常田健

2018年のウインターカップで準優勝と躍進した中部第一は、今回が6年連続9回目の出場となる。高校ではなくその先を見据える指導をする常田健コーチの下、宇都直輝や張本天傑、最近では中村浩陸などBリーグで活躍する選手を輩出したことで全国大会の常連校となり、優勝候補にも挙げられるようになった。今年は新型コロナウイルスの影響を受けてチーム作りは遅れているが、常田コーチは不安を感じながらも方針は崩さない。「ひたすら我慢してきたことが良い方向に出るように」と大会に臨む。

「公式戦の感覚を味わうことができず、焦りもあります」

──愛知県は人口の多さに比例して新型コロナウイルスの感染者が多く、部活への影響も大きかったのではありませんか。

そうですね。練習を再開した後も夏休みに一度止めましたし、練習試合とか遠征には一切出てはいけないという県の方針もあったので、11月下旬の連休までは遠征にも行かず、自分たちの体育館の中だけで練習を続けてきました。

実際、こんなにバスケットをやらない期間は今までなかったので、私としてもいろいろ考えて揺れ動いた時期でした。早く物事が動き出してほしいと思ったり、実際に動き始めるとこの大変さが休みなしで続くのかと思ったり。だから選手にだけ「ちゃんとしとけよ」とは言えないと思いました。チームはまた来年やり直せますが、3年生にとっては一生に一度のことです。私の悩みなんか気にならないほど、3年生は感じるものがあったはずです。

愛知県では夏休みにインターハイの代替大会を実施したんですが、そこでも棄権するチームが出たり、PCR検査の結果が出ないために勝ったチームが試合に出れない、負けたチームの選手に感染の疑いが出たので勝ったチームが次の試合に出れない、なんてこともありました。やっぱりコロナに対する恐怖は常にどこかにあったので、練習を再開してもいつも以上にオフは与えていましたし、練習もハードに追い込まないように、強度を6割か7割ぐらいにして、身体の免疫力をなるべく下げないように配慮しました。「もうやるしかない」とウインターカップに向けてフルで練習を始めたのが10月からです。

──対外試合は全くやれていないということですか?

県外からウチに練習試合をしに来てくれるチームのおかげで助かっていますが、裏を返せば他県のチームはOKだけどウチはできない。県によって、学校によって考え方には差があります。ウチは11月下旬の3連休に初めて学校を出て県外に行きましたが、ウインターカップがあるのでようやく行かせてもらった感じです。遠征についても人数を絞る提案もあったのですが、この1年で一回もチーム全員で行動していないからと配慮していただきました。

──中部第一は東海ブロックの代表校ということで、県予選にも出場しませんでした。試合経験の意味では逆に厳しいですね。

愛知県ではウチと桜花学園さんが予選も免除となったので、公式戦の感覚を味わうことができません。私自身、焦りもあります。東山と洛南の試合や、福岡第一と大濠の試合を見させてもらったんですけど、ああいう試合を県大会の決勝でやれることに正直なところ嫉妬を感じました。勝ち負けが付くので大変でしょうけど、こんな熱い試合がやれているんだと。ただ、それは刺激にもなって、全国の強豪と呼ばれるチームと良いバスケットをウチもやりたいという思いです。去年が不本意なシーズンだったので、選手たちは私以上に勝ちたいと思っているみたいです。

それでも急いでチームを完成させたいとは思いません。高校のカテゴリーを終えた後もバスケを続けていく選手がほとんどですし、彼らの将来を考えれば今の時期にやるべきことを省いてはいけない。遠回りかもしれませんが、きちっと作っていきたいです。チームとしての完成度は上がらない可能性がありますが、チーム作りの進め方は普段となるべく変わらないようにやっていきます。

常田健

「全員がチームに合わせていくという考え方が必要」

──かなり難しい状況でチーム作りをしているのが分かりました。ウインターカップでの目標はどこに置きますか?

選手は日本一を目指すと言っていますが、私自身は公式戦もやれていませんし、大会自体が開催されて試合を行うことが最大の目標だと考えています。あとはその流れに沿っていければ良いと思っています。桜花学園さんはレベルが高いから違うかもしれませんが、正直なところ私自身もベンチワークに不安があります。大学の先生に聞くと指導者もゲームから離れているので、タイムアウトの取り遅れがあったり選手交代のミスがあったと聞きます。

ただ、私にとっては試合があれば感謝の気持ちでいっぱいですが、選手にとっては一生に一回のチャレンジですから優勝を目指したいです。自分たちの力を上手く出せれば良いゲームができる期待感はあります。ただ公式戦を経験していない状況で、彼らの持っている力を出す前に終わってしまうことへの恐れがあります。

──そんな大変な状況ですが、選手たちのバスケに取り組む姿勢はいかがですか?

