『バスケット・グラフィティ』は、今バスケットボールを頑張っている若い選手たちに向けて、トップレベルの選手たちが部活生時代の思い出を語るインタビュー連載。華やかな舞台で活躍するプロ選手にも、かつては知られざる努力を積み重ねる部活生時代があった。当時の努力やバスケに打ち込んだ気持ち、上達のコツを知ることは、きっと今のバスケットボール・プレーヤーにもプラスになるはずだ。
1990年4月3日生まれ、東京都出身。力強さとしなやかさを兼ね備えた日本代表の不動のセンターで、184センチの身長を生かして攻守を支える。センターながら精度の高いミドルシュートも武器としており、俊敏さを生かして得点を量産する。
どれだけ自分を奮い立たせられるかの勝負
東京成徳は強豪校なので、付いていくのは大変でした。入学式の前から「来るんじゃなかった」と後悔していました(笑)。入試が終わって、春休みに練習を見学しに行った時点で「ああ、世界が違うな」と。もともと楽しいバスケしか知らなかったので、いきなりバスケが仕事になったイメージでした。
最初のうちは、とにかく運動量が半端ない練習に付いていくだけでも必死。もともと持久力がないのでキツかったです。走り込みなんて、それまでやったことがありませんでしたから。体が細かったところに筋肉がぼこぼこと付き始めた時期は、毎晩30分おきに全身がつるんです。体との戦いで、どれだけ自分を奮い立たせられるかの勝負でした。
私はライバルに対して「勝ってやろう」と闘志を燃やすタイプではありません。内に秘めるものはありますが、外には出さないですね。中学校の頃なんか特に、自分が上のレベルに行こうとか、そういう選手になれるという意識がありませんでした。自分のことに必死で、他のことを考える余裕がなくて。ひたすらに自分と向き合いながら、「強くなれ、強くなれ」という日々でした。だから「誰かに勝とう」というレベルにすら立っていなかったんだと思います。
一瞬一瞬が自分との戦いで、へこたれそうになることもありました。「やめたい」と思ってしまう時のお守りが退部届でした。その封筒をいつもカバンの中に忍ばせて、それが心の逃げ道になっていたんですね。実際のところ封筒の中身は退部届ではなく、「ちくしょー!」みたいな自分の心の声が書き殴ってあるだけなんです。でもそれが一種のお守りになっていました。
キャプテンの重圧に苦しめられて、玄関から足が動かず
2年生になるとようやく体もできて、プレーも追い付けるようになりました。一番バスケットが波に乗った時期ですね。でも、3年生になってキャプテンを任されたのは辛かったです。自分は引っ張るタイプでもなく、キャプテンに向いているとは思っていませんでした。そこでキャプテンを任され、「そんなのでキャプテンが務まるか!」と怒られても、「じゃあなんで私を選んだのか」と考えてしまいますよね。
コーチや先生は、そこで私のキャプテンシーを引き出したかった、プレー以外の強さを求めていたのかな、と今は思いますが、当時はなかなか気付くことができませんでした。
自分は一生懸命やっているのにチームがうまく行かなくて、そこで全国大会優勝を狙っている、連覇しなきゃいけない、という重圧がすごいんです。初めてのキャプテンで、どう息抜きしたらいいかも分からず、一生懸命やればやるほど苦しくなっていくような。
仲間の前で弱い姿は絶対に見せませんでした。カッコつけたわけではありません。こういうお調子者のキャラクターなので、泣いている姿を見せるのはなんか恥ずかしくて。なので、部活が終わってみんなと別れて、電車に乗ると家までずっと泣いていました。
学校に行く時も、普通に朝ごはんを食べて制服を着るまでは普通に過ごしているのに、玄関に立つと一歩が出ない。そこでがーっと泣いてしまう。やばい精神状態ですよね。その時に母は「辛かったら行かなくていいし、キャプテンも辞めていいよ」と言ってくれました。でも同時に、「辞めたところで、他にチームをまとめる人はいるのか」とか「次の人にちゃんと『お願いします』と言ってから辞めなさい」とか言われて、そこでもう一度考えて。落ち着いて「自分しかいない」と考えられた時に、一歩が踏み出せました。
逃げていても解決しないという話ですが、やっぱり強豪校のキャプテンは大変なんです。結果が出てよかったです、本当に(笑)。それだけ大変でしたが、打ち勝てばその後は、理不尽なことがあっても気持ちの処理ができるようになります。それはバスケを続けるかどうかに関係なく、大人になってから困難に打ち勝つ力になるので。私はあの時期に精神的に一気に強くなれました。
今も、同じような境遇の子がいるんじゃないかと思いますが、でもこうやって振り返ることができる時期も来ますから、そこは何とか踏ん張ってほしいです。
バスケット・グラフィティ/間宮佑圭
vol.1「スカウトされちゃうんじゃ? とふざけていたら」
vol.2「カバンに『退部届』の封筒を忍ばせて」
vol.3「周囲の人をどう支え、どう引っ張っていくか」