2017-18シーズンに11勝49敗の成績でB2降格の憂き目を見た島根スサノオマジックは、よりタフなチームへと成長して再昇格を果たした。今シーズンは粘り強い戦いの中で勝ちを重ね、41試合を消化したところで11勝を挙げている。新型コロナウイルスの影響でシーズン中断となったが、結果的にB1残留を果たした。2年前の悔しさを知る相馬卓弥は、今シーズンに成長した姿をコートで示した一人。チームとして個人として、何を経験してどう変わったのかを聞いた。
「できないことを環境のせいにしたくない」
──今シーズンも苦しい戦いが続きましたが、粘り強く勝ちを重ねました。11勝30敗とたくさん勝てたわけではありませんが、B1初挑戦だった2年前と比べるとチームとしての成長が感じられたシーズンだったと思います。
B1の他のチームに比べて自分たちに力がないと認めて、だからチームとして戦う、というところからのスタートでした。B2の昨シーズンもそうでしたが、「まずはディフェンスから」と言うユキさん(鈴木裕紀ヘッドコーチ)のバスケットを理解している選手が増えて、失点数もディフェンシブレーティングも悪くなかったです(いずれもリーグ13位)。その部分で自信を持ってシーズンを戦えたことが大きかったです。僕たちは昇格組で、チャレンジャーの気持ちで思い切って戦うんですけど、シーズンが進むにつれて思い切りやるだけじゃなく冷静にプレーすることもできました。
──相馬選手個人としても、思い切りやるだけじゃなく冷静にプレーできたのでは?
そう思います。自分の中でできることとできないことが、いまさらながら分かってきた部分もあります。途中で終わってしまったのは残念ですが、収穫のあったシーズンだったと思います。プレーの面ではピックの部分で、ピックが主流になってくる中で練習はずっとやってきたんですけど、試合の中での精度が高まりました。今までピックを使ってのターンオーバーが多かったんですが、そこで「ここはドリブルをつかないほうが良い」とか「こういう時は行ける」という見極めができるようになったと思います。
ロングの3ポイントシュートも今シーズンから打ち始めて、何本か成功しました。そこはもっと磨いて、レンジを広げて、自分の攻撃のオプションを増やしていきたいです。
あとはメンタルの面ですね。2017年まで在籍した大阪エヴェッサではいろんな面で環境が整っているのが当たり前でした。島根は地方だし、いろいろと整っていない面も正直ありますが、できないことを環境のせいにしたくないと思いました。そういう意味で以前と比べると成長できたと思います。
プレーの面でも思い通りに行かない時に我慢することをユキさんに教えてもらって、河合(竜児)さんからも「人格者になれ」と言われました。それでじゃないですけど自分の変化として、これまではスタメンにこだわっていたんですけど、河合さんに「若い選手を先に出して、僕は後からでもいいです」と自分から言ってシックスマンにしてもらいました。
態度だったり言葉の選び方だったり。年齢を重ねたこともありますし、結婚して子供ができたのもあります。変なプライドを捨てて、いろんなことを受け入れられるようになりました。試合で上手く行かずに怒っていても、家に帰ったら切り替えて落ち着いて振り返ったり。昔はそれができなかったんですよ。それはこの1年で僕も結構成長できたかな(笑)。
「入れ替え戦まで行っても、戦って残留を勝ち取りたかった」
──技術的な部分もメンタルも成長が感じ取れているようですね。行き着く先としての目標はどんなものですか?
シュートもディフェンスも、ユキさんのバスケを学んで自信が持てるようになりました。ディフェンスはユキさんもずっと認めてくれています。オフェンスでは精度をもっと上げる必要があります。そこをもっと高めないと、どのチームに行ってもポイントポイントでしか使ってもらえない選手だと思うので。
僕はプレーヤーとして注目を浴びていない時間が長いので、注目されたいという思いはあります。個人的にはそうなんですけど、やっぱりチームの一員として優勝したい、日本一になりたいですね。日本一を目指すチームでプレーできる、そこで貢献できるプレーヤーとして認められたい思いが強いです。そのためだったらプレータイムは短くてもいいし、いろんな我慢もできると思っています。
──シーズンを通して大変だったことも多かったと思います。集中を切らさずに41試合を戦えた理由は何でしょうか?
勝てない苦しさは2年前に味わっていたし、2年前はもっと勝てていなかったので、そこは切り替えようとチームで話していました。新しく加わったメンバーにも、経験のある僕らから「大丈夫だ」と声を掛けられたので。やっぱりユキさんが指揮を執れなくなったのが一番難しかったです。その時も誰がリーダーというわけでもなく選手はまとまっていて、逆にやってやろうとなっていました。でも、フォーメーションだったり守り方で、ユキさんは1から100まで「こうやっていこう」と決めるヘッドコーチで、そのやり方ができなくなったことには正直迷いがありました。河合さんは「思い切りやってこい」というタイプで、それで迷いを吹っ切ることができたと思います。新型コロナウイルスで試合をやるのかやらないのかはっきりせず、モチベーションをどう作るかが難しい時期もありました。僕個人としては環境に左右されないことをテーマにしていたんですが、やっぱり難しいシーズンではありました。
──残留プレーオフに回る可能性がある状況で、シーズン中止により残留が決まりました。もともと「どんな形でも良いからB1に残留する」のが目標だったと思います。こういう形で達成したことに対して、どんな心境ですか?
難しい、これは本当に難しいです(笑)。自分たちで昇格させたから、自分たちで残留させたい気持ちはありました。たとえ入れ替え戦まで行くとしても、戦って残留を勝ち取りたかったです。そこで負けたらB2の選手になります。言い方は失礼ですけど、やっぱり注目度が全然違うのは経験してきたし、B1でプレーし続けたい気持ちは誰でも持っているので。
島根のブースターの皆さんは本当に優しくて、普通だったらB2に降格したことで応援を止めてしまったり、試合に行く回数を減らしたりすると思うんですけど、ここでは違うんです。数が減ることなく一緒に戦ってくれて、シーズン最後の熊本での試合にも大勢の人が来て一緒に戦って、B1に上げてくれました。そういう部分では今シーズンも一緒に戦ってくれたことには本当に感謝しています。
「皆さんの後押しを今までで一番感じたシーズン」
──シーズンが終わって、今はいろいろと自粛が続いていると思いますが、どう過ごしていますか?
島根はそれほど感染が出ているわけではないのですが、チームとしての練習はやっていません。僕は毎朝7キロ走っています。最初の4キロは1キロ5分ペースで、そこからは流して走ります。トレーニングの器具も買い揃えたので、自宅で結構やれています。
あとは知り合いのトレーナーさんからワークアウトのメニューをもらっているので、車で20分ほどかけて田舎の公園まで行ってやっています。そこはお年寄りが隣でゲートボールをやったりしているんですが、子供とかは全然いない。そこでワークアウトのメニューをこなして動画を送ったりしています。できないのは対人とシュートの打ち込み。島根はほとんどの公園にリングがあって、僕が行く公園にもリングはあるんですけど、外なのでまともにできないんですよ。昨日は風速11メートルで、ボールが曲がる曲がる(笑)。それで変なイメージがつくのは嫌なので、トレーニングや走る時間を増やしたりしています。
島根県で新型コロナウイルスの感染者が出るまでは体育館が使えたんですよ。それまでは毎日シューティングしていたんですけど、今のように一人になった方が追い込めますね。走るのはキツいですけど、音楽を聴いて持ちこたえます。
──この時期にしては個人練習をかなりやっている方ですね。今は身体を休める選手も多いと思います。
僕は休むとすぐに衰えちゃうんです。太りやすいし。次のシーズンがどういう形になるか分かりませんが、そこでゼロから始めたくはないという思いがあります。毎年オフシーズンにはアメリカに1カ月ほど行ってトレーニングするのですが、今年は行ける状況ではないので、先に始めておこうって。今こそ意識高くやっておかないと(笑)。
──今シーズンは新型コロナウイルスの影響による中断があって、無観客試合を最後に終わってしまいました。応援してくれる皆さんに挨拶をする場もなかったと思うので、最後にメッセージをお願いします。
さっきも話しましたが、島根のブースターの皆さんは負け続けていても20点離されていても、どんな時も応援してくれます。そういう部分で後押しされたと感じることがすごく多くて、僕はあまりそういうキャラじゃないんですけど感謝の気持ちは伝えたいと思っていました。今までもずっと後押ししてもらっていましたが、今シーズンは一番そう感じました。
来シーズンがどういう形になるかまだ分かりませんが、質の高いバスケットをするのはもちろん、これまでヤンチャな僕がやってこなかったチームを盛り上げる役も頑張っていきます。リーダーシップも今まで以上に取っていきたいし、シュートの精度やピックの精度、スキルの面でも全般的にアップしている自分をまた応援してもらいたいです。
今シーズンは精神的にも成長できたようですね。昇降格や指揮官交代という出来事も乗り越えた経験を持つ相馬選手なら、今後どんなことが起きても対応できるはずです。そして風速11メートルの中でのシューティング、見たかったです(笑)。#Bリーグ #島根スサノオマジック https://t.co/qa3YWHzOfP pic.twitter.com/VZCzET64XX
— バスケット・カウント (@basket_count) April 30, 2020
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