マレー不在のチームで「エースとして重要な場面」で決められず
優勝も期待されたデンバー・ナゲッツでしたが、サンズにまさかのスイープ負けを喫しました。互角の試合展開になっても、要所でサンズのオフェンス力についていけない時間帯が出てしまって崩壊しており、MVPのニコラ・ヨキッチの支配力も及びませんでした。勝負強さと得点力を誇るジャマール・マレーの不在がプレーオフという舞台では大きく響いたと言えます。
レギュラーシーズン終盤にマレーがケガをしてもカバーしてきたのは、ヨキッチに次ぐ得点源となるMPJことマイケル・ポーターjr.の躍進が大きく、2年目のウイングは208cmの選手としては考えられないほどに、オフボールで動き回りながらの難しいシュートを決め続けてきました。しかし、サンズとのシリーズではサンズに流れが傾いた時間帯に、MPJに打たせるプレーコールを用意しても決め切れず、『エースとしての得点力』を発揮できませんでした。また、シュート力に頼りすぎるプレーチョイスも読み切られており、得点パターンの少なさにも課題を残すことになりました。
レギュラーシーズンでフィールドゴール成功率54.2%、3ポイントシュート成功率44.5%と高確率のシュート力は止められない武器として機能してきました。サンズとのシリーズでも3ポイントシュートは37.5%と変わらず決めたものの、2ポイントシュートは33.3%と抑えられました。シュートに踏み切る形さえ止めてしまえばサンズディフェンスがMPJを止めるのは容易く、外から得点を取られてもチームディフェンスを崩されることはありませんでした。レギュラーシーズンではディフェンスに読まれていても得点でき、相手の予期せぬプレーを選択せずとも済んだことがプレーオフで裏目に出ました。
オフェンスをする上でシュート力は何物にも代えがたい絶対的な武器であり、少ないボールタッチで得点できる上に、オフボールでスクリーナーにもなりながらカットプレーも上手いMPJは、現代オフェンスにおいては理想的なウイングです。どんな選手とでも相性が良く、ボールを持ってプレーをクリエイトするエースからパスを受ければ高確率で得点を生み出します。多くの若手がブレイクする今シーズンのプレーオフですが、これだけボールを持たずに試合に影響を与えられるのはMPJくらいです。
ヨキッチとマレーを中心とするチームでありながら、そこに違和感なく溶け込んで得点を積み重ねたのはMPJの特殊性でしたが、一方で「エースとして重要な場面で決める」経験は不足していました。試合終盤だけでなく、相手に流れが傾く局面ではヨキッチとマレーで止めてきただけに、サンズが相手ではMPJに任せざる得ない場面が増えてしまったことが、ナゲッツを苦しくしました。来シーズンもマレーは欠場が予想されるだけに、MPJはプレーパターンを増やし、エースとしての経験を積み上げていくことが求められます。
ルカ・ドンチッチやトレイ・ヤング、そして1位で指名されたディアンドレ・エイトンと同じ2018年ドラフトで14位指名のMPJですが、高校時代は1位指名候補でした。しかし大学では背中の手術を行った影響で3試合しかプレーしておらず、大きく指名順位を落としました。さらにNBA1年目に2回目の手術を行ったことで全休し、この4年間の半分を欠場していたことになります。経験不足から来る粗さはプレーオフになって特に目立ちました。
高いポテンシャルを発揮する一方で、完成度が低いのもMPJの特徴です。誰にも止められないジャンプシュートに自信を持っているが故に、プレーチョイスが偏り、ディフェンスに見切られてしまいました。それ以上にディフェンスではデビン・ブッカーに散々狙われました。左右に振るハンドリングを使えばMPJが足のスタンスを入れ替えることを見切られ、体重移動した瞬間に逆を抜かれ続けました。
1年目は経験不足からどんな選手にも抜かれていたMPJですが、2年目となり相手のプレーを予想して守れるようになると、高い身体能力を生かしたブロック力で、NBA選手の平均レベル以上にレベルアップしました。しかし、ブッカークラスの選手が相手になると、身体能力だけではどうにもならず、フットワークの悪さに付け込まれてしまったのです。プレーオフはポテンシャルだけでは通用しない世界でした。
昨シーズンはルーキーとして立派な結果を残しながら、プレーオフではドノバン・ミッチェルにズタズタに切り裂かれてプレータイムを失い、ディフェンス面の改善に取り組んだ上で、チームの得点源として臨んだ今シーズンのプレーオフでしたが、攻守に完成度の低さを露見してしまいました。MPJにとってプレーオフは挫折の場になっていますが、それは優勝するために必要なことを教え込まれる場でもあります。
MPJのジャンプシュートはケビン・デュラントのようにアンストッパブルな特別なプレーです。しかし、自身の強みを生かすだけで通用するのはレギュラーシーズンまで。攻守に未熟な部分があると課題を突き付けられたプレーオフを経て、ヨキッチと並ぶエースとしてチームが構成されるであろう来シーズンに向けて大きく成長して帰ってくることが求められます。