セルティックスでは『脇役』に回るも、リスペクトを集める
ブレイク・グリフィンはNBAのトップスター選手だった。『ロブ・シティ』と呼ばれたクリッパーズにおいて、リーダーはクリス・ポールだったかもしれないが、最も人気のある『チームの顔』はグリフィンだった。筋肉質の大きな身体、ハンサムで不敵な表情、そしてポールやジャマール・クロフォードのロブパスを受けて繰り出す豪快なダンク。彼はいつでも舞台の中央でスポットライトを浴びていた。
しかし『ロブ・シティ』の解体後のキャリアは下降線をたどる。トレードされたピストンズは優勝争いのできるチームではなく、チームの中心であるグリフィンとデリック・ローズはビッグネームではあってもケガを抱え、補強も失敗の連続で、グリフィン在籍時に勝率5割を超えることはなかった。2020-21シーズン途中にバイアウトに合意。移籍先のネッツではケビン・デュラントとカイリー・アービングのサポート役に。ここでもインパクトは残せず、今シーズンからセルティックスに所属している。
NBAキャリア13シーズン目を迎えた今の彼にスポットライトは当たらない。チーム状況に応じて試合に出たり出なかったり、先発したかと思えば、プレータイムが10分を切る試合もある。チームは60試合を消化しているが彼の出場はわずか26試合で、プレータイム14.4分、4.9得点、3.4リバウンドはいずれもキャリア最低の数字だ。
それでもグリフィンは選手として終わったわけではない。むしろ、キャリアで4チーム目となるセルティックスで自分の役割を見いだし、イキイキと日々を過ごしている。オールスターブレイク直前のピストンズ戦、大量リードの終盤にコートに立ったグリフィンは、ルーズボールに飛び込んでピストンズのベンチに突っ込んだ。ジェイソン・テイタムやジェイレン・ブラウンの素晴らしいプレー以上にTDガーデンの観客が沸いたシーンだった。
この試合の後、ヘッドコーチのジョー・マズーラは「どんな状況であれ彼のバスケへの姿勢は不変なんだ。チームの全員が彼のことを尊敬している」と称賛を惜しまなかった。そしてグリフィンは「観客の反応には気付いていた。このチームのファンは選手と気持ちを合わせて試合に入り込んでいる。チームに必要なプレーだと分かってくれたんだろう。ありがたいね」と語っている。
『The Athletic』はルーク・コーネットに取材し、グリフィンが尊敬される理由を聞いている。コーネットはグリフィンについて「最高に面白いヤツなんだ」と証言する。生来のスター性を持ち、6度のオールスター選出と実績のあるグリフィンが「面白いヤツ」というのは少々解せないが、コーネットによればグリフィンはベテランの用具係でありジョン・JJ・コナーを、ボストン訛りも含めて完璧にモノマネして、ロッカールームの爆笑をかっさらっているそうだ。コーネットは言う。「彼は突然それをやり始めた。僕は今までどのチームでも一番面白いヤツでロッカールームを盛り上げてきたんだけど、初めて2番目になったよ」
グリフィンのダイブに対する見方も面白い。コーネットは「彼はすごく汗っかきだから、ダイブするとフロアがビショビショになる。彼がハッスルするとモッパーが大変な思いをするんだよ」と言うが、それも最大限のリスペクトを込めた言葉だ。「彼がボールに飛び付くんだから、僕らがやらない理由はない」
グリフィンはクラブ公式Youtube番組で、「自分がキャリアのどの部分にいるのかは理解している」と語る。「昔みたいに38分プレーして、何本もシュートを打つのは簡単じゃない。時にはそのエネルギーも必要だろうけど、自分よりも大きなものの一部としてエネルギーを出すのも大事で、それがこのチームでの僕の役割なんだ」
「年齢を重ねるにつれて準備は大変になる。家でも身体をケアして、夜中にストレッチしたり、食事やサプリメントに気を配ったり、適切な睡眠時間を確保したり、ずっとコンディション調整にかかりきりだ。でも、正直それは素晴らしい仕事だと思っている。今は何年かぶりにとても調子が良いんだ」
「これまでにも優勝を目指すチーム、優勝できる能力のあるチームにいたことはあるけど、目標は果たせなかった。若い頃は、すぐにすべてを勝ち取りたかった。14年とか15年もキャリアが続くとは想像していなかったしね」
昨シーズンのセルティックスはNBAファイナルに出場し、そのチームの基盤を保ったままグリフィンが加わった。ここまで激戦の東カンファレンスで首位を守っており、優勝に向けて大きなチャンスを迎えている。
「僕にとって大事なのは目標を持ってプレーし、プレーオフを戦うこと、そして良いグループの一員になることだ。優勝するには多くのものが必要になるけど、優勝する以前に選手同士がプレーを楽しみ、優勝チームのような雰囲気を持たなければいけないと思う。セルティックスは特別なチームだ。一生懸命に練習し、一生懸命プレーする。みんな仲が良く、純粋に一緒にいるのを楽しんでいる。ただ、NBAのチームがすべてそうだとは限らない。この状況を当たり前のものだと思わないことも大事だから、僕の人生経験を若い選手たちに多少なりとも伝えたいと思う」
『ロブ・シティ』と呼ばれたクリッパーズには優勝のチャンスがあったが、つかみ取ることはできなかった。あの時以来となるチャンスが、キャリア晩年のグリフィンに訪れている。