ゴール下のチャンスを堅実に決める『オーソドックスなセンター』
トレードデッドラインで再建を考えた動きに出ると思われたラプターズですが、予想に反して選手の放出には動きませんでした。噂では複数のドラフト指名権を提示されたものの、未来を考えるのではなく「今、戦える選手が欲しい」と断ったとも言われています。その噂を裏付けるかのように、来年の1巡目指名権を放出してヤコブ・パートルを獲得すると、3連勝と調子を上げています。
ビッグマンだらけのラプターズが補強するべきなのは、オフェンスに多彩さをもたらすガードだと考えていましたが、ビッグマンをさらに加えたのは驚きでしたが、パートルがオフェンスを劇的に変えたのはさらなる驚きでした。
フレッド・バンブリートやパスカル・シアカムとともにGリーグからステップアップしてきただけに、連携に問題がないのは分かっていましたが、パートルの存在がチームメートを楽にするとは想像もつきませんでした。そこにはビッグマンを揃えているものの、スモールラインナップのような戦術を用いていたラプターズの事情も絡んできます。
パートルの役割はハードなスクリーンでフリーの選手を作ることと、パスの中継役として逆サイドへとボールを繋いでいくこと、そしてチームメートのパスに合わせたゴール下でのフィニッシュです。得手不得手はあれど、センターとしてはオーソドックスな役割ですが、ラプターズにはこの役割をこなせるビッグマンがいませんでした。
ラプターズは3ポイントシュートが打ててドライブ能力もあるビッグマンを多く揃えていますが、言い替えれば自分でアタックする能力が重視されており、スクリーナーとしてのスキルやインサイドで起点となる能力など、チームメートを楽にする能力は重視されていませんでした。さらに5人が3ポイントラインの外に広がるため、ドライブした場合は自分で決めきるか、キックアウトで3ポイントシュートに繋げるかの2択で、ゴール下で合わせて確実に押し込んでくれる選手がいませんでした。
簡単に言えば『ビッグマンは多いが、センターがいない』戦術であり、革命的ではあったもののドライブした選手次第で効率の悪いオフェンスになっていました。
コートの中央でプレーする『センター』のパートルが加わったことで、アウトサイドは4人に減りスペースが広がった上、パートルのスクリーンでフリーになる形が作れるようになりました。また、ハイポストでパートルがパスを受けると、逆サイドのコーナーにいた選手がオートマティックにカットプレーで飛び込んでくるなど、ドライブ以外のプレーでも崩す形ができています。何よりも4試合でフィールドゴール成功率が83%と、堅実に押し込むパートルのゴール下が加わったことで、フィニッシュが楽になりました。
近年のラプターズはシーズン後半に急に戦術を変更してきます。ビッグマンを多く並べながらスモールラインナップのようなドライブ中心の戦術も、昨シーズン途中から急に始めて成功させ、それがプレーオフ進出の大きな要因となりました。再建へと進むと思われた今シーズンも、決してビッグネームとは言えないパートルの獲得から戦術を方向転換し、上昇気流に乗ろうとしています。