デリック・ローズ

若い選手にアドバイスを送り、ニックスの将来に向けた基盤作りに貢献

デリック・ローズはNBAでの14シーズン目を終えた。かつての史上最年少MVPも34歳となり、大手術をした膝を始め、身体のあちこちに古傷を抱えて往年の切れ味は望むべくもない。今シーズンは27試合に出場したが、年明けからはローテーションを外れた。1月末に右足首の骨棘を取り除く手術を受け、その1カ月後にも足首が感染症を起こして再び手術した影響で、プレーできなかった。今年に入ってからはレギュラーシーズンで1試合、プレーオフではファーストラウンドの1試合、それも2分、3分とほとんどプレーできなかった。

それでも、彼は充実している。若いチームメートから慕われ、長く厳しいシーズンを戦う上でのコンディション管理の手本を示し、プレッシャーに打ち勝つ、時には受け流す方法を教えることで、ロッカールームの重要な役割を占めている。

2年目でシューティングガードの先発に定着したクエンティン・グライムズは、プレーオフを前にした4月の時点で「彼はMVPを受賞した選手で、僕らの知らないこのリーグのことをたくさん経験してきた。彼の話には耳を傾ける価値がある。プレーオフが近付いた今は特にね。ローテーションからは外れているけど、チームにとってとても重要な存在なんだ」と語っている。

指揮官トム・シボドーはブルズ時代から長く一緒に戦うローズを特別扱いせず、わざわざ名前を挙げて称賛したりはしない。それでも若手を支える側に回ったローズの貢献には満足しているはずで、それが伝わるから滅多にないローズのプレーを見る機会に出合わせたニックスのファンは、彼にリスペクトを込めて拍手を送る。身体能力の衰えは目立ち、戦力としては厳しい段階に入っていてもなお、チーム内外のあらゆる関係者からリスペクトされ続けるのは特別なことだ。

かつてのローズは一匹狼で、自分が活躍することでチームを勝たせることだけを考えていた。そんな彼が変わるきっかけとなったのは、2017-18シーズン前半のキャバリアーズ時代、レブロン・ジェームズと一緒にプレーしたことだと言われる。当時もケガを抱え、期待に応えるプレーができなかったが、レブロンは文句一つ言わずローズの回復を待ち、メンタル面をサポートした。そのおかげでローズは嫌な思いを全くすることなく、リハビリに集中できた。

結果としてキャブズ移籍は失敗に終わったが、ローズは大きな学びを得た。レブロンほどの選手がケガに苦しむ選手に気を配り、手助けを惜しまない。リーダーのその姿勢がチームを結束させ、浮き沈みの激しいシーズンの最後に浮き上がる力を生み出す。

キャブズを離れた際、ローズはこう語っている。「結果を出せなかったことで僕が落ち込んでいると思うだろうけど、その逆だ。数年前に自分の殻に閉じこもった失敗から僕は学び、今回はNBAで最高の選手から学ぶ機会を得た。チームや家族といつもコミュニケーションを取って、何が起きても受け入れるんだ」

その後、ローズはティンバーウルブズとピストンズで少しずつではあるがパフォーマンスを取り戻し、ニックスでの3シーズン目を終えた。あと1年残っている契約は無保証で、ニックスがいかにローズをリスペクトしているとしても、ローテーションから完全に外れているベテランに1560万ドル(約21億円)の契約を保証することはないだろう。ただ、『NY Post』は彼に引退するつもりがなく、それどころかユドニス・ハズレムのように若い選手にアドバイスを送り、チームのアイデンティティを内外に示す存在として、やれる限り現役を続ける意向だと報じている。

長らく低迷が続いたニックスに将来に向けた良い基盤ができたのは、ローズの存在が少なからず影響しているのだろう。今後の契約はベテラン最低保証額になるだろうが、ローズにはまだチームに貢献できる。ここに来て、タレントは揃っていてもリーダー不在のブルズが、ローズ獲得に関心を持っているとの噂も浮上している。ブルズの場合は、ロンゾ・ボールに復帰の目処が立たない状況で、ポイントガードとして限られた役割ではあるがプレーも期待されている。度重なる大ケガを乗り越えたベテランが、今もチーム内で必要とされ、リスペクトされるのは幸せなことだ。