桶谷大

「試合でやられたことを練習していく方が成長できる」

琉球ゴールデンキングスは5月15日、16日に行われたチャンピオンシップセミファイナルで名古屋ダイヤモンドドルフィンズに連勝し、5年連続ファイナル出場の金字塔を打ち立てた。

琉球はレギュラーシーズンで名古屋D相手に0勝2敗。4月15日の対戦は勝てば地区2位浮上のチャンスとなる大事な戦いで、前半の2桁リードを守りきれずに76-80で逆転負けを喫した。桶谷大ヘッドコーチが「自分たちはやりきるメンタリティや覚悟を持たないといけない。今日は自滅というより『絶対に負けない』、『何が何でもくらいついてやる』という覚悟が抜けてしまっていたと思います」と語る、メンタル面の甘さが出ていた。

しかし、この敗戦から1カ月が経ち、琉球はフィジカル、メンタルともに40分間戦い続けるタフなチームへと変貌。クォーターファイナルでも天皇杯を含め1勝4敗と負け越していたシーホース三河に連勝したように、『レギュラーシーズンとチャンピオンシップは別物』であることを、これ以上ないポジティブな意味で証明し、今年も頂上決戦へと辿り着いた。

なぜ琉球はチャンピオンシップで、レギュラーシーズンからさらに1つギアを上げた強さを見せることができるのか。それはレギュラーシーズンをチャンピオンシップで勝つために経験を積ませる場と、覚悟を持ったチーム作りをしてきたからだ。

目先の勝利を貪欲に求めていかないと、チャンピオンシップに進出できない可能性はある。だが、そのリスクを負ってでも、琉球は若手に経験を積ませるなど、先を見据えた戦いを行ってきた。そこには桶谷ヘッドコーチの「日本の教育は積み重ねていって、大きいものに到達することを目指すのが一般的な在り方だと思います。ただ、バスケットボールは対人のスポーツです。だから、積み重ねていっても相手がそれを潰しに来ると次の手を出さないといけないわけです」と語る、失敗を経験することを大切にするチーム作りの哲学がある。

「試合で経験したこと、やられたことを練習していく方が、バスケットボールプレーヤーとして成長でき、チームとして成長できます。それはやっぱりレギュラーシーズンを通してでしかできないです。プレシーズンでどれだけ練習しても、正直チーム力はなかなか上がらないと思っています。シーズン中にいろいろな課題が出て、それを潰していく。そして試合で同じ課題がカオスの中で出てきた時、『こういう風に対応できるよね』とプレーするのがバスケットボールだと思っています。そうやって勝てなかったり、しんどい思いをしたところで対応できる力がついてきたと思います」

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桶谷HCが目指す最強の組み合わせ『7.5理論』

また、指揮官は時に失敗を許容し、チャンピオンシップにピークを合わせるチーム作りができるのは「僕一人ではできないです。この2年間、佐々(宜央アソシエイトヘッドコーチ)がいてくれたり、理解者がいてくれるのが大きいです」と、周囲の支えがあってこそと強調する。

「自分一人だと、『いや、今勝たないとダメでしょ』となって離れていく人もいると思います、でもチーム内、球団がこのやり方を理解してくれているのが大きいです。これをキングス以外のチームでできるかといったら、結構難しいと思います。ファンの皆さんも目の前の試合に勝ってほしいし、『この試合は何やってんの?』みたいなことはレギュラーシーズンでたくさんあります。でもその中で、トライしたい、トライさせたいことがある。選手たちがトライ&エラーして成長に繋がっていくことがないとやっぱりチームは強くならないと思います」

5年連続ファイナルという快挙を成し遂げた琉球だが、ここまでファイナルは1勝3敗と負け越している。そして今回の対戦相手、長崎ヴェルカは琉球とは対照的なチームカラーを持った難敵だ。ジャック・クーリー、アレックス・カークのツインタワーを軸とするインサイドゲームを主体とする琉球に対し、長崎はリーグ随一の高速バスケットボールによる爆発的なオフェンス力を武器とする。

また、琉球はクーリーのリバウンド以外、スタッツランキングの上位に入る選手がおらず、先日リーグが発表したMVP候補となるレギュラーシーズントップ10選手にも1人もいない。だが、長崎は馬場雄大、イ・ヒョンジョン、スタンリー・ジョンソンと3人も選出されている。スターパワーにおいては、明らかに長崎に分がある。

その中で桶谷ヘッドコーチは、「僕は7.5理論ってよく話しています」と、全員バスケで立ち向かっていく姿勢を語る。「点数を取りたいスター選手が1人『2点』、汗かき役の選手が『1点』を持っているとして、スター選手が3人いて、汗かき役が2人だと合計8点となります。これだと、試合で使うバスケットボールが1つでは少ないです」

「でも汗かき役が3人、スター選手が2人だと合計7点で今度はパンチ力がないです。僕の中では全員が点を取れる危険な選手にも汗かき役にもなれる『1.5点』になって、合計7.5点となるのが最強の組み合わせで、キングスはこれをずっと目指してきました。ファイナルでは、この姿をどういう風に見せられるかだと思います」

ファイナルで、琉球には1試合20得点以上を取って個人で試合を支配する選手は現れないかもしれない。だが、スタッツで飛び抜けた存在が出なくとも勝つのが琉球の強さだ。