日本経済大の新人インカレ制覇は、大学バスケで長らく続く関東勢力の支配に風穴を開ける歴史的な出来事となった。チームを率いる片桐章光コーチは就任20年目。紆余曲折を経ながら自分たちのスタイルを築き、その成果として全国制覇を成し遂げた。

「 いろんな人たちのサポートがあってここまで来れた」

──新人インカレの優勝おめでとうございます。今の率直な感想を教えてください。

あまり実感が湧いていないというのが本音です。「東海大に勝てるか」が大きなポイントだったので、そこで勝てたら次は優勝だろうと思ってはいました。『東海大は強い』というイメージがずっとあって、選手もスタッフも「戦えない相手ではない」と思ってはいても、実際に40分間戦ってギリギリの勝負を勝ち切れたのは大きかったです。下級生中心のチームということもあって、勝ち上がるごとに勢いが増していきました。選手たちの回復力もすごかったですし、トレーナーのサポートも大きかったです。

──東海大に勝ったあとは決勝まではトントン拍子だったイメージですか?

いや、むしろ一番緊張したのは東海大に勝った後の京都産業大との試合でした。「ここで負けたら話にならん」と思うとプレッシャーがありました。結果的には大差で勝ちましたが、前半はちょっと相手に合わせてしまったのは怖かったですね。決勝の白鷗大とは、4月に試合をしていて、相手のゲームの強度を理解していたし、自分たちもそれを目指してやっていこうと話していたので、ある意味『殴り合い』のような展開になるとは思っていました。

──優勝できた一番の要因は何だと思いますか?

西日本大会で負けた経験です。あの時は選手全員が「自分がやらなきゃ」の気持ちが強すぎて、チーム全体のバランスが崩れました。試合を見ていた人から「日本経済大はボールが2個も3個もないと回らない」なんて言われたくらいです。でも、その負けをきっかけに「自分が犠牲になってでもパスを出そう」と意識が変わったんです。特に(児玉)ジュニアは東海大九州との試合でダブルチームに対してパスを出せずに負けてしまって、その反省を生かしてくれました。

もう一つは、ちょうどその間にあった監督就任20周年の会に、秋田ノーザンハピネッツのアシスタントコーチをしている奈良篤人や愛媛オレンジバイキングスの古野拓巳たち卒業生が練習に来てくれて、実践的なアドバイスをしてくれたんです。出発直前にはNBAのシューティングコーチのデイブ・ホプラが指導してくれました。ステフィン・カリーやマイケル・ジョーダンにシュートを教えた人の指導を受けて、選手たちは大きな自信になったと思います。いろんな人たちのサポートがあってここまで来れました。

「選手たちは多分、死ぬほどキツかったと思います」

──監督就任20周年、ここまでの道のりは険しいものだったと思います。

そうですね。特にここ数年は本当に惜しい負けばかりでした。去年のインカレも優勝した日本大に残り3分まで同点で、本当に良い勝負をしていたんです。その時に、今年2年生のジュニアや大庭(涼太郎)がすごく頑張ったけど、大事な場面でレイアップを外したり、フリースローを2本落としたので、「これを忘れないでやっていこう」と言い続けてきたことが、今回の優勝に繋がったんじゃないかなと思います。

──数年前は、勝てない時期もあったそうですね。

低迷期には監督交代の話もありました。福岡県では男子が福岡第一、女子は日本経済大が優勝して、「この2チームが全国へ行く」みたいな感じだったんです。その頃の我々は県総合にすら出られない時期もあって、チーム内に見たくない部分もいっぱいありました。自分がもっと選手たちを上手く導いてあげられていれば、という思いもずっとありました。

──転機はどのようにして訪れたのですか?

周囲の力を借りながら、練習のやり方から見つめ直しました。隣では強豪の女子チームが練習していて、福岡第一も河村勇輝がいた時期ですごく強かったんです。その2つのチームに共通していたのが、ディフェンスをハードにやって、『相手のやりたいことをやらせない』スタイルでした。ウチにはそこが欠けていたので、原点に立ち返って練習から変えていきました。選手たちは多分、死ぬほどキツかったと思いますけど、そこから結果が出始めました。本当に周りの支えがあったからだと思います。

勝てなかった時期は選手たちの意識が低く、真面目さを欠いていました。それを変えてくれたのが、福岡第一からの留学生、キエキエトピー・アリでした。日本人より真面目で、この子が入ってチームの雰囲気がガラッと変わりましたし、今の留学生2人も同じような高い意識を持っています。留学生がいるチームは、留学生が頑張れば結果が出るけど、頑張らなくても使わざるを得ないので、本人の意識はとても大事ですね。

「地方からでも『日本一を目指せる環境』はある」

──地方から全国で勝ち抜いた『チームづくり』について、どう取り組んでいますか。

今はスカウティングにも力を入れていています。一番はウチのチームに合いそうな選手ですね。福岡第一の選手は1年生の頃からプレーを見る機会があるので、「あの子は性格が良いよ」とか「あの子は真面目だけど、第一では試合に出れない」みたいなことをコーチ陣と情報共有しています。 その中で大学で伸びそうな選手を見極めて、福岡に残して育てていこうと話し合っています。

──マネジメントの部分も強化されていますね。

今は学生スタッフが14人います。三遠ネオフェニックスでビデオアナリストをやっている木村和希たちが最初に始めてくれました。チームが弱かった時期はスタッフも少なかったです。今は学生スタッフも充実し、役割分担ができて組織としてもしっかりしてきたと思います。

──今シーズンこれからの目標を聞かせてください。

前期に掲げていた目標は、西日本大会の優勝以外はすべて達成できています。冬のインカレで『打倒関東』を掲げていたのですが、ここまできたら優勝を目指したいですね。

──新人インカレ優勝で全国的にも注目されるチームになったと思います。応援してくれる皆さんにメッセージをお願いします。

地方からでも『日本一を目指せる環境』はあります。もちろん、関東にチャレンジしたい選手もいると思いますが、九州にも勝てるチームがあると知ってもらいたいです。地方から頑張りましょう!