現地6月30日からフリーエージェントとの交渉が可能に
ジェームズ・ハーデンはフリーエージェントの権利を得て、長らく追い求めているNBA優勝という夢の実現に動く。しかし、選択肢は多くない。セブンティシクサーズと新契約を結んで残留するか、かつて8シーズンに渡りエースとして君臨したロケッツに復帰するか。ほぼその2択だ。
優勝を狙うためには、ロケッツに戻ることにほとんど意味はない。2020-21シーズンが始まってすぐに、彼が周囲との軋轢をも辞さずに強引に退団したのは、ロケッツにタイトル争いをする力が残っていなかったからだ。その後の3年間をロケッツは再建チームとして過ごし、新たなサイクルの基盤はできたが、まだまだ力は足りない。
ロッタリーでドラフト1位指名権を引き当ててビクター・ウェンバニャマを引き当てていれば、ハーデンの野心は刺激されただろうが、事はそう簡単には運ばない。ハーデンがジェイレン・グリーンとバックコートを組み、ドラフト1巡目4位で指名したアメン・トンプソンとジャバリ・スミスJr.がウイング、アルペラン・シェングンがセンター。ポテンシャルは感じさせるものの、すぐに勝てるロスターではない。6000万ドル(約80億円)と言われるキャップスペースを活用してハーデンに加えてもう一人のビッグネームを獲得したところで、優勝を狙うには心もとない。
西カンファレンスは再びレベルが上がっている。経験ではウォリアーズとレイカーズ、勢いではキングス、そしてハーデンにとっては懐かしくもほろ苦いであろうスターシステムに突き進むサンズがいて、NBA初優勝を果たしたナゲッツは今後『絶対王者』として君臨する雰囲気をまとっている。今シーズンこそ東カンファレンスは激戦となったが、やはり西の方が勝ち抜くのは難しい。プレーオフ経験のない若手が多いロケッツではなおさらだ。
若いタレントが経験を積めば、数年後には楽しみなチームになるだろうが、33歳になり、ほとんどケガなくフル回転が当たり前だったロケッツ時代とは異なる現実に向き合うハーデンが、それを待つ気にはなれないだろう。
そうなるとシクサーズ残留の可能性が高いように見える。ダリル・モーリーという長年一緒に戦ってきたフロントの存在は大きいし、ジョエル・エンビードとハーデンのツーメンゲームは強力で、指揮官がドック・リバースからニック・ナースに代わることでの戦術的な変化はチームにとってプラスになりそうだ。ハーデン自身も自分が担うであろう役割に刺激を得られるだろう。
ただ、シクサーズがハーデンの残留を願うのは間違いないが、大盤振る舞いのオファーは出せない。ハーデンのバード権を持つシクサーズは最大4年2億1000万ドル(約280億円)の契約を出すことができるが、ネッツとシクサーズでのここ3シーズンでケガが増えたハーデンに、4年の大型契約は出しづらい。来シーズンからエンビードの年俸が4700万ドル(約64億円)と跳ね上がり、タイリース・マクシーのルーキー契約もあと1年という懐事情が、それを許さないという現実もある。
シクサーズがハーデンを納得させる契約条件を見つけ出せるか、あるいはロケッツが彼の気持ちを変えられるか。一つ言えるのは、両チームともにハーデンを来シーズンの構想に入れており、取り逃した場合にその穴を埋めるのは簡単ではないということだ。
シクサーズはマクシーとディアンソニー・メルトンのオンボールでのプレーを増やし、特にマクシーのプレーメーカーとしての成長に賭ける。ロケッツはあり余るキャップスペースを他のフリーエージェントで費やすことになり、その場合はフレッド・バンブリートとディロン・ブルックスの名前が上がる。どちらもハーデンがいるプロジェクトより『格落ち』の感は否めない。果たしてハーデンはどんな決断を下すのか。フリーエージェントの交渉解禁まで、あとわずかだ。