本場で磨いた鋼のメンタル「誰が相手でも負けない、ぶっ倒す」
今シーズン島根スサノオマジックに入団した大橋大空(ひろたか)は、アメリカから日本に戻ってきた『逆輸入型』のプレーヤーだ。高校、大学とポイントガードを任されてきたが、島根では身長165cmと小柄ながらウイングの役割を担い、シュート力に加えてタフなハートでもチームを後押し。昨年12月1日の千葉ジェッツ戦でデビューを果たし、12月16日には初得点も記録した24歳。チャンピオンシップ出場を争うチームで出場時間を得るためにも、日々の練習から猛アピールし、声を出し、ハッスルプレーで貢献を誓う。
第23節のサンロッカーズ渋谷戦の第1戦を落とした島根は、第2戦に逆転勝ちし、現在22勝17敗で西地区3位。2試合ともに大橋の出場時間はなかったが、ベンチから声を張り上げた。
「チャンピオンシップに向けてチームは一丸となっています。ベンチで一生懸命声を出して、自分は英語もできるので、ポール・ヘナレコーチの話を他の選手に伝える手助けもしようと。何でもいいので少しでも自分のできることを頑張って、勝利に貢献したいです」
試合でも練習でも、トライアウトを受けているかのような心境で1分1秒を大切に過ごしている。
洛南高時代に京都府選抜として国体優勝を経験し、卒業後はプレップスクールなどを経てNCAAディビジョン2のブルーフィールド州立大で2シーズンを過ごした。「アメリカ人の熱いメンタルにひかれて渡米しました。『決められたら俺が決め返す』という熱意や貪欲さが最も成長した部分です」と、アメリカで得たものについて話す。
2年間は出場48試合すべてで先発し、1試合平均6.9得点、5.0アシスト、3.1リバウンドを記録。特に1年目は平均32分出場して9.5得点を挙げ、165cmの身長でもやっていけるという手応えを本場でつかんだ。
「プロでやりたいとずっと考えていました。日本のレベルが上がっているとは聞いていましたが、自信はありました。誰が相手でも絶対に負けない、ぶっ倒すという気持ちで帰ってきましたし、どれだけ通用するか試してみたかった」と島根入団を決断。新興チームのブルーフィールド州立大において初のプロ選手となったことから、Bリーグ入りが決まった際には地元でニュースとして取り上げられたという。
だが、強豪クラブではプレシーズンから思うようにプレータイムを得られなかった。与えられた役割のウイングはこれまでに経験がなく、対応しきれなかった。「コーチから見て、自分の準備がまだできていないと思われている」と悔しさが募り、眠れない日々を過ごした。
限られた機会でプロ初得点『兄貴分』安藤誓哉らも大喜び
それでも下を向かないのが大橋のキャラクターだ。「練習の5対5でもお互いが毎回全部勝ちに行く」というリーグ有数の強度で鍛え、モチベーションを維持。安藤誓哉やペリン・ビュフォードと毎日のようにマッチアップし、2人のアイデアや言葉を間近で学んでいる。
チーム練習後のワークアウトも安藤と一緒。「誓哉さんが練習での取り組みを試合に落とし込んでいく過程を見て、自分に置き換えて考えるようにしています」と、限られた出番に向けて爪を研いでいる。
待望のプロ初得点は12月16日。信州ブレイブウォリアーズとの第1戦、92-64と大きくリードした第4クォーター残り1分21秒、左ウイングからドライブを仕掛けた後に体勢を立て直し、ピックを使ってマークが離れた隙にプルアップの3ポイントシュートを沈めた。出番をうかがい、ずっと練習で取り組んできたシュートだった。
チャンスは限られているだけに、1本目の試投で決めたのも自信になった。自身は右手で小さくガッツポーズを決めたが、それよりも安藤や白濱僚祐ら『兄貴分』がベンチで盛り上がったのが、これまでの取り組みへの評価だった。
指揮官のポール・ヘナレは「一言だけ『学んで』と伝えている」と多くは語らない。それでも大橋は今後目指す道筋を具体的に見据えている。「一つひとつ段階を踏んで、第1、第2クォーター残り5分で相手をシャットアウトするぐらいのディフェンスで出場時間を得たいです。ポールコーチから『ファウルを使っていいから止めてこい』と言われるように信頼を勝ち取りたい」。ブースターから『ディフェンスの鬼』として親しまれている白濱に次いで、コートでエナジーを与えられる存在となるつもりだ。
現在『FIBAアジアカップ2025予選Window1』に向けて合宿に入ったトム・ホーバス体制の日本代表は、富樫勇樹(千葉J)、河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)ら小柄ながら得点力のあるガード陣がチームを牽引している。「小さくても関係ないと思えるし、2人を超える評価を得られる選手になりたいと思っています。『小さくてもバスケットはできるんだぞ!』って証明したいです」
河村より7cm、富樫よりも2cm小さい大橋は、Bリーグでの実績はまだ2人には及ばない。しかし、大きな野望を胸に島根から『小さな巨人』となるべく、成長を続けている。