文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

クリエイター兼フィニッシャーの大活躍

昨日行われたアルバルク東京と千葉ジェッツとの東地区頂上決戦の第1戦。A東京は天皇杯を制した千葉の高速トランジションを封じ、そのお株を奪うカウンターの速攻で14点差の快勝を収め、千葉との対戦成績を4勝1敗とした。

A東京の田中大貴はピック&ロールを巧みに使い、19得点9アシストとオフェンスを牽引。点差を2桁に乗せる場面や流れが相手に行きそうな場面など要所で決める3ポイントシュートは、得点以上のダメージを与えた。

田中はスタッツが示すようにマークが厳しい中でも冷静にパスを供給し、自らも得点を積み上げた。「相手のディフェンスのスカウティングをしっかりして、どういう守り方をしてくるから、どこが空くとかをみんな共通認識を持って良いオフェンスができた」と語る。

実際、田中はマークを2人引きつけた際、俯瞰で状況を見てるかのように離れた選手にパスをさばき、ズレを次々と生み出していった。プレッシャーをかけて近くの選手へボールを返させたいディフェンスの狙いをことごとく裏切った。

「オフェンスは自分がメインでやることが多いので、自分を潰しに来るいうのはどこのチームも一緒です。それに毎試合アジャストするように心がけてます」と田中は言う。

A東京はこれまでに4度千葉と対戦したが、意外にも田中が出場したのは昨日の試合が初めてだった。ケガや体調不良で出場が叶わず「千葉戦の前は呪われてるんです」と苦笑する。

それでも「4試合出てなくチームに迷惑かけたので、その分を取り返すってわけじゃないですけど、しっかりやらないといけないなっていう思いはありました」とモチベーションが高かったことを明かした。

誰かに依存しない、チームバスケの真髄

田中がオフェンスで活躍したのは言うまでもないが、それと同じくらいディフェンスでの貢献も光っていた。機動力を生かしたギャビン・エドワーズの速攻は千葉の大きな武器だが、田中はギャビンへのパスを自陣で何度もパスカットした。ホームの千葉ファンはその度にため息を漏らし、敵地の船橋アリーナを意気消沈させた。

スタッツでは2スティールとなっているが、何度もパスを弾き速攻の出どころを潰したそのプレーは数字以上のインパクトを与えていた。その上、カウンターで速攻を繰り出し、ターンオーバーからの得点で10上回ったことが大きな勝因となった。

「オフェンスもやって、ディフェンスもやって、プレータイムも30分を超えて、もちろんキツイのはキツイです。でもヘッドコーチはそれを求めています」と田中は言う。

「ウチの選手はみんなオフェンスもディフェンスもどちらもしっかりできる。最後の最後まで粘り強く戦えることがウチの強さです」と田中はチームの強さを説明し、「このチームのメインで、リーダーでもある自分もしっかりやらないといけない」と続けた。

昨日の試合では竹内譲次が欠場したものの、ザック・バランスキーと菊地祥平がその穴を埋めた。過去4試合を田中抜きで勝ち越していることもA東京の選手層の厚さ、総合力の高さを証明している。

「全然キレキレじゃないです(笑)」

前述したとおり、田中は19得点9アシスト2スティールを記録。さらに両チーム最長の35分間の出場でターンオーバー0と圧巻のパフォーマンスを披露した。

それでも田中は「全然キレキレではなかったです。正直疲れてますし」と笑う。そのプレーは際立っていたが、本人にとってはこれがスタンダードだということだ。

ただ、こうした良いパフォーマンスができているのは日々の練習があってこそ。「こうやって最後まで力が出せるというのは、日ごろの練習の成果というか、見えないところで力がついてきてるんじゃないかなとは思います」と田中は言う。

今シーズンからチームの指揮を執るルカ・パヴィチェヴィッチは猛練習を課すコーチとして知られ、『試合のほうが楽』と選手がこぼすほどの練習を行っている。シーズン中に厳しい練習をこなすことで、タフな環境に身体が慣れ、心身とも強さを増しているのだ。

チームは長いシーズンを戦う中で練習と試合を重ねてケミストリーを成熟させ、強くなっていくもの。しかし、オーバーワークの懸念や試合のためのコンディション調整を優先するなど、現実的にはただひたすらに追い込むわけにはいかない。だが今のA東京はそのギリギリの線を攻めることで結果を出している。その中で田中は確実にステップアップを続け、A東京を引っ張っている。