バディ・ヒールド

文=神高尚 写真=Getty Images

勝負どころで力を発揮するエースがキングスを牽引

プレーオフ進出を懸けた過酷なサバイバルレースを続ける西カンファレンスでは、開幕直後は勢いや戦術的な目新しさで勝率を上げても、シーズンが進むにつれて各チームの分析が進むと、地力を問われるようになってきます。シーズンも折り返しを迎えた今、ハイレベルな争いから脱落しそうなチームが出てきました。

キングスは年末から4連敗を喫し、ついに勝率5割を下回って苦しくなるかと思いきや、もうひと踏ん張りができるチームに成長しています。苦境から再び盛り返すことのできる理由は、ディアロン・フォックス、ボグダン・ボグダノビッチといった若き中心選手が他のチームのエースに負けない活躍を見せていることです。試合終盤にチームに勝利をもたらすエースの存在があるからこそ、長く厳しいシーズンで結果を残すことができるのです。

キングスで最も得点を奪っているのはバディ・ヒールド。3年目のシューターは、ここまで3ポイントシュートの確率が45.6%と高確率を誇ります。平均アテンプト7本以上で40%を超えるのはステフィン・カリーとヒールドの2人のみ。そのカリーに10本の3ポイントシュートを決められたウォリアーズ戦では、ヒールドも8本を沈めて最後まで対抗しており、『リーグ最高のシューター』の座を争う存在になってきました。

ヒールドの特徴はオフボールで激しく動き回ること。リーグの誰よりもオフェンスで動き回ることでディフェンスを振りほどき、苦しい体勢でパスを受けても正確なシュートを打ちます。あまりジャンプせずクイックリリースを好みますが、下半身でバランスを取る能力が高く、動き回っているのに上半身がブレないのが特徴です。

安定して決まるタイプというよりは、外しても打ち続け、決まり始めると止まらないタイプで、ハードにマークされていても決めきる力があります。さらにはドライブも高確率で決め、ストレッチ役としてエースからのパスを待つタイプのシューターではなく、自分からアクションを起こして得点機会を作ることのできるエースタイプのシューターです。

『リーグ最高のシューター』の地位を確立するのに必要なのは、緊迫した場面でチームに勝利をもたらすシュートを決めること。今シーズン3ポイントシュートの確率で上回っているとは言え、3回の優勝に2回のMVPを獲得しているカリーに比べると実績で大きく見劣りします。カリーとの評価の差を埋めるには、まず目の前の勝利を積み重ねて、プレーオフに進むことが大事。負ければ勝率5割に戻るピストンズ戦では、そんな必要なシュートを決め続けました。

立ち上がりから常に優位に試合を進めていたピストンズの7点リードで迎えた最終クォーター残り3分半から、ヒールドの3ポイントショーが始まります。ディフェンスリバウンドを取ってトランジションオフェンスに持ち込むとイマン・シャンパートとのパス交換から3ポイントシュートを決めると、その直後にドライブと見せかけてステップバックの3ポイントシュートで1点差に詰め寄ります。

ピストンズもこの試合38点を奪ったブレイク・グリフィンが力強さを発揮し、ファウルをもらいながらもシュートをねじ込みますが、ヒールドも後ろから押されながらのミドルシュートを決めます。さらにフォックスとのピック&ロールから3本目の3ポイントシュートで逆転するも、今度はグリフィンが決め返し、ピストンズの1点リードで残り3.4秒という状況でキングスが最後のオフェンスを迎えます。

タイムアウトでの指示はスクリーンを使ってヒールドに打たせることでしたが、上手くフリーになれず、3人に囲まれた上にパスをファンブルしてしまいます。そこからドリブルで何とか体勢を立て直してリングの方向を向くも、ディフェンスをかわすために大きく横に流れながらのシュートになってしまいました。ピストンズからすれば勝利を決定付けるディフェンスだったはずですが、ヒールドはこれを決めきります。シュートを放った勢いで観客席に飛び込んだヒールドによる、試合終了のブザーとともにリングを通過した4本目の3ポイントシュートでキングスが劇的な勝利を掴みました。

12月に行われたホームでのレイカーズ戦では、ブザービーターで逆転勝利をもたらしたボグダノビッチを、歓喜の輪の中で揉みくちゃにしたキングスの若手たち。この試合のヒーローは追いかけてくる仲間たちを振り切るように全力疾走でロッカールームへ逃げて行きました。その後を喜びながら全員で追い掛ける仲間たちには強い一体感を感じます。

シーズン開幕直後の勢いこそ衰えてきたものの、チーム状況が苦しくなっても下を向く雰囲気はなく、若きエースたちが勝負どころで必要なシュートを決めることで、キングスはまだまだサバイバルレースに残っています。