寮も解散になったので、それぞれ地元に戻ってトレーニングをしたり身体を動かして、体育館も借りれないところがほとんどだったので外で走ったり。「この時期にどれだけやったかが練習再開の時に差になるから、自分と向き合ってコツコツ努力しなさい」と私から全員にメールしましたが、その差は顕著に表れていました。ロードワークをしていましたと言う真っ黒に日焼けした選手を「海に行ってたんじゃないか」と一瞬思いましたが、そこは信じてあげました(笑)。日焼けしている生徒が多く、体育館が使えないのでどうしても外で練習する機会が増えたんだと思います。

アシスタントコーチの西村彩とかなりコミュニケーションを取って、朝練の取り組みも個人練に時間を割くよりチームの足りないところにフォーカスしています。今年はいろんな問題がある中で、チームのルール、カルチャーに自分を合わせていくことを選手たちには求めています。一人のプレーヤーにみんなが合わせるチームにはスーパースターが必要ですが、今年はインターハイもなくてその機会がない。ならば全員がチームに合わせていくという考え方が必要だと、選手やコーチに訴えかけています。

──チームのルール、カルチャーは具体的にどういったものですか?

ウチのバスケットはディフェンスから始まります。この単純なルールから「どうやって守るのか」という細かいルールがあるんですけど、それをきちっと守ること。このルールを個人の考えで解釈してしまうと周りが困る。今回はアジャストする時間が限られているので、みんなが同じ方向を向いて共通理解でルールを守ることにフォーカスしようとしています。本当は失敗してもミスから学べるのですが、今年は手探りの中でその時間がないので、オフェンスでもディフェンスでも中部第一の考え方を練習から鮮明にして共通理解を得る、そういう練習を多くしています。

常田健

「ひたすら我慢してきたことが良い方向に出るように」

──イレギュラーすぎる年になりましたが、今年の中部第一はどんなチームですか?

去年の主力だった3年生が抜けて、他の強豪校と比較して代替わりが遅かったのですが、その不安があった東海新人大会で優勝できました。その後はコロナ禍で練習ができなかったんですけど、私自身は個人のスキル強化を一番重視しているので、個人のプレーヤーとしての資質を上げることに時間をかけてきました。これまでよりサイズのある選手が多いんですよ。目指すバスケのスタイルは変えていないので、そのままサイズ感が大きくなったチームですね。

──サイズのある選手が堅守速攻やブレイクといったスタイルを今まで通りにやれれば、これは強そうですね。

と言いたいんですけど、練習試合をやっても上手くいかないのが正直なところです。ポジションコンバートの難しさを今年は特に感じています。ただ、勝つために上手くコーディネートするのも大事ですが、選手が行き着くところはここじゃないですから、高校生として選手にサイズ感があろうがなかろうが、どこを目指すのかブレることなく考えないと、最終的にスケールの小さい選手になってしまいます。そこにはこだわってやっています。

──お話をうかがう中で、コロナの影響も地域によって大きく違うのだと思いました。現状を聞くと他の強豪校より状況は厳しいように感じます。その中で優勝候補の一つに挙げられてウインターカップを迎えることを、どう受け止めていますか?

言い訳にはしたくないけど、これが現実なんですよ。無事に大会ができれば一番ですが、それを喜ぶだけで終わりたくはありません。9月から県外のチームが来てくれて、10月も大学のチームやウインターカップ予選を控えて勝つか負けるかのピリピリした雰囲気のチームと試合をさせてもらいました。公式戦がないウチは緩みもあったんですけど、そういうチームに刺激をもらうことで前よりは良くなっています。

今回、遠征の許可を校長先生にもらう時にも話したのですが、ウチの選手たちはずっと我慢してきました。遠征に行きたくても行けず、ずっと自分の高校にこもって練習してきました。そうしてひたすら我慢してきたことが良い方向に出るように、優勝を目指してチーム一丸となって戦いたいです。

そうやって我慢している分、普段の練習の質は今まで以上に上がっています。「練習の質を上げる」という当たり前のことが、日々実感できるような内容のことを3年生を中心にやっています。彼らのそういうところには期待したいし、出るだけで終わる大会にはしたくないです。