マイケル・マローン

「私の嫌いな言葉は『自己憐憫』だ。自分を哀れだと思う人間が私は嫌いなんだ」

マイケル・マローンがナゲッツのヘッドコーチに就任したのは2015年6月15日のこと。

その半年前、彼は初めてヘッドコーチになったキングスを解任されている。この時、開幕から1カ月半で11勝13敗と極端に成績が悪かったわけではなく、そもそもキングスは『勝って当たり前』の戦力があるチームではなかった。むしろ『問題児』だったデマーカス・カズンズをNBAで初めてバスケに集中させた指導者であり、選手からの信頼は得ていた。それでもフロントとは折り合いが悪く、開幕から9勝6敗と好スタートを切ったまでは良かったが、カズンズの戦線離脱を機に2勝7敗と失速すると、解任されることとなった。

最後のゲームはピストンズ戦。この試合に敗れた後、ピストンズのアシスタントコーチを務めていた父のブレンダン・マローンはメディアに対して「彼は良い仕事をしているが、ベストプレーヤー抜きで勝つのは難しい」と息子を擁護している。その数時間後、キングスはヘッドコーチ解任を発表した。

ナゲッツは2015年3月3日に前任のヘッドコーチであるブライアン・ショーを解任した。10年連続のプレーオフが途切れた後、2シーズンに渡りプレーオフ進出を果たせなかったチームの指揮官探しは難航し、3カ月もの空白期間を経てマローンが抜擢された。

マローンもナゲッツ着任から3年間はプレーオフに進めなかった。キングスでの経験、ブライアン・ショーの最後を考えれば、彼も解任されてもおかしくはなかったが、ナゲッツ首脳陣は辛抱強くチームの成長を待った。マローン就任1年目にニコラ・ヨキッチが加入し、翌年に1巡目7位でジャマール・マレーを指名。今のナゲッツの両エースは、最初からスター選手だったわけではない。マローンもまた、辛抱強く彼らの成長を待った。

8年かかったが、ナゲッツはNBA初優勝を果たしたのだから、そのすべての努力は報われたと言えるだろう。長らくNBAはスターシステムに支配されているが、例外もある。ウォリアーズが『王朝』を築いたように、バックスがヤニス・アデトクンボを育て上げ、そのポテンシャルを最大限に引き出すチームで優勝したように、ナゲッツも自前のタレントを育て、チームバスケットを長い時間かけて鍛え上げ、熟した実が落ちるようにNBA王者となった。

NBA制覇という悲願を成し遂げた直後、マローンはコート上でのインタビューで「まだ満足していない」と言い、優勝会見の第一声は「これは何かの始まりだ」だった。

「キングスでコーチをしていた時、パット・ライリーのこの言葉を壁に貼っていた。無名から成り上がり、勝てるようになり、優勝争いのできるチームになって王者になる。その次のステップは『王朝』を築くことだ。だからまだ満足していない。まだ成し遂げていないんだ」

「このチームには若くて才能があり、プレーオフで16勝を挙げる過程で実力を示した選手がいる。そして何より、信頼できるオーナーとフロント、あの人たちを私は愛している。支えてくれたコーチたちもね。8年は本当に長い。ここまで来れたこと、優勝できたこと。素晴らしい人たちは私がプレッシャーを感じることなく仕事に打ち込む環境を与えてくれた。8年前のスタートから我々がどれだけ遠くまで来たか、何を築いてきたかを見てもらいたい」

マローンは優勝会見の席にシャンパンのボトルを持ち込み、質問を聞いている間にラッパ飲みをした。試合後の彼はいつも声が枯れているが、この日はシャンパンで喉が潤っていた。

「優勝の実感はまだ沸いていない。今夜も沸かないだろうね。なぜなら飲みすぎだからだ。20年前にこのリーグに来て、いつしかヘッドコーチになりたいと思うようになった。簡単なことじゃないよ。私の知る限り最高のコーチは父だが、ヘッドコーチにはなれなかった。だから今、私はこれまでのキャリアで手を貸してくれた人たちのことを思い出す。多くのコーチが私に成長の機会を与えてくれたおかげで、ここまで来れた」

マローンが最後に語ったのは、マイケル・ポーターJr.のことだった。キャリア4年目の24歳の彼は、先発スモールフォワードとして活躍してきたが、ヒートとのファイナルでは平均9.6得点、フィールドゴール成功率32.8%、得意なはずの3ポイントシュート成功率は18.2%と大不振に陥った。シリーズが進むにつれて彼への風当たりは強くなり、「先発を外すべきだ」との意見も多く出るようになったが、マローンは頑としてそうしなかった。

「私の嫌いな言葉は『自己憐憫』だ」とマローンは言う。「自分を哀れだと思う人間が私は嫌いなんだ。マイケルは違う。『シュートは入らないけど、チームの優勝のために他に何ができるだろうか』と考えて行動できる選手だ。彼はまだ若い。しかもルーキーシーズンを棒に振り、昨シーズンは9試合にしか出場できなかった。そんな彼を先発から外しはしない。彼はウチの先発スモールフォワードで、チームの将来の大きな部分を担っている。次にコートに立つ時には、この経験を経てより良い選手になっているよ」

こうやってマローンはNBA最強のチームを作り上げたのだ。優勝ヘッドコーチはシャンパンのボトルを右手で掲げ、「ありがとう、乾杯!」という言葉で会見を締めた。