
『チームを勝たせられない選手』の評価を払拭できるか
セルティックスやレイカーズの球団売却が記録的金額を更新し、新たな放映権契約も始まるところで、NBAを取り巻くビジネスは絶好調だ。その恩恵は選手にも届いており、サラリーキャップは毎年引き上げられ、一世代前のスーパースターがキャリアを通じて得た金額を20代のうちに得る者も出始めている。
しかし、新ルールの施行により割を食っているのが、キャリア4年目の若者たちだ。キャム・トーマス、ジョシュ・ギディー、ジョナサン・クミンガ、クエンティン・グライムズは2021年ドラフト組。それぞれNBAで4シーズンを過ごし、これまでであれば今オフのタイミングで好条件の新契約を勝ち取っていただろうが、納得できる契約を提示された者はいなかった。
動きのないまま9月に入り、キャム・トーマスがネッツと1年600万ドル(約9億円)のクオリファイング・オファーを受け入れた。昨年オフにロケッツと3年1億500万ドル(約160億円)の契約延長に合意したジェイレン・グリーンと同等の扱いを望んだトーマスに対し、ネッツのオファーは2年3000万ドル(約45億円)だったと言われる。
トーマスの希望額は年3500万ドル。しかしネッツの提示はその半分以下で、最終的に彼はさらに安い600万ドルでプレーする。クオリファイング・オファーを選択して、新シーズンを格安の年俸で過ごす代わりに、来年オフにトーマスは無制限フリーエージェントとして自分の行きたいチームを選べる。
チームに他のスコアラーがいるわけでもないのに、ネッツはトーマスとの契約延長を渋った。それはトーマスのポテンシャルを信じ切れていないのと同時に、トーマスが望む条件を提示できるチームがなく、仮に現れてもネッツは同額を提示すれば引き留めることができた。
足元を見たネッツ、勝負に出たトーマス
ギディーとグライムズは移籍を経験しているが、クミンガとトーマスはドラフト指名からの生え抜きで、さらにトーマスは直近の2シーズンでチームトップの得点を記録している。物足りない部分はあるにせよ、『チームの顔』として扱うのがこれまでであれば当たり前だったが、ネッツはそうは考えなかった。
ネッツとしては、他に良いオファーがない状況でトーマスが自分たちのオファーを渋々受け入れると考えていたのだろう。しかしトーマスは、2025-26シーズンで自らの価値を示す賭けに出た。
昨シーズンにハムストリングのケガで25試合にしか出場できなかった彼にとって、先の保証がない中でのハイリスクな賭けとなる。しかし、自分に貼られたネガティブなレッテルを剥がさない限り、彼は望むキャリアを築けない。ネッツが提示した屈辱的な条件を受け入れたとしても、ネガティブなレッテルは貼られたままで、問題は解決しない。
トーマスはアイソレーションで超人的な身体能力とスキルから得点を量産する選手だ。しかし、ネッツでプレーすることで『チームを勝たせられない選手』と見なされ、オフボールでは何もできず、プレーメークの才能もないと見られている。判断力に乏しく、ボールを持ったらリムに突っ込むだけの選手──。そうした評価を払拭しない限り、好条件の契約も、チームの中心に据えられる未来も訪れない。
昨シーズンの彼は、ピック&ロールのハンドラーとして成長を見せつつあったが、その成果が出る前に長期離脱となってしまった。昨シーズンにケガがなく、プレースタイルが良い方向に変化していれば、ネッツの態度は違ったものだっただろうが、現実はこのように動いている。このトーマスの決断は、同じ境遇に立つクミンガ、ギディー、グライムズにも波及していくはずだ。