ニック・ファジーカス

文・写真=鈴木栄一

「ニックはやれるってことを証明したかった」

12月3日、男子日本代表はカザフスタン代表に86-70で勝利。これで通算6勝4敗とし、グループFで自力突破が可能な3位へと浮上した。この試合、最終的には大差がついたが、第4クォーターの中盤まではちょっとでも気を抜いたらやられてしまう。そんなピリピリした雰囲気の漂う我慢比べが続いていた。

この消耗戦を日本が制することができた最大の理由、それは言うまでもなく約35分の出場で41得点15リバウンド2スティール2ブロックという圧巻のプレーで、試合を支配したニック・ファジーカスの存在だ。

今回のカザフスタン戦、日本代表は3ポイントシュートが11本中2本成功とアウトサイドシュートは不発に終わった。にもかかわらず86点と多くの得点を挙げられたのは、「ローポストを中心に攻めるプランでいた」(フリオ・ラマスヘッドコーチ)という計画を最後までしっかり遂行できたからだ。それはファジーカスが、確実にシュートを決め続けたからに他ならない

「絶対に勝たなければいけない試合であることは分かっていた。予選4連敗からの6連勝は素晴らしいことだし、今日の試合で、久しく突破していないワールドカップの予選通過に向けて良い位置につけることができた。チームを誇りに思うし、興奮している」

このようにファジーカスは、今回の価値ある勝利の意義を語る。また、金曜日のカタール戦、19得点10リバウンドと十分に及第点といえる活躍を見せながら、翌日の取材で彼は「素晴らしいプレーというわけではなかった」と自身のプレーを振り返っている。だからこそ、この一戦は「メディアからは『30点取るのが普通なのに19点に終わって、どうしたんだい?』 と聞かれたりもした(笑)。この2日間、金曜日のパフォーマンスについて考えていたよ。ニックはやれるってことを証明したかった」と強い決意で臨み、これ以上ない有言実行を果たした。

ニック・ファジーカス

日本代表での4試合で平均29.3得点、12リバウンド

またこの試合、日本がいかにファジーカスに多くを依存していたのかは富樫勇樹の起用法が間接的に示してもいた。富樫はカタール戦の前半、ジャンプシュートの着地の際、相手の足の上に乗ってしまって足首を負傷。プレーできるが万全の状態ではなく、本来なら出場時間を制限したいところであったはず。それが同じく司令塔を務める篠山竜青のファウルトラブルもあったにせよ32分を超える出場時間であった理由を、ラマスは何よりもファジーカスからの攻めを最優先とした結果だと言う。

「カザフスタンは、ローポストのニックにパスを入れるプレーへの対策をしてきました。それでも富樫がプレーしている時は、うまくクリエイトできてニックにボールに渡せていました。それもあって、富樫を長く起用しました」

これでファジーカスが出場した試合、日本代表は4戦全勝。この4試合の彼の成績は平均30.8分出場、29.3得点、12リバウンドと、『救世主』と呼ぶに相応しい数字だ。

そしてWindow6に向けては、「あと数カ月ある中で、Bリーグのシーズンをしっかりこなしながら代表の合宿を行う。イラン、カタール相手のアウェー2試合が難しいゲームになるのは分かっているが、勝たなければいけないだけ」と意気込みを語ってくれた。振り返ればファジーカスは、今夏に足の手術を行った影響で調整が遅れて今はまだコンディションを高めている段階と言える。今回の大暴れを弾みにさらに調子を上げていくことを楽しみにしたい。