クリス・ボッシュ&ゴラン・ドラギッチ

「すべて上手くいった。僕はラッキーな男だよ」

クリス・ボッシュはコート上で完全燃焼できないまま現役引退へと追い込まれた。2003年のNBAドラフト1巡目4位でラプターズに指名されたボッシュは、力強くてクレバーなパワーフォワードとして活躍。2010年に移籍したヒートでもパワフルかつ洗練されたプレーで、ドラフト同期のレブロン・ジェームズやドウェイン・ウェイドとともに2012年、2013年のNBA優勝を勝ち取り、キャリアを通じてオールスターに11回選出されている。

しかし、彼は2015年から2年続けて血栓症と診断された。メディカルチェックで病気が見つかったことで、ヒートは彼をプレーさせなかった。血栓そのもののリスクもあったし、肺に血が溜まらないよう血液希釈剤の投与を受けていることで、コート上の接触で出血があった場合、止血できないリスクもあった。無期限での欠場が長く続いた末の2019年に、彼は静かな引退を迎えた。

そのボッシュがヒート時代のチームメート、ゴラン・ドラギッチの引退試合に参加し、再びコートに立った。ドラギッチはサンズで成功を収めた後、2014-15シーズン途中にヒートに移籍して来た。レブロンが退団を選択した直後の出来事で、このシーズンにボッシュは最初の血栓症の診断を受けるのだが、たった44試合しか一緒にプレーしなかったにもかかわらず、ドラギッチとボッシュは互いに『最高のケミストリー』を感じていた。

ボッシュは『ストレッチ・フォー』の先駆けで、3ポイントシュートを打てるビッグマンだったが、当時はまだ一般的ではなかったプレースタイルを理解し、活用してくれるポイントガードに恵まれなかった。ドラギッチはプレーメーカーとして、ピック&ロールのユーザーとして、ボッシュの新たな可能性を引き出した。

わずかな期間であっても、そこで生まれたフィーリングと友情は今に至るまで続いている。ドラギッチが故郷で行う引退試合にボッシュはやって来た。そして、数分間だけではあるがバスケットボールをプレーした。

「ゴランは素晴らしい選手であり、素晴らしい人間なんだ。さらに重要なのは、ロッカールームにタフネスとスピリットをもたらしたことだ。いつも激しく戦い、チームのためにプレーできた。つまり頼れるヤツだったのさ」とボッシュは言う。

「ポイントガードの彼とビッグマンの僕の相性は完璧だった。『ナチュラルフィット』というやつだ。一緒にプレーする機会はあまり多くなかったけど、いつだって楽しかったな」

2019年に正式に引退したボッシュは、2021年にバスケットボール殿堂入りを果たしている。悲しみと憤りの中で引退せざるを得なかったが、今の心境は落ち着いたものだ。

「すべて上手くいったよ」とボッシュは自分自身のキャリアを振り返る。「2度の優勝。素晴らしい人たちと素晴らしいチームメートたち。僕はラッキーな男だよ」