「今のチーム状況だと僕がたくさんシュートを打たなきゃいけない」
千葉ジェッツが苦戦している。
53勝7敗という圧巻の強さで昨レギュラーシーズンをフィニッシュしたチームが、シーズン開幕から1カ月ですでに5敗を喫している。東アジアスーパーリーグもからむ過密スケジュールでコンディション不調者が後を絶たず、「3週間で2回くらいしか練習できていない」とジョン・パトリックヘッドコーチも頭を抱えている。
83-88で敗れた4日のシーホース三河戦の試合後、富樫勇樹が取材に応じた。
この日の富樫のスタッツは35分22秒出場、18得点、3アシスト。「もう30分くらい出る身体になっているので、すごく疲れが残った状態で次の試合に臨むっていうことはないんですが、勝って終わるのと負けて終わるのとでは疲労度がすごい変わると思っていて。今年はなかなか勝って終われていないので、気持ちのところでなかなかうまくいかないことが多いです」と話した。
富樫はこの試合でチームトップの18本のフィールドゴールを放った。開幕からの通算成績で見てみても、フィールドゴール試投数と平均得点で富樫はリーグ屈指のスタッツを残している。これまでビッグマンの独壇場だった両スタッツで、小兵ガードの富樫が上位にいることは喜ばしいことのようにも感じるが、本人はこの現況について「あまり良いこととは思っていない」と言う。
「ウチは4~5人が15点くらい…多くて18点くらいを取るのが一番良いと思ってますし、選手のシュート本数も同じように分散したほうがいいと思っています。でも、今のチーム状況だと僕が今日みたいに15本から20本シュートを打たなきゃいけない状況ではあるかなと」
「とりあえずノーマークだからパスする」とは考えない
このゲームの後半、富樫は三河から執拗なマンマークを受け、難しいシュートを何本も放った。富樫自身も自分が無理なシュートを打っているという自覚は持っており、マークの甘い他の選手にパスを出すという選択肢も当然持っていたと明かす。それでも富樫が自らシュートを打つことを選択したのはなぜか。
富樫は言う。「僕のパスをする・しないの判断は(しっかり仕事を果たしてくれるという)信頼です。『とりあえずノーマークだからパスする』っていうふうには考えないので。他の選手たちは自分が信頼に足るプレーヤーであるっていうところを見せなきゃいけないと思います」
海外でのプレー経験を持つ日本人選手のほとんどは、プレーで『使える選手』であることをアピールしないことにはボールをもらえないという経験をしている。中学卒業後に渡米し、『小柄なアジア人』という偏見と戦いながらロスターを勝ち取った富樫ならではの考え方だ。
千葉Jは現在、帰化選手や外国籍選手の入れ替わりや日本人選手の若返りにともなって、チームケミストリーを再構築する段階にある。特に富樫はボールハンドラーをつとめる小川麻斗、大倉颯太、二上耀、金近廉に「今シーズンはこの4人がどれだけ活躍できるか」と大きな期待を寄せており、上記のパスをしない選択は彼らへの発破がけという見方もできる。
富樫は「徐々にみんな自信を持ってプレーし始めてるところではある」と説明し、今後のチームの展望についてこのように話す。
「僕がここまでシュートを打たなくてもしっかり試合が展開できるチームにならなきゃいけないと思うので、チームとしてもっと良いシチュエーションを探せるようになりたいし、みんなが自信を持ってくれればいいなと思います。あと、誰がボールを持ってどういうシュートで来るかっていうのが相手にほとんどわかられている状態なので、そこは課題かな。やっぱりコートにいる5人全員が相手にとって脅威にならないといけないと思うし、チームとしてそれぞれの良さを引き出せるようにやっていきたいです」
翌日の第2戦、千葉Jは101-90で勝利した。富樫は38分28秒出場し、37得点、フィールドゴール11/19本(3ポイントシュートは7/12本)、5アシストというモンスタースタッツを挙げている。この勝ち方も富樫にとっておそらく理想的なものではないのだろうが、勝ちは勝ち。チームケミストリーが成熟し、若手選手たちが自信を持ってプレーできるようになるまでの当面の間は、経験豊富なエースがチームを文字通り牽引していくしかない。