レブロン・ジェームズ

それぞれ自分の得意な役割に集中し、個人の強みを発揮

パリオリンピックの男子バスケットボール、グループリーグで最注目の一戦となったアメリカvsセルビアは、『個人能力のアメリカ』と『組織力のセルビア』という構図そのままの展開となった。結果としてアメリカの個人能力が予想以上に発揮されたのに対し、セルビアの組織力は十分に発揮されず、試合が進むにつれて優位を固めたアメリカが110-84の快勝を収めた。

試合開始から10-2と好スタートを切ったセルビアに対し、アメリカはセンターを先発のジョエル・エンビードからアンソニー・デイビスに代えてディフェンスを立て直すと、ステフィン・カリーにデビン・ブッカーと3ポイントシュート攻勢で得点が動き始め、アンソニー・エドワーズのブロックショットから速攻に走ったレブロン・ジェームズのダンクで13-12とあっという間に逆転する。

ただ、アメリカは3ポイントシュートが当たり、速攻でも恐るべき決定力を見せる一方で、ゴール下ではニコラ・ヨキッチのリムプロテクト能力とリバウンド、それをカバーする周囲の連携も良いセルビアから得点を奪えない。そこで再びセルビアが優位に立った第1クォーター残り2分半、14-20とビハインドの場面で投入されたケビン・デュラントがアメリカの『ゲームチェンジャー』となった。

デュラントはふくらはぎのケガで強化試合に出場できず、トレーニングも十分ではなかった。それでも最初のボールタッチで3ポイントシュートを決めると、エドワーズも3ポイントシュートで続き、最後はエドワーズのブザービーター・アリウープと、デュラント投入から11-0のランに。デュラント投入のタイミングでセルビアはヨキッチをベンチに下げて休ませていたが、この間のパフォーマンス低下は明らかだった。デュラントの3ポイントシュートにレブロンのドライブとアメリカのハイライトプレー連発で、セルビアの6点リードでベンチに下がったヨキッチがコートに戻って来た時には10点のビハインドになっていた。

それでもヨキッチがコートに戻ると、その個人能力に周囲も噛み合ってセルビアは復調し、オグネン・ドブリッチの4点プレー、セカンドチャンスからチームで崩してアレクサ・アブラモビッチのイージーレイアップに繋ぐなど本領を発揮し始める。しかし、ここで理不尽なまでの個人能力で試合の流れをアメリカに持っていったのがデュラントだった。ひたすらシュートを決め続け、キャッチ&シュートでのターンアラウンドジャンパーという高難易度のシュートをブザービーターで沈めて前半を締めくくった。前半のデュラントはわずか8分半の出場でフィールドゴール7本すべて成功、そのうち5本が3ポイントシュートで21得点と、異次元の個人能力を披露した。

そして後半、セルビアは息切れを起こす。ヨキッチにボールを集めるも、そこから周囲の動きが乏しく連動した攻めにならず。これではヨキッチのプレーの選択肢が少なく、個で攻めて消耗が進むことに。ヨキッチの個人技で食らい付くも、誰がコートに立っていても全員が個人能力で優れるアメリカにズルズルと離されていった。

第4クォーターが始まって2分、デュラントがこの日9本目にして初めてシュートを外したが、その時には86-65と勝敗はほぼ決していた。セルビアは個々の奮闘がチームとして連動しないまま。一方のアメリカはどの選手もそれぞれ自分の得意な役割に集中し、その個人能力の強みを最大限に引き出した。デュラントは23得点、レブロンが21得点7リバウンド9アシストを記録。他にもブッカーが12得点5アシスト、カリーが11得点3アシストと活躍している。

両チームの差はポイントガードのプレーメークの差でもあった。バシリイェ・ミチッチは11得点2アシスト、ドリュー・ホリデーで15得点3アシスト。スタッツに大きな差はなくても、個々の能力を引き出しながら『寄せ集めのチーム』をアグレッシブにプレーさせたホリデーのゲームメークが光った。