イビチャ・ズバッツ「簡単なプレーを一つもさせない」
イントゥイット・ドームに舞台を移して行われたファーストラウンド第3戦、ナゲッツは好調なスタートを切ったかに見えた。試合開始からの5分間、最初の8つのポゼッションでフィールドゴール8本すべてを成功させ、うち6つにアシストが付いて20得点を奪った。
しかし、マイケル・ポーターJr.がラッセル・ウェストブルックに、アーロン・ゴードンがペイトン・ワトソンに、ジャマール・マレーがジェイレン・ピケットに交代するごとに勢いを失っていく。第1クォーターを28-35と逆転されて終えると、第2クォーター開始からヨキッチ不在の5分間で37-50と点差を広げられた。マイケル・ポーターJr.は肩を捻挫し、ウェストブルックも足のケガで後半はプレーできず。こうなるとナゲッツに打つ手はない。
ナゲッツはベンチメンバーの質と量に課題を抱えており、それはプレーオフで深刻な問題として顕在化している。マイケル・マローンはベテラン重用でこれを隠そうとし、若手にチャンスを与えないとして解任された。しかしこの試合、ベンチから出た選手が挙げた総得点は6で、うち3点はベテランのウェストブルックによるもの。第4クォーター残り4分半でナゲッツは勝負をあきらめて主力を全員下げたが、それから試合終了まで若手が挙げた得点はジーク・ナジのフリースローによる1点だけだった。
ヨキッチは23得点13リバウンド13アシストと、この試合でもトリプル・ダブルを記録し、ジャマール・マレーも23得点を挙げたが、ナゲッツが誇るデュオもクリッパーズの堅守に抑えられた。2人のピック&ロールでズレを作り、それを阿吽の呼吸で活用するのが彼らの強みだが、ヨキッチはイビチャ・ズバッツが、マレーはクリス・ダンが1対1でほとんど止めてしまう。1対1で十分な優位にある時は、気持ちに余裕があるためにダブルチームを送られても冷静な判断でパスを出せるが、ズバッツを、ダンの守備に四苦八苦している状態でダブルチームが来ればかわせない。しかもヘルプに来るのはカワイ・レナードだ。
第2戦を終えた時点でズバッツは「今日はニコラに50%で26得点を奪われたけど、それなりに苦しめられたと思う。重要なのは簡単なプレーを一つもさせないこと。彼を止められるなんて思わない。できる限り苦しめることを考えている」と語っていた。
苦戦するヨキッチ「これ以上の後退は許されない」
そして第3戦でも、ズバッツは自信を持ってヨキッチと戦った。「相手はリーグ最強の選手だ。オールラウンドな選手だし、自分ではなくチームのためにプレーできる。バスケIQが高く、ブロックし、リバウンドを取り、シュートを決めて、パスを出すタイミングも心得ている。しかもハードワークもできる。でも僕としてはゲームプランを遂行するだけだ」とズバッツは語る。
「僕らにはジェームズ(ハーデン)、カワイというリーダーと、経験豊富なコーチングスタッフがいる。彼らが試合から多くの知見を拾い出し、対応策を考え出してくれる。僕らは遂行することに集中すればいい。それに課題はまだ多くて、それらをクリアすればもっと良いプレーができる」
トリプル・ダブルを許しても、ズバッツは何とも思っていない。ゲームプランを遂行し、思惑通りにヨキッチを苦戦に追い込み、チームは勝っているのだから。
初戦には勝ったが、その後は連敗で1勝2敗。ナゲッツにとって深刻なのは、試合を重ねるごとに内容が悪化していることだ。第1戦は互角だったが終盤の勝負強さで競り勝った。第2戦は敗れたとはいえ終盤に自分たちのミスが続いた結果の3点差で、どちらに転んでもおかしくない試合だった。ここまではクリッパーズの強さをリスペクトしつつ、自分たちがやるべきことをやれば大丈夫という感覚だっただろうが、試合ごとにナゲッツの攻め手を封じるクリッパーズが第3戦ではすべての面で上回った。そしてナゲッツは綻びを隠せなくなっている。
ヨキッチは「どうして抑えられるのか、正直よく分からない。自分たちのやり方でプレーしているつもりだけど……」と語る。「クリッパーズのディフェンスが素晴らしいのは間違いなくて、僕らの得意なプレーが封じられている。彼らの得意な動きに持ち込まれないやり方を見つけなきゃいけない」
試合中にチームメートを怒鳴りつける、今までのヨキッチにはあまり見られなかった様子も見られ、フラストレーションが溜まっているのは間違いない。ジリ貧の状況を変えるきっかけをどう作るか。敵地での第4戦に敗れればいよいよ窮地が極まる。
ヨキッチは「僕らにこれ以上の後退は許されない。前に進むしかない」と語った。かつては1勝3敗からクリッパーズを撃破したが、今のナゲッツにそのポテンシャルは残されているだろうか──。