マイケル・ジョーダン

ラストシーンで語られる、『7度目の優勝』に向けた本心

マイケル・ジョーダンは『バスケットボールの神様』と呼ばれる。8年間で2度のスリーピート(3連覇)は彼なしでは成し得ない前人未到の記録であり、バスケットボールを単なる競技からエンタテインメントへと引き上げたパイオニアとしての存在感は今なお色あせない。

インターネットがまだ普及しておらず、もちろんSNSでの発信もなかった1990年代、彼はプレーとメディアが作り出すイメージだけで世界的に有名なアスリートとなった。その中で彼はロールモデルであることの大変さをボヤきつつもスター選手を演じ続けた。結果的に、時代を作った男としてジョーダンは『バスケットボールの神様』となったのである。

しかし、この全10エピソードで描き出されるのは、どこまでも人間臭く、喜怒哀楽の激しいジョーダンの姿だ。特に『怒』の感情は常に彼の闘志を燃え上がらせる燃料となり、時代背景を抜きにしてもやりすぎなぐらい、立ちはだかるライバルを次々となぎ倒す、次の対戦で心理的優位に立てるよう完膚なきまでに叩きのめす描写が次々と出てくる。

日本時間の5月18日にNETFLIXで公開された最後のエピソード10では、2度目のスリーピートを達成する1997-98シーズンのNBAファイナルを描きながら、それまでのエピソードを巻き戻して回収していくかのように話が進む。

父親を亡くし、トロフィーを手渡す相手を失ったジョーダンは1996年の優勝を決めた際にロッカールームで喪失感から号泣したが、ラストシーズンには親しいボディガードを父親代わりと見なし、彼に勝利のボールをプレゼントしている。エピソード3でラスベガスへ姿をくらませたデニス・ロッドマンは再びチームを離れてプロレスに参戦するが、抱え込んだストレスを発散して戻って来た彼はカール・マローンを抑え込む。エピソード2でチームのためにプレーすることを拒んだピッペンは、背中を痛めて満足に歩けない状態にもかかわらず最後の勝利をもぎ取るために走り続けた。

ジャズを振り切って6度目の優勝を達成する決め手となったジョーダンの『The last shot』はNBAファンなら誰もが覚えている名シーンだが、このドキュメンタリーを経ることで、受け止め方が少なからず異なってくるはずだ。

この1997-98シーズンは波乱の幕開けだった。シーズン開幕の時点でオーナーのジェリー・ラインズドルフ、ジェリー・クラウスGMがチーム解体を決断し、ヘッドコーチを務めるフィル・ジャクソンに今シーズン限りでの退任を通告したことで、チームは空中分解寸前のところから出発した。2020年のフィルとピッペンは、当時の彼らの考えも理解できると擁護するのだが、物語の主役であるジョーダンだけは『怒』を持ち続けていた。ラインズドルフによるチーム解体の釈明を彼は真っ向から否定し、他ならぬ彼自身が7回目の優勝を目指すことを考えていたと明かす。

最後に引用されるのは、ブルズ入団当時の若きジョーダンの言葉だ。「ブルズを尊敬されるチームにしたい。レイカーズやセルティックス、セブンティシクサーズのように。みんなでそういう未来を築きたい」

8年間で6度の優勝を成し遂げたブルズは、それから20年以上優勝から遠ざかっている。それでも、彼はバスケットボールの歴史を変えたし、何より愛するブルズを2020年の今もなお尊敬されるチームに仕立て上げた。これは、『人間』マイケル・ジョーダンがその偉業を成し遂げるまでの物語だ。