文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

『バスケット・グラフィティ』は、今バスケットボールを頑張っている若い選手たちに向けて、トップレベルの選手たちが部活生時代の思い出を語るインタビュー連載。華やかな舞台で活躍するプロ選手にも、かつては知られざる努力を積み重ねる部活生時代があった。当時の努力やバスケに打ち込んだ気持ち、上達のコツを知ることは、きっと今のバスケットボール・プレーヤーにもプラスになるはずだ。

PROFILE 松井啓十郎(まつい・けいじゅうろう)
1985年10月16日生まれ、東京都出身のシューティングガード。クイックリリースで放つアメリカ仕込みの3ポイントシュートでチームを勢い付けるシューター。2015-16シーズンのNBLでの3ポイントシュート成功率は2位以下に圧倒的大差を付ける44.8%だった。

高校で「自分のシュートはアメリカでも通用する」と実感

僕の3ポイントシュートは、リズムが独特だったり、打つタイミングが人と違っていて、そこで打てるシュートというのが選手としての魅力なんじゃないかと自分では思っています。ディフェンスにしっかり付かれていても、ちょっとタイミングをずらすことによって打てる。自分のタイミングで「行ける」と思ったら打ちますね。そのタイミングが、コーチや他の選手に言わせると独特なんだそうです。

プロになるまではかなり打ち込みました。高校や大学の頃は、リバウンドしてパスしてくれるマシーンがあって、30分で100本ぐらい打てるんです。毎日400本から500本は打っていたんじゃないですかね。

今でもそうなんですが、僕のシュート練習はリング近くから打って、そこから徐々に離れていきます。野球のピッチャーがいきなり150キロを投げないのと一緒で、コートに来ていきなり3ポイントシュートは打ちません。最初から3ポイントシュートをバンバン打っていくと、近くになるとタッチが悪くなったりすることがあります。そこは徐々に温めていく感じです。

もう8年ぐらいずっと、試合の時はこのルーティーンです。あとは、試合前の練習ではそれほど本数を打たないタイプです。すごく打つ選手もいるのですが、自分はタッチが良いと感じられたら、そのへんで終わりにします。逆に入っていない時は打ったりしますけど。でもこのやり方はプロになってからです。学生時代はそれこそ打ち込んで打ち込んで、筋肉に覚えさせましたね。

タッチが良くない日もあります。自分の場合は「あれ、入っていないな」と思いながらも、気にしないようにしています。自分のシュートに問題があると思うともっと悪くなるだけなので。「ボールが悪い」とか「リングが悪い」とか、「ここの空気は湿ってるな」みたいな感じで切り替えます。自分のせいにはしないですね(笑)。

自分がアメリカのレベルでも通用すると思うようになったのは、高校の終わりの頃ですね。高校2年から1軍でプレーするようになって、3年生になると大学からオファーが来るんです。そこで世界選抜に選ばれて、それこそ田臥(勇太)さん以来かな。そこで同年代の超トップスター選手とやり合った時に、自分のシュートは通用するんだと分かりました。大学では3年の時に3ポイントシュートを49%ぐらい決めたんですね。そこで「やっぱり自分のシュートは通用するんだ」と再確認できました。

アメリカ行きは父から「一人で行ってこい」と送り出されました。ヘッドコーチの家にホームステイしたり、チームメートの家族と一緒に住んだりとか。こうしてプロ選手になったんですが、父は満足していないですね。いつも「俺が言っていたことをちゃんとやっていたら、お前はNBAに行っていた」と言ってますから(笑)。

でも、父は僕の試合はすべて見てくれますし、小さい頃から一番見てくれているので、自分のプレーを一番理解してくれているからこそ、そういう厳しい声もあるんだと思っています。全部褒めてくれる人しか周囲にいなかったら、自分の成長にはプラスになりませんよね。父の他にも、辛口コメントを言う友人もいるんですけど、よくバスケの話をしています。

得意の3ポイントシュートについて「学生時代はそれこそ打ち込んで打ち込んで、筋肉に覚えさせました」と松井は言う。

バスケット・グラフィティ/松井啓十郎
vol.1「小学生でマイケル・ジョーダンと対決!」
vol.2「アメリカで揉まれて身に着けたスタイル」
vol.3「シュートは毎日400本から500本は打った」
vol.4「ハードワークもただこなすだけではダメ」