藤田弘輝

「選手の成長を感じられるのはコーチとしてすごくうれしい」

bjリーグ時代はチャンピオンも経験した大阪エヴェッサだが、Bリーグ開幕以降は優勝戦線にからめていない。特に直近3シーズンは勝率5割に届かず、チャンピオンシップ進出も逃し続けている。このオフは仙台89ERSから藤田弘輝ヘッドコーチを招聘し、復権をかけてチームカルチャーの再構築に着手。ヘッドコーチ就任の経緯や新シーズンの展望について、藤田ヘッドコーチに聞いた。

——大阪のヘッドコーチに就任することになった経緯を教えてください。

1番の理由はチャレンジしたい気持ちが大きかったからです。仙台は素晴らしいクラブで居心地が良かったですし、仙台という街も好きでした。ただ、居心地が良いから残るという選択をしようとしたとき、ふと「あれ? なんでプロコーチをやっているんだっけ?」と思ってしまって。やっぱり常にチャレンジできるような環境に自分を置くべきでないかと思い、大阪に行こうと思いました。今まで都会に住んだことがあまりなかったのでちょっと不安はありましたが、高いタレントレベルの選手がいて、大都市で、自分にとってはすべてにおいてチャレンジングな環境。チャンスだなと思い、決めました。

——ここ数シーズンの大阪は、方針が見えにくく結果も伴っていない印象があります。カルチャー作りという部分でも魅力を感じたのでしょうか?

今野翔太GMから「一緒に新しいカルチャーを作ってほしい」と言われて、すごく熱意が伝わりましたしモチベーションも上がりました。今野さんと社長が仙台までわざわざ来てくださり、熱意を持ってお話をしてくれたので、情熱がある人たちと一緒に仕事をしたいという気持ちも大きかったです。

——今シーズンのロスター編成にはどの程度関わりましたか?

自分の意見がどこまで反映されたかという細かい部分は控えますが、今野さんとは1日に何度も電話でやり取りをしました。恐らく6月、7月は家族よりも今野さんと話した時間のほうが長いのではないかと思います。

——牧隼利選手は「藤田ヘッドコーチからの話が移籍の決め手の1つだった」と話していました。選手のリクルートにも積極的に動かれましたか?

自分も頑張りましたし、今野さんもすごく一生懸命やってくれました。意思を伝えることがすごく大事なことだと思っているので、リクルートでは嘘をつかず、誠意や熱意を持って選手と話しました。

——鈴木達也選手や牧選手など、久しぶりに一緒のチームで戦う選手もいますね。

彼らとまた一緒に戦えることはシンプルにうれしいです。タツ(鈴木)は今もキレキレですけど、三遠ネオフェニックスで一緒にやっていた時は20代だったので、良い意味で歳をとったなと思いましたね(笑)。当時よりも落ち着きやチームをまとめる力を感じてうれしく思いますよ。琉球で一緒だった牧も当時は入ってきたばかりでしたが、今は優勝を経験した選手になってオーラも感じます。選手の成長を感じられるのはコーチとしてはすごくうれしい経験です。

——昨シーズン仙台でプレーしたヴォーディミル・ゲルン選手を獲得しました。外国籍の編成ポイントについても教えて下さい。

まずは選手の特性を考えて、バランスに重きを置きました。インサイドの帰化選手がいない大阪では、良いスクリーンをかけてハードダイブしてくれるビッグマンが絶対に必要だと思っていたので、それが誰かというとブラディ(ゲルンの愛称)だとシンプルに思いました。あと2人については、昨シーズンの仙台で言うとネイサン・ブースのようなショットの上手な選手と、ラショーン・トーマスのようなアタックのできるビッグマンが必要だと考えて、ライアン・ルーサーとマット・ボンズに来てもらいました。

ディフェンスをやらない外国籍は獲りたくないと思っていました。ですので、ディフェンスを頑張れる選手。ぜいたくを言えば、脚が動かせて身体能力があり、激しく前からディフェンスができるようなビッグマンをと考えていました。

藤田弘輝

「大阪の選手たちには良い意味で期待を裏切られた」

——昨シーズンの仙台でアーリーオフェンスを徹底していたように、藤田ヘッドコーチは毎シーズンしっかりテーマを持ってやりきるチームを作っている印象です。今シーズン、大阪でのテーマはなんでしょう?

去年の仙台に関しては、選手さまさまなんですよね。コーチが「こういうバスケットをしたい」と思っていても、それに合う選手がいないとできませんから。変な例えになりますが、カレーを作りたくてもルーがないと完成しません(笑)。大阪は他のチームに比べると全体的にサイズが小さいと思いますが、全員が走って全員がプレーメークできるようなチームです。トランジションも走って、そこからアーリーオフェンスに繋げて、しっかり全員でアタックしながら次のオプションを模索するというチームができるかなと思います。

——大阪の選手は明るいというか、ストイックな選手が多かった仙台とはチームカラーが異なる印象があります。実際に合流してみてどうでしたか?

自分もそういう印象でした(笑)。ただ、毎日ハードワークして、すごく真剣にバスケットに取り組んでくれている印象ですし、良い意味で期待を裏切られたというか予想を上回ってくれました。負けん気が強い、感情が表に出やすいという選手もいますけど、それが悪いとは思わないので、ハードワークをし続けられるようなチームを作っていきたいですね。

——シーズンを通じての藤田ヘッドコーチと選手たちの融合が楽しみです。

見ている人にやりたいバスケットがはっきりと伝わればいいなと思います。「大阪はこういうバスケットをするんだ」って思ってもらえるシーズンになればうれしいです。そのためには自分たちがきちんとそれを明確に認識しながら戦い続けることが必要です。

——今野GMは「優勝」という目標を口にされていました。ブースターからのヘッドコーチに対する期待も高いと感じます。ご自身はどう受け止めていますか?

あまり考えないようにしてます。期待されてうれしいのかプレッシャーになるのか、まだ自分の中では分からないですが、パフォーマンスするのは選手ですし、自分も選手もベストを尽くすだけです。今の評価や期待よりも後からついてくるものが重要です。

——琉球での地区優勝や仙台でのB1昇格など、いくつものクラブで結果を出してきました。転換期を迎える大阪でも今までの経験が生きてくると感じますか?

今まで関わったコーチや選手のおかげで今の自分があると思います。綺麗ごとではなくて、これまでの経験から学んだものが今の自分のコーチングに繋がっているんです。bjリーグ時代の群馬クレインサンダーズではヘッドコーチが急に退団し、ピカピカの1年生のアシスタントコーチなのにヘッドコーチを務めることになった自分を、ベテラン選手たちが助けてくれました。三遠でもいろんな人に助けてもらいながら戦った記憶がありますし、それは琉球や福島ファイヤーボンズ、仙台でも同じです。

——最後に、応援してくださっている方に向けて今シーズンの意気込みとメッセージをお願いします。

自分にとっては1からスタートするシーズンになりますが、絶対にバスケットに向き合い続け、あきらめないことは約束します。アップダウンのあるシーズンになると思いますが、しっかりと戦い切って目標であるチャンピオンシップ、そしてその先にある優勝に近づけるようなチームを選手たちと作っていきます。