藤髙三佳

取材=小永吉陽子 構成=鈴木健一郎 写真=©JBA、小永吉陽子

スペインに敗戦も「良い経験になって繋がれば」

栗原三佳は2016年のリオ五輪で主役を演じた。日本代表の『走るバスケット』からクイックモーションの3ポイントシュートを要所で決める『切り札』として活躍し、平均12.7得点、3ポイントシュート成功率はチームトップ、大会全体でも3位の数字を残した。

しかし、華々しい活躍の裏には痛みとの戦いがあった。リオ五輪の初戦で右手親指の付け根の骨折と靭帯損傷という大ケガを負い、パスを受けられないためバウンズパスを出すようチームメートに頼みながらの強行出場。腫れがひどすぎて骨折が判明したのは帰国後だった。長いリハビリを終えて復帰するも今度は左手の中指を骨折し、またコートを離れることになった。

トラブル続きの2017年は代表招集なし。それでもヘッドコーチのトム・ホーバスは結婚をして栗原から藤髙と名前を変えた彼女に常に注目していた。昨年のアジアカップでは水島沙紀が台頭して代表の主力に成長したが、藤髙の居場所はしっかりと空けてあった。苦しい試合展開をはね返して盛り返す、粘る相手をねじ伏せるといったシチュエーションで、その力を必要としたのだ。

ワールドカップ初戦、強豪スペインを相手に藤髙を必要とするシチュエーションが訪れた。攻め手を封じられて点差が離れていく第2クォーター途中に投入されると、最初のボールタッチでシュートチェックをモノともせずに3ポイントシュートを沈める。この一発は劣勢を覆すには至らなかったが、第3クォーター中盤に決めた2本の3ポイントシュートは試合の流れを変える重みがあった。ここから日本は攻勢に転じ、勝ちには至らなかったが善戦を演じている。

藤髙三佳

「いつ出ても自分の仕事ができるように準備して」

「私の仕事は出たら3ポイントシュートを狙うことですし、そこは良かったと思うんですけど、でもチームを勝たせられなかったので悔しい気持ちはあります」と、試合を終えて引き上げてきた藤髙は言う。「でも若いチームで初めての試合の子も多いので、これが良い経験になって繋がればと思います」

リオでは先発だったが、今回はピュアシューターとしてベンチスタートとなり、その役割も限定される。それでも試合に対するアプローチは「いつも通り」と藤髙は語る。

「いつ出ても自分の仕事ができるように、いつでもベンチで準備して、どれだけベンチに長くいてもフレッシュな気持ちで自分の仕事をしていくことです。ベンチにいる時間が長いとか短いとか関係なしに、ベンチにいる時は声を出してあげるとかサポートはできるので、そういうことで盛り上げる仕事をしっかりやっていました」

4本中3本を決めたシュートタッチの良さも、『シュートは水物』であることを理解する藤髙には油断にはならない。「自分としての出だしは良かったんですけど、これで終わらないように。明日どういう感じで出るか分かりませんが、出た時にしっかり仕事ができるように準備します」

藤髙三佳

「過去は懐かしいなって感じ。また新たな気持ちで」

後半になって日本のオフェンスが活性化し、実際にスコアも動くようになった理由を藤髙はこう説明する。「ボールが全然回っていなくて1対1ばかり、1対1の間にも味方が止まっていました。ボールムーブメントとプレイヤームーブをしっかり、スピードと動きのあるオフェンスからのドライブだったり、ドライブからキックだったり、足を使ってのオフェンスが日本の良さなので。それをハーフタイムに確認してもっと出して行こうと意識して、練習通りできました」

だからこそ、前半に自分たちのバスケットができなかった意識は改善しなければいけない。「出だしが一番大切なのもそうですし、自分たちのバスケをするのがこのチームのモットーなので。それを40分間やりきること。今日のことを反省して、これを生かして次に良い試合ができればと思います」

久々となる国際大会での試合を終えた藤髙は「リオのことは懐かしいって感覚で、やっぱり国際大会は楽しいです」と笑みを見せた。「マークも厳しくなると思うんですけど、そこで私がどう成長できるかを試したいし、このチームでは大きな舞台を経験している選手が少ないので、経験している側として、どこでもどんな場面でも、ベンチにいてもコーチにいても仕事ができるように、常に冷静な気持ちでできればという感じです」

「過去は懐かしいなって感じです。また新たな気持ちで、立場も違うので。応援していただける方のおかげもあって今ここまで頑張ることができました。それはプレーで恩返ししたいと思います」

ケガをした左指に着けたサポーターがかつてのケガの、そして長く足踏みしたリハビリ期間の跡となっている。うまく曲がらないが、シュートは打てる。バスケットボールファンの視線が藤髙の『爽快シュート』に釘付けになる日々が、またやって来た。