男子日本代表

文・写真=小永吉陽子

不祥事の後、一丸となって前に進んだ日本代表

アジア王者を狙う国際大会を8人で戦う事態になるとは、誰もが思ってもみなかったことだ。だが不祥事を起こした過去を変えることはできない。最悪の事態になったのならば、次にやるべきことは、起きたことを検証して反省し、そして前に進んでいくことだ。

「バスケットボール界の信頼を取り戻すためにも、日の丸をつけた僕たちがしっかり戦っていく」という太田敦也キャプテンの言葉のもと、目の前の試合に全力で取り組むことこそが、信頼回復への第一歩だった。

今回のアジア競技大会は優勝した中国を筆頭に、イラン、韓国、フィリピン、チャイニーズ・タイペイというアジアの強豪国が本気でタイトルを狙いにきていた。日本も勝ちにはいったが、やはり総戦力で向かってくる国の前に歯が立たなかったのが事実であり、8人で戦うことは実際のところ大きな負担がかかっていた。

大変だったのはオフェンスよりもディフェンスだ。普段とは違うポジションを兼ねることでローテーションが狂うことからミスが多発した。また、準々決勝のイラン戦と5-8位決定戦で対戦したフィリピンには高さとフィジカル面で劣ることからも体力の消耗は激しく、後半には失速してしまった。

さらに手こずったのはリバウンドだ。ディフェンスリバウンドは13チーム中11位(1試合平均25.5本)、オフェンスリバウンドに至っては最下位(1試合平均7.2本)で、リバウンドが取れないことから、なかなか走る展開が出せなかった。それでも、ヘッドコーチ代行のエルマン・マンドーレはコートに立つ経験を積めるこの機会に8人の選手をタイムシェアさせ、大学生の中村太地や玉木祥護、シェーファー・アヴィ幸樹らを積極的にコートに送った。

イランとフィリピンに敗れ、最終戦となる7位決定戦の相手はインドネシア。格下の相手であるが、アジア大会の開催国として帰化選手を入れて強化してきた布陣であり、若手中心で8人しかいない日本にとっては決して簡単な相手ではなかった。「7位と8位は全く違う。命を懸けて戦い、勝って帰ります」というマンドーレヘッドコーチ代行の言葉に全員が勝利を誓った。

男子日本代表

太田と辻、経験抱負な2人が最終戦で勝利を呼び込む

そんな中で、この若いチームをリードしたのが、国際大会のキャリアが豊富な太田敦也と辻直人だ。育成の意味合いが強かった今大会の布陣の中で、ワールドカップ1次予選に出場した太田と辻は自身が選ばれた理由をこう捉えている。2人はWindow3ではベンチ入りしながらもプレータイムが少なかった選手だ。

「僕のポジションにニック(ファジーカス)と(八村)塁が入ったのでプレータイムが減ったことは、実力の世界なので仕方のないこと。それでも僕だけが30代でこのチームに選ばれたのは、もう一度アピールする場を与えてもらったのだと思っています」(太田)

「Window3ではプレータイムが減ったので、もう一度、国際大会に出てプレータイムをもらい、チャレンジしてほしいという意味だと思います。また若手が多いこの大会で戦う環境作りをする課題も与えられたと思っています」(辻)

インドネシア戦の前半、日本は太田が身体を張って得点やリバウンドに絡み、先手を取って試合を進めていく。しかし会場の声援を受けるホームのインドネシアは、突き放しても帰化選手のジャマール・ジョンソンを中心に追い上げる粘りがあり、第3クォーターを終了して57-54、日本が奪ったリードはたった3点。ここからが意地の見せどころだった。

「苦しい時間帯だけど、もう一度タフにディフェンスをしよう。辻にもっとボールを回して打たせよう」との指示の下、足を動かすことを意識した日本代表は展開を速めていく。そこで「ボールをもらったら、いつもより速く打つことを心掛けた」という辻が第4クォーター開始早々に立て続けて2本の3ポイントシュートを決め、後半だけで4本もの3ポイントシュートで日本の勢いを作った。

さらに張本天傑のリバウンドやシェーファーの速攻が出て一気に引き離しにかかる。前半の太田、後半の辻の働きが日本の流れを作ったと言っていいだろう。

3ポイントシュート8本を含む29得点を稼いで勝利に導いた辻は「僕自身、今大会はどこか踏ん切りが良くなく、迷いながらゲームをしてしまって、シュートを打つタイミングを見失っていました。また、結成して間もないチームなので欲しいところでボールをもらうことが難しく、もっと自分で崩していく力が必要だとあらためて分かったし、僕自身の良さは何かと考え直した大会だったので、こうして一番得意な3ポイントを決められたことが本当にうれしい。これをきっかけに這い上がっていきたい」と自信を得るとともに、Window4に向けてもアピールした。

男子日本代表

「気持ちを一つにして戦ったことを良い経験にしたい」

最終戦を終えて太田は「いろんなことがあって大変ではありましたが、チームのスタッフと一緒になって戦い、日本選手団の皆さんに手助けしてもらい、日本国民の皆さんから応援していただき、その中で戦えたことにお礼が言いたいです。本当にありがとうございました」と感謝の気持ちを語った。今回の不祥事で失ったものはあまりにも大きいが、逆にそこから立ち上がって一人ひとりが現状でやれることを出したからこそ得たものもある。

辻直人の言葉がコートに立った8人の思いを代弁した。「もちろん満足いく結果ではなかったですが、8人で最後までプレーさせてもらったことにとても感謝しています。正直、騒動が起きた直後はチーム全体が試合をする精神状態ではなく、バスケットだけでなく、他の事を考えながら戦わなくてはならない大会になったのが正直なところです。でもこういう時だからこそ、気持ちを一つにして戦ったことを良い経験にしたいし、ここにいる8人が日本代表の自覚を持って戦ったことは、日本で合宿をしている日本代表のみんなにも伝わったと思います」

「バスケットのことで言えば、5対5の練習ができない中でチーム力を高めていくのは難しいところがありました。その中で対策してきたことを出せたのはバスケットの理解度を高められた証拠だし、それを最終試合で全員が出せて勝ったことが収穫です」

「自分自身のことで言えば、今回はキャプテンを務めさせてもらい、声掛けとか、チームの雰囲気作りとかをいつもは周りに任せていたのだと気付くことができました。自分はもう引っ張っていく立場なのだから、これからはプレーだけでなく、チーム内のコミュニケーションや戦いやすい環境作りをすることをもっとやっていかなければと感じました」

「今回8人で戦ったことは、変な言い方ですけど良い薬になったと思います。もう二度とこういうことがあってはならないし、日本代表としての自覚を持って一人ひとりがしっかり行動していくことが第一で、もう一つは観客の皆さんを楽しませていけるようなバスケット界にしていきたい。僕自身はまだチャンスはあると思っているので、ワールドカップやオリンピックを目指して頑張っていきます」

日本代表は最悪の事態が起きた中でも、最善を尽くして大会を終えた。ここで得た経験を、一人ひとりが今後の活動へと生かしていくことが重要である。