石崎巧

今オフ、少なくない数のベテラン選手たちが引退を決めた。開始から5年目を迎えるBリーグで世代交代が進む中、石崎巧は唯一無二の個性で健在ぶりを示している。卓越したバスケットボールIQで、琉球ゴールデンキングスの躍進をコート内外で支えるベテランに、新シーズンに向けた思いを聞いた。

「相手を出し抜く時の快感は以前よりありますね」

──7月下旬にチーム練習が始まるまで、どのように過ごしていましたか。

練習が始まる少し前から個人のワークアウトは、チームから許可は得られたのでトレーニングルームを使ってやっていました。その前はコーチがZOOMを使って自宅でできるエクササイズを週に2、3回紹介してくれていたので、それに参加していました。それ以外はバスケットに関しては特に何もせずにひたすら休んでいました。

僕の場合は、自粛期間中も普段と比べてそんなにストレスを感じることはなく、いつもの休日を積み重ねたような感じです。ただ、人と接しない時間が長くなるのは選手として良くないとは感じました。

──外国籍選手はジャック・クーリー選手しか決まっていませんが、メンバーの大半が決まりました。新シーズンの陣容を見て、率直な感想を教えてください。

若いウィングの選手たちは練習を見ていてもスキルが高く、そこで厚みが生まれている感じはしています。オフェンス、ディフェンスの両方でフィジカルがあり、かつセンスの良い選手たちです。昨シーズンに特別指定で入ってきた牧(隼利)や(ナナーダニエル)弾も戦力として十分に活躍できる。すごく試合が楽しみだと思います。

──そのメンバーの中で石崎選手の役割はどういうものと考えていますか。

変わらずにやっていきたい部分と、コートに立つ選手や試合の状況が変わった時に変化させていく、柔軟に対応していく部分の両方です。また、フィジカルな選手がプレーする時、そこで違うものを出せる人も必要となる。プレー面に関してだと、昨シーズンとは違う役割になると思います。僕を含め選手たち全員が試合で良いパフォーマンスをするための下地作り、コート以外の役割は変わらずやっていきたいと思います。

──新シーズンはレギュレーションも変わり、外国籍選手3人がベンチ登録可能となりました。この影響をどう見ていますか。

正直やってみないと分からない部分も多いです。それも相手の構成次第ですが、自分はフィジカル的に不安がある分、外国籍選手がアウトサイドでプレーし、そこに対してマッチアップすることはかなり不安ではあります。なかなか身体を張って対抗していくことが難しくなってくると思うので。ただ、それは僕に関してのことで、これから成長していく若い選手にとってはとても良い経験になります。国内でレベルの高い選手とマッチアップするのは、もう一つのレベルに上がっていくための良いきっかけになっていくと思います。

──石崎選手は、かつてドイツでもプレーしていました。今、Bリーグではそれこそドイツの一部など、欧州のトップリーグ経由で来る選手たちも増えています。

外国籍選手のクォリティは上がっています。それに引っ張られて日本人選手のレベルも向上している感触はあり、外国籍だけではなくてリーグ全体のレベルが上がってきています。個人的には化け物みたいな選手が増えてやりづらいと思いますが(笑)、そのすごい選手たちをフェイクや少しの技術で出し抜く時の快感は以前よりありますね。

石崎巧

「みんなが充実したバスケットをできる助けを」

──キングスで4年目を迎え、石崎選手の長いキャリアの中でも一つのチームの在籍年数では最も在籍が長くなります。

一つのチームに何年いるのかは決めてなくて、これまでたまたま3年以上がなかっただけです。だから4年目であることに特別な意味はないですが、キングスに対してすごく信頼する、好意を持つところは多いです。長くいても特に不満がないというか、このチームで何かできればという感覚が湧いてくる。そういうところで在籍年数が長くなっています。

──今オフには実績あるベテラン選手が多数引退しました。同世代として、何らかの影響を受けた部分はありますか。

影響という意味では、特に僕に何かしら与えることはなかったですね。相手チームでも一緒にやってきた選手がいなくなるのは寂しいですが、「誰かが現役を終えてしまったから次は僕かな」と考えることはないです。ただ、それとは別に自分の中で引退した後に何をするのか、そこについて気持ちを強めるきっかけになったのかなと思います。今のバスケットを追いかけるだけでなく、引退した後のこともより考えるようになりましたね。

──石崎選手の年齢になると、ベテランらしさといった働きを求められる部分もあると思います。そこは、どう考えていますか。

ベテランという言葉を自分に当てはめることは嫌ですが、よく言われるベテランらしいプレーをやっているとは思います。とにかく経験値の多さをもってプレーを遂行する確率を高めることしかできない。フィジカルで圧倒することはできないので、相手のタイミングをずらすといったファンダメンタルとは違うスキルを駆使していく。それを続けるしか自分が生き残る道はないとは感じます。ただ、自分がベテランだからこの道を進んでいるわけではない。単純に自分が結果を出せる方法が、周りから見たらベテランの技みたいになる。そういったところはあると思います。

──では、ベテランだからリーダーシップを発揮しなければ、みたいな意識はないと?

僕には一般的な『年長者感』はないです。どういった振る舞いがリーダーシップなのか分からないですけど、声を出して引っ張るとか、自分から何か教えにいく、そういったことはしていません。ただ、自分がその中でやりたいと思うのは選手がどれだけ充実してプレーできるか。楽しいといえば軽い言葉になりますが、バスケットを存分に味わいながら毎日を過ごせるようになれば、より高いパフォーマンスに繋がっていく。そういう思いはあるので、みんなが充実したバスケットをできる助けをしていきたいとは思います。

石崎巧

「若い頃は試合に勝つことが自分の人生のすべてと見ていた」

──新シーズンもキングスを地区優勝の有力候補に推す声は多いと思います。そういった前評判を気にすることはありますか。

長いことやっているので、下馬評というかメンツを見てどうとか、そういう評価は意味がないと思っています。良い個人を揃えるだけでは勝てないですし、ケガもあるのでやってみないと分からないに尽きます。また、僕は他のチームがどんな補強をしているとか調べていないので、そういう人間が開幕前から今年の戦力なら優勝しなければと意識するのはおかしいと感じています。シーズンが始まってから自分たちの強みを見つけて成長していく、そのプロセスを楽しみたいのが今の気持ちです。

──ベテランになったからこそ優勝したいとの思いは強くなるものですか。そこはあまり変わりませんか?

気持ちの総量で言えば変わらないと思います。ただ、若い頃は試合に勝つ、優勝することが自分の人生のすべてと見ていたのが、今はそうじゃないと考えるようになりました。結果を残して優勝したいって思うのと別に、例えば自分を押し殺して優勝してもそれは楽しいのか。優勝に気持ちは向いているけど、それだけでない。他のものに向いていることが多くなりました。だから、優勝だけにこだわる気持ちではなくなりました。

やっぱり組織にいる一人ひとりが自分の意思を持って能動的に動く。その結果としてチームが発展していくのが望ましい。その中で結果を残していくのが良いことだと思います。そのためにも今は与えられたものをこなすだけではなく、これまでの経験を生かして課題をどう克服していくのか。誰かに言われる前に、自分で見つけて実行していくことを意識しています。

──開幕戦は宇都宮ブレックスと対戦します。開幕カードについて特別に意識するものはありますか。

今のところ個人としては、相手が宇都宮ということ以外の感情はないです。会場に行ったら佐々(宜央)と何をしゃべろうかなってくらいですね。もう少し試合が近づけば沸き起こるものがあると思いますけど、今はちゃんと試合ができるのかとか、自分がウイルスに感染せずにその試合に出場できるのかもまだ分からないので、そういう気持ちはないですね。

──最後にキングスファンにメッセージお願いします。

昨シーズンは例年と比べて試合が少ない状態が起きて、皆さんの楽しみが減ってしまいましたが、とにかくまた10月に開幕して皆さんの日常にバスケットボールを取り戻せるようにして行きたいと思います。皆さんもお体には気をつけて、準備が整った際には会場でみんなでバスケットボールを楽しみましょう!