだトップレベルで戦うことができる。バックスに残れば少なくとも1シーズン、おそらく2シーズンは競争力のないチームで過ごすことになるが、彼がバックスを離れるとなれば彼の求める条件すべてを満たすチームが出てくるはずだ。
バックスはどこで間違ったのだろうか──。おそらくマイク・ブーデンフォルツァーを解任した2023年オフだ。優勝コーチの解任は、ヤニスを残してチームの若返りを図る動きと見られていたが、実際にはその直後にロペスやミドルトンに大型契約を与え、グリフィンもすぐに解任した。バックスもヤニスも、ここで『生みの苦しみ』から逃げたのだ。
「勝ちたい」というヤニスの強烈なメッセージが、バックスの中長期的なチーム作りを狂わせてしまったのかもしれない。ヤニスは自分のキャリアを無駄にしないために他のチームに逃げ出すことができるが、バックスは行き場のない袋小路に迷い込んでしまった。