『アシスト÷ターンオーバー』はクリス・ポールを抑えリーグトップ
デマー・デローザンはNBA12年目のシーズンを戦うベテランだ。かつてはラプターズのフランチャイズプレーヤーだったが、カワイ・レナードとのトレードでスパーズに来てからは『普通のエース』にグレードダウンし、オールスターにも選出されなくなった。今のNBAで重視される3ポイントシュートを武器としておらず、今年32歳になる彼は今後の伸びしろがないと見なされる。今シーズン終了後にはフリーエージェントとなるため、若手への切り替えを進めるスパーズからトレードされるとの噂もあった。
しかし、移籍は実現しなかった。噂は噂。可能性はあったのかもしれないが、スパーズはデローザンがどれだけのプレーヤーか正しく理解していた。34.1分のプレータイム、20.9得点、7.2アシストはすべてチームトップの数字。そして今も、彼はプレーヤーとして成長し続けている。
一つはアシスト数だ。ラプターズ時代は最高でも5.2で、9シーズン平均では3.1だったアシストが、スパーズの3年間では6.2と倍増している。それでいてターンオーバーは微増に抑えている。効率良くチャンスを作り出す指標である『アシスト数÷ターンオーバー』において、今のデローザンはNBAトップの存在だ。
今シーズンここまで、1試合平均アシストはジェームズ・ハーデンの11.1がリーグ最多。ラッセル・ウェストブルック、トレイ・ヤング、ルカ・ドンチッチと続くリストの17番目にデローザンの名前はある。しかし、アシスト数のトップ50の選手を『アシスト数÷ターンオーバー』で並び変えれば、3.8(7.2アシスト÷1.9ターンオーバー)のデローザンは、クリス・ポールを抑えてリーグトップへと躍り出る。
さらに付け加えるならば、デビン・ブッカーと一緒にプレーするクリス・ポールより条件は不利だ。ちなみにアシスト数の上位50選手のうち、『アシスト数÷ターンオーバー』が3.0を超えるのは12人しかいない。
これだけの数字を可能にしているのは、3ポイントシュートをほとんど打たない(今シーズンの試投数は1.6本)代わりにミドルレンジのプルアップを高確率で決めるスキルに磨きを掛けているからだ。今のNBAのトレンドとは完全に逆行しているが、だからこそ相手は彼を守るのが難しく、人数をかけてプレッシャーを掛ければパスを通される。
ただ、このデローザンの長所と特性を理解するチームが出てこなければ、トレードは成立しない。デローザンは派手なプレーを持ち味とはしない。緻密なバスケを遂行する中で最良のアクセントを加えられる選手であり、同時にオンボールで価値を示す選手であるため、オフェンスのファーストオプションとして使う必要もある。
そんな彼のことをスパーズ以上に評価するチームは現れないのではないか。今のスパーズのバスケはデローザンありきのスタイルで、若返りを図る最中であっても24勝23敗と勝ち越し、西の8位でプレーオフ進出圏内を死守している。かくして、デローザンは今シーズン最後までスパーズでの挑戦を続けることになった。その先がどうなるかを予見するのは難しいが、スパーズとしては今の2700万ドル(約30億円)よりも手頃な契約で落ち着くのであれば、新たな複数年契約を結びたいと考えているのかもしれない。
デローザンはいまだキャリアの最盛期にいる。そして若手を導く良きリーダーでもある。それをどこよりも理解しているのがスパーズだ。