「点数を取り合えたことが一番良かったです」

12月14日に行われた『全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)』の男子決勝。白鷗大は101-83で早稲田大を撃破して、2年ぶり3度目の日本一に輝いた。

試合前の予想としては、3ポイントシュートを多投する早稲田大のハイパワーオフェンスを、堅守を誇る白鷗大がいかに抑えることができるか。簡略化すれば『オフェンスの早稲田大vsディフェンスの白鷗大』の矛盾対決になると思われた。

その中で、第1クォーターから白鷗大は早稲田大の3ポイントシュート攻勢をくらい、いきなり29点の大量失点を喫してしまう。だが、ここから白鷗大は早稲田大のお株を奪うトランジションバスケで、第2クォーターに大量32得点を挙げて逆転に成功する。後半に入っても白鷗大は、テンポをコントロールすることなく早稲田大と点の取り合いの真っ向勝負を受けて立つ。互いに譲らずアップテンポな試合展開となる中、選手層で上回る白鷗大は最後まで強度が高く、豊富な運動量で走り抜いたのに対し、ここ一番で3ポイントシュートの精度が落ちた早稲田大は失速。最終的には100点ゲームで快勝した。

網野友雄コーチは、「点数を取り合えたことが一番良かったです」と勝因を語る。これまでの両チームの戦いぶりを見れば、ハイスコアリングゲームは早稲田大の土俵かと外野は考えてしまう。しかし、網野コーチは次のプランで臨んでいたと明かす。

「どんどん行けという指示でした。やっぱり点を取り合わないと、どうにもならないです。一つのクォーターで10点台が出てしまうと結構、苦しくなってしまう。すべてのクォーターで20点以上を取れたのはすごく良かったです。プランとして3ポイントシュートを打たれることは絶対にダメで、ゴール下のレイアップシュートを決められるのはOKでした。ただ、どうしてもヘルプディフェンスでローテーションをする習慣がついているので、目の前で2点を決められそうになると、一生懸命に守ろうとしてしまう。そこでヘルプディフェンスに寄ったところをキックアウトのパスを出されてしまいシューターを捕まえきれなかったりとアジャストが難しかったです」

佐藤涼成の離脱「新たなチャレンジができると前向きに」

振り返れば今年の白鷗大は、秋の『関東大学バスケットボールリーグ戦』を前に絶対的な存在だった司令塔の佐藤涼成がプロ転向によって退部するという激震に見舞われた。当然のように佐藤離脱の穴は大きく、リーグ戦も序盤は黒星先行と苦しいスタートとなった。しかし、ここからチーム全員がステップアップすることで、佐藤の抜けた大きな穴を埋めるだけでなく、さらにプラスへと持っていくことで日本一まで登りつめた。

佐藤がいなくても結果を残せたことは、これまで網野コーチが作り上げてきたハードワーク、チームファーストによる一体感を根幹とする白鷗大のチームカルチャーが間違っていなかったことの何よりの証明となった。網野コーチは、佐藤抜きでの戦いを「新たなチャレンジができると前向きにとらえていました。ここで優勝を成し遂げられたら単純にかっこいいと思っていました。それを体現してくれた学生たち、特に4年生は素晴らしかったです」と学生たちを称えた。

そして「涼成が抜けたこと自体、最初はすごくマイナスでしたが、今はチーム全体として良かったなって思っています。自分たちが成し遂げたことは自信になりました。今シーズンの戦いは今後の自分たちの伝統、カルチャーとしても積み上げていきたい部分です」と得たモノを語る。

今回の優勝によって「個に依存せず、チームで戦うことこそ自分たちの強みである」という白鷗大らしさがより確立された。特に佐藤の後を受けてキャプテンとなり、大活躍した佐古竜誠のステップアップはこれからのチーム作りにおいて、大きな影響を与えると網野コーチは語る。

「みんな試合に出たいですし、自分が活躍することを優先したいですが、目の前の試合に勝つためにチームファーストの人間にならないといけないです。その大切さを選手が体現してくれています。そして佐古の存在、一般入試で入り去年までBチームにいた選手が佐藤の後任としてキャプテンになる。そしてスタートになってインカレで優勝して優秀選手賞を取る。Bチームにいてもやることをやっていけば活躍できる良い事例ができました」

学生との接し方「濡れた固形石鹸を持っている感じ」

また、指揮官は佐藤とチームメートとの良好な関係もポジティブな効果をもたらしたと続ける。「涼成はみんなに LINEや連絡をくれたりと、ずっと結果を気にして見てくれていました。涼成の親御さんも会場で応援してくれたりしていました。今度は涼成がこの優勝に刺激を受けて、広島でもっと活躍をして日本代表のユニフォームを着るような選手になってほしいです」

これで白鷗大は、網野コーチの下ここ6年間で3度目のインカレ優勝。東海大で陸川章コーチ、筑波大で吉田健司コーチが退任した中、網野コーチはU23男子日本代表も率いるなど名実ともに大学界を代表するコーチとなった。網野コーチはこう語る。

「大学の指導に関わり始めた時は陸川さん、吉田さんの背中を追いかけながら『どうやって先輩を倒そうかな』という気持ちでした。そこから2人とはよくコミュニケーションを取ってもらっていました。陸さんには、『これからお前が引っ張っていけ』と声かけをしてもらいました。その意識を持って仲間を増やしていく。国士舘大を1部に上げた松島良豪コーチのように下の世代からもどんどん出てくると思います。そういう人たちも巻き込んで切磋琢磨していきたいです。」

周囲からアドバイスを求められる立場となった網野コーチだが、「大学生らしさを失わないように、締め付けすぎず、ゆるめすぎず。自分のイメージだと、濡れた固形石鹸を持っている感じです。強く握るとはみ出る。手の中で動いているくらいの感覚を大事にする。あとは自分の大学生の頃を思い出し、大人になった自分と比べるのではなくて、その時の気持ちをなるべく思い出しながら接してはいます」と学生との接し方を語る。

秋のリーグ戦直前の佐藤の離脱は、これまでにない想定外の戦力流出だった。だが、この困難をコーチ、そして選手たちは自分たちが成長できるチャンスとポジティブに向き合い続け、最終的にインカレ優勝、自分たちのカルチャーへの自信を深める最高の結果をもたらした。網野コーチが作り上げる白鷗大にとって、一つ上のレベルに到達する実り多きシーズンとなった